アルファ・ミストが語るジャズとヒップホップ、生演奏とビートの新しい関係性

メランコリックで温かいサウンドの背景

―2020年のEP『On My Ones』は美しいソロピアノ作品でしたよね。メランコリックで印象的なメロディと美しい音色、心地よい反復が印象的でした。作曲されているようにも即興のようにも聴こえます。

AM:あれは自分がピアノを使って作曲をする時の第一段階そのものなんだ。ベースやギターで曲を作ることもたまにある。でも、ピアノで曲作りをする時は、大抵『On My Ones』のような感じで始まる。アイディアを即興で弾き、その中から印象的なものがあれば、それを軸に肉付けして、次にビート・バージョンを作って、それをバンドに渡すという流れ。最初は一人でピアノに座って、即興を交えながら主題を弾くという作業。この作曲における最初のプロセスを発表しようと思ったのが『On My Ones』だ。そのプロセスは今も変わらないから、今後もシリーズ化して発表したいと思っているよ。



―『Nocturne』や『Antiphon』など初期の時点から、ローズ・ピアノもあなたにとって重要な楽器ですよね。

AM:ローズは、サウンドを聴いて直ぐに好きになったんだ。それまで聴いていたピアノと比べると、ずっとソフトな音だ。ピアノはレンジの振れ幅が凄い。激しく弾くこともできるし、弾き方によって全く違うサウンドにできる。でもローズのサウンドは誰が演奏しようと、ローズ独特の優しいサウンドが必ずあるよね。

―エレクトリック・ピアノやローズの演奏が好きな作品や曲はありますか?

AM:チック・コリアの「Chrystal Silence」。ローズの魅力が存分に味わえる温かいサウンドだと思う。自分の音楽のベースにもそういうのを使いたいんだ。音楽に感情を込めたいからね。普段、生活の中で感情を表に出すタイプじゃないので、音楽に全てを注ぎたいと思っている。音楽は自分の感情の吐口だ。その際にローズが凄く役に立ってる。



―フェンダー・ローズはHarold Rhodes博士がアメリカ軍の兵士たちを癒すための音楽療法を目的に発明されたので、あのような柔らかく優しく包み込むような音色だと言われています。あなたの音楽とそういったローズの癒しや安らぎ、心のケアなどの特性は関係あると思いますか?

AM:そんな背景があったなんて知らなかった。教えてくれてありがとう。納得だよ。自分が音楽を作る時、映画のサントラにも刺激をもらっていて、子供の頃の音楽との接点でもあった。あるシーンで音楽が使われることで、登場人物の感情がより強く伝わってくる。何か物事に対する感じ方に音楽が何かしら強い繋がりを持っているに違いないと思った。だから音楽のそういう部分を凄く意識している。ローズの音楽療法を目的に発明されたという話も、凄く納得だ。音楽に癒しを求める人は多い。意識的でなくても、心を落ち着けたい時だったり、どこかに旅に出かける時もリラックスするために音楽をかける。悲しい時も音楽を聴くし、楽しい時も音楽をかけて踊る。音楽は常に僕たちと共にいて、精神を安定させるために寄り添ってくれる存在だ。

―あなたの演奏は、その曲にふさわしい感情やムード、手触り、色彩を奏でようとしている気がしましたが、それについてはどうですか?

AM:演奏する時は、できるだけ自分らしいサウンドに近づけようと思ってやっている。何をするにも自分の色が出る。自分流に演奏することしかできないからね。独自のサウンドを持っている人の音楽を聴くと、そっちのほうが刺激になる。僕は誰かの演奏に、自分っぽさを少し加えているだけ。同じように、自分の曲をバンドで演る時は、誰が演奏するかによって全く違うサウンドになる。自分らしい演奏をしてほしいと思うから。だから、ライヴでその時に組むミュージシャンによって、全然違うサウンドになる。彼ららしい音を鳴らしてもらいたい。音楽を学ぶうえで、人の演奏を真似するのはいいことだと思う。基礎的な表現、伝統的な手法を知るという意味でね。でも、実際に自分が演奏するとなると、自分らしいサウンドを出すことを目指すべきだと思っている。


「A COLORS SHOW」でのパフォーマンス映像。ローズピアノを演奏しながら『Bring Backs』収録曲「Organic Rust」を披露。

―今回の新作も含めて、テンポが遅くて、メランコリックで、どこか曇っているような曲が多いような気がします。

AM:意図的ではなくて、自分の性格から来るものだと思うよ。クラブとかに出かけるのは好きじゃないし、盛り上がる感じの人間じゃないんだ。それが音楽にそのまま表れているんだと思う。音楽を通して本当の自分に近づきたいと思っている。だからパーティー・ソングを作っても、それは自分の音楽じゃない。自分が感じたものをそのまま表現した結果、自然とそういう曲になるんだと思う。

Translated by Yuriko Banno

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE