アルファ・ミストが語るジャズとヒップホップ、生演奏とビートの新しい関係性

SoundCloud黄金時代、ニューアルバムでの挑戦

―あなたはジャズなどをプレイする音楽家のコミュニティにもいると思います。これまで共演してきたユセフ・デイズやマンスール・ブラウン、ロッコ・パラディーノ、もしくはトム・ミッシュといった面々とはどこで出会ったのでしょうか。

AM:それぞれ別の経緯で出会った。ロンドンのシーンについて誤解している人も多いと思う。ロンドンで活躍しているミュージシャンが全員若い時からの知り合いというわけじゃない。特に自分の場合、最初はビートを作っていて、ジャズと出会ったのはずっと後になってからだから。ジャズと出会ってからも独学で学んだわけで、周りにジャム・セッションをやる仲間もコミュニティもなかった。そういうシーンにいる人たちは、音楽学校に行ってたり、ジャム・セッションをやっていたりして、僕よりもっとシーンの繋がりとか詳しいだろう。自分はずっと後になってシーンを知って、彼らに自分の曲で演奏してもらうようになった感じだね。

トム・ミッシュやジョーダン・ラカイは、もともとSoundCloudを通じて出会ったんだ。2014年あたりにソウルやヒップホップの大きなムーブメントがあって、SoundCloud上にみんなビートをアップしていた。今でも活躍している多くの人たちがそこから出てきたんだ。そこはそこで一つのコミュニティがあった。当時はそんな自覚もなかったけど、今にして思うと、当時のSoundCloud黄金時代がキャリアの土台になった人は結構いると思うよ。

ロッコ・パラディーノとは10年以上前から知り合いなんだ。昔、彼と一緒にバンドをやっていたことがある。マンスールとユセフは割と最近知り合った。いわゆる「ロンドン・シーン」で出会ったのはその二人くらいだね。そのシーンがどう形成されたかは、ずっと後になって入ったから僕は詳しく知らないんだ。


2014年にSoundCloudで公開されたトム・ミッシュとの共作曲「Going Down」

―ここからは新作『Bring Backs』について話を聞かせてください。過去作と比べてもバラエティに富んでいて、使われている楽器も増え、その上でかなり凝ったアレンジが施されています。どんな音楽的コンセプトで作ったアルバムなのでしょうか?

AM:新作のコンセプトは、自分が興味を持っているものを示す9曲を作ること。例えば、「People」はベースを使って書いた曲なんだ。自分はジャズ・ピアニストとして知られているけど、それはそういう(ピアニストっぽい)音楽をリリースしてきたから。でも、僕はベースやギターを使って曲を書くこともある。「People」は曲としてピアノを必要としていなかった。必要ないと思ったから自分はほとんど弾いていないんだ。自分が曲作りにおいて、何が必要なのか考えることを重要視していると示したかった。自分の演奏をただひけらかすのではなくてね。

「Once A Year」はチェロ・カルテット向けに書いた曲で、僕が書いたストリングスをPeggy Nolanというチェリストが4パート全部演奏しているんだけど、この曲もピアノは必要ないと感じたからストリングスだけの曲になった。多岐に亘る自分の興味を見せたいというのが『Bring Backs』の目的なんだ。一曲でやったことだけをとことん追求してアルバム一枚作ることもできただろう。でも、あえてそうはせず、自分の音楽性の幅広さを表現しかったんだ。




―新作の「Attune」では、演奏スキルを誇示するのではなく、ストーリーの一部として機能するようなソロが的確に奏でられているように感じました。こういった楽曲はどういうプロセスで制作されたのでしょうか?

AM:まず、自分だけでピアノや他の楽器を使って全部書くんだ。僕はビートを自分で作れるから、Logicなどのソフトを使って基本的なベースやドラムを重ねることができる。そうやって自分が書いた曲にビートを乗せたバージョンを作って、それをバンドに送るんだ。曲のテーマを彼らに知ってもらうためにね。それから、みんなで集まってリハーサルないしは演奏をする。その段階で変わる可能性はいくらでもあるね。自分が乗せたドラムのアイディアに対して、実際にドラムを叩く人が「こっちのほうが面白いかも」と提案したものを試してみることだってある。そうやってさらに曲が発展していくわけだ。

自分のアイディアを先に送って、それぞれの楽器に精通した人たちによりよいアイディアがあれば任せる。譜面を配るのに近いんだけど、僕は譜面を書けないし読めないから、代わりにビートを加えて伝えるって感じだね。それが曲作りのプロセスだ。

バンドと実際に演奏する過程で、最初に自分が重ねたビートからガラっと変わることもあれば、全然変わらないものもある。例えば「Attune」の場合なんかは、最初のビート・バージョンと比べて、演奏はもちろん断然上手いんだけど、テーマやアイディアはほぼ同じなんだよね。



―新作にはリチャード・スペイヴンが参加しています。彼を起用した理由は?

AM:ロンドンの誰に聞いても、リチャードはロンドンで活動する最高のドラマーの一人だと言うだろう。もう10年、20年と最前線で活躍し続けている。若い頃に行った数少ないライブで、彼が演奏するのを観たことがあるんだけど、本当に素晴らしいミュージシャンだと思った。それに人間としても最高なんだ。彼とは二人で44th Moveというプロジェクトをやってて、去年EPをリリースしている。今作『Bring Backs』でも「Organic Rust」という曲で参加してもらった。彼はヒップホップを叩くのが本当に上手い。間の取り方のセンスが凄くいいんだ。


44th Moveのセッション映像。リチャード・スペイヴンはホセ・ジェイムズやフライング・ロータスなどとの共演で知られる。

―あなたの音楽はストリーミングですごく人気があるみたいですが、ストリーミングが自分の音楽に影響を与えていると思いますか?

AM:確かに、今は、プレイリストの中で聴かれることを前提に曲を書く人もいる。でも、自分はそこを意識しないようにしている。むしろ、アルバムとしてみんなに聴いてもらいたいと思っている。『Antiphon』がYouTubeで数百万回再生されたんだけど、このアルバムには3分以内のヒット・シングルがあったわけじゃない。52分あるアルバム全体で一つの作品だと僕は思っている。中にはプレイリストに入れて貰えるように、1曲が長くならないよう意識して書いたりする人もいるのは知っている。自分の曲をみんなが飛ばしたら、プレイリストから外されてしまうわけだからね。そういうのを考えながら作っている人たちもいて、それは危険だなとも思うけど、同時にそうしない人たちも大勢いるからね。僕もそうしなくても、今のところ順調に活動できている。だから自分がやりたいようにやることが大事なんだと僕は思っている。好きなことをやっているのは聴いた人にも伝わるはずだから。売れるために自分が好きじゃないことをやったら、それは聴き手にバレると思うよ。




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Translated by Yuriko Banno

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