ライブ完全復活、「生の興奮」を取り戻したアメリカの音楽ファン

フー・ファイターズによる「栄光の一夜」

僕にとってワクチン接種後初めてのライブはフー・ファイターズだった。6月20日、営業を再開したマディソン・スクエア・ガーデンで、ライブミュージックの新時代の幕が開けた。あの夜のポイントは、会場のガーデンやニューヨーク・シティだけじゃない。みんなで一緒に祝うことを思い出させてくれた、象徴的な出来事だった。

この大役にふさわしいバンドは他にいない。デイヴ・グロールほど、ライブの観客を酔わせることを生きがいとする者はいないからだ。なにしろ数年前、スウェーデン公演のステージで足を骨折し、その後ギブス姿で戻ってきて(しかも担架に運ばれて!)最後まで演奏した男だ。心が洗われ、胸が締め付けられ、幸福感に満ち溢れた栄光の一夜だった。だが誰よりも、グロール本人がこの日を待ち望んでいたようだ。「会いたかったかい?」と、彼は冒頭でこう観客に問いかけた。「俺もだよ」

これまでにもフー・ファイターズの最高のショウをいくつか見てきたが、この日はクライマックスの「Everlong」に至るまで、まるで別格だった。グロールの勢いはとどまることを知らず、僕らも口出ししなかった。僕の好きな「Walk」が演奏されると胸の鼓動が高鳴った。2万人の観衆がグロールに合わせて「Learning to walk agaaaaain」と熱唱する。「フォエーヴァー! ウェンネヴァー! 死にたくない! 死ぬもんか!」のパートを迎えるころには、声がすっかり枯れ果てていた。


6月20日、マディソン・スクエア・ガーデンのデイヴ・グロール(Photo by Griffin Lotz for Rolling Stone)

僕は最上段席の安いチケットを購入した。バンドはもちろん、観客の姿も見ておきたかったからだ。ステージの横、文字通り最後方の席で、後ろは石壁、目の前には恍惚とした人々の波。セクション221にいた憎めない暴れ者どもに乾杯――君たちと盛り上がれて光栄だった。次にお互いビールを掛け合う日が待ちきれない。会場にいた誰もがパット・スメアのように満面の笑みをたたえていた。座席に腰かけている者は誰もいなかった。他人のドリンクや、たばこの煙、汗、忘れかけていた匂いが染みついたTシャツのまま、歩いて帰宅した。まさに、再び歩き始めたのだ。

かつてアリーナ公演でイライラしていたものすべてが、今夜は心地よかった(おい、トイレの行列だ――久しぶり! ハグしてくれ、「Free Bird」の時以来だ!)。ワクチン証明書を持参しないと入場できなかったので、感染の心配は無用。会場の外にはワクチンに反対する人々が、「MSGとフー・ファイターズは人道犯罪の共犯者だ」とか「カート・コバーンこそロックンロールの魂だ」といった看板を掲げて抗議をしていた。だが悲しいかな、「ちょっと一言物申す」とか「ファイザー貯蔵庫」とか「企業ワクチンはごくつぶし」という看板を持っている人は1人もいなかった。



この日の山場は、デイヴ・シャペルが登場してレディオヘッドの「Creep」を歌ったこと。誰も予想していなかったサプライズだ。だが、一番感動した場面は終盤、シャペルがマイクを置いた後に訪れた。彼がギターを爪弾きはじめると、まるで立ち去りがたいというかのように、ステージの端にしばらくたたずんで観客をじっと見つめた。他の観客同様、シャペルもこの時間を終わらせたくなかったのだ。

Translated by Akiko Kato

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