アルファ・ミストが語るジャズとヒップホップ、生演奏とビートの新しい関係性

ビートメイカーとしてのルーツ、生演奏への相互作用

―若い頃にビートを作っていたという話がありましたが、あなたのピアノやローズのスタイルには演奏家だけでなく、ヒップホップにサンプリングされて、少し変形されていたり、切り取られてループされているピアノやローズの影響もあると思います。

AM:影響は確かにあると思う。ジャズ・ピアノだと最初にスウィングの感覚を教えられるんだけど、ヒップホップにはそれとは別の独自のスウィングがある。だからバンドと一緒に演奏する時、みんなとダウンビートが別の場所に聴こえていたりする。ヒップホップでは、ジャズの曲が始まってから少し経ったところに入れる。曲の冒頭じゃなくてね。始まってちょっとのところか、曲の真ん中のところ。だから、自分の感覚としては、そこが始まりになる。本来あるべき時点ではなく、違うところから始まる感覚がある感覚なんだ。つまり、ヒップホップの影響としては、物事が「1,2,3,4」という順番である必要がない、という感覚を持っているところかな。「3から始めて1、その後に4でやってみよう」という、普通とは違うアプローチを持っている。ヒップホップと、その自由に切り貼りする手法のおかげだね。


Photo by Johny Pitts

―あなたが影響を受けたビートメイカーは誰ですか?

AM:Hi-Tek、マッドリブ、ナインス・ワンダー、J・ディラ。 他にもたくさんいるけど、この4人からは間違いなく影響を受けている。Hi-Tekで最初に聴いたのは、タリブ・クウェリとのリフレクション・エターナル。当然、リリースされた頃よりずっと後に知った作品なんだけどね(1stアルバム『Train of Thought』は2000年発表)。僕はレコード店に通ってディグったりはしなかったから。僕が子供の頃は今とは違う時代だったんだ。みんな音楽はタダだと思っていたからね。(ファイル共有ソフトの)LimeWireとかがあって、ネットで何でもタダで手に入れることができた。そうやって音楽を手に入れていたんだ。

ナインス・ワンダーは特にソウル・ミュージックをよくサンプルしていて、おかげで多くのソウル・ミュージックを知るきっかけになった。マッドリブは、いろんな国の音楽から様々な要素を取り入れていたから、彼の『Beat Konducta』シリーズを通じて各国の音楽について多くを学んだ。特に影響が大きかったのは『Shades of Blue』というブルーノート作品のアーカイブを使ったアルバム。あれは、ジャズ色の強い作品だったからね。

J・ディラは、どこにドラムを置くか、といった曲の構築の仕方を参考にした。彼の場合、自分が聴くようになった頃の作品は全て「Track 169」「Track 58」というタイトルがついていた。だから特定のアルバムや曲名を覚えているわけじゃないんだ。僕が当時聴いてたのはほとんどブートレグだったしね。あと、ザ・ルーツからの影響も大きい。自分にとって彼らはヒップホップを“演奏”するライブ・バンドだったからね。結果的に僕もその道に進んでいるけど、ザ・ルーツがいなければ、それが可能だってことを知らずにいたかもしれない。クエストラヴがドラムを叩いて、ブラック・ソートがラップしている光景を見て、「二つの世界を融合させることができるんだ」って思えたんだ。




―あなたの世代だと、イギリスではグライムやダブステップなどが人気だったと思います。そういったジャンルのプロデューサーからの影響は自分のなかにあると思いますか?

AM:グライムにもいいプロデューサーはいたけど、聴いていたのはもっぱらアメリカのプロデューサーだね。UKヒップホップのプロデューサーに影響を与えていたのも、アメリカのビートメーカーだったしね。僕が育った地域は、東ロンドンのニューアム(Newham)という、いわゆるグライム発祥の地で、その土台を作ったアーティストを多く輩出してきた。だから意識的に探さなくても、当たり前のように日常に流れている音楽だった。家を出た瞬間に流れている。それを自然に吸収してたね。能動的に追いかけたり、研究したわけじゃない。学校に行けば、休憩時間になると、みんなでMCバトルをしたり、作ったビートを披露したりした。周りにあって、友達と楽しいからやってたけど、その道に進みたいというものではなかったかな。

―先ほど映画音楽の影響があると話してましたが、それについても聞かせてもらえますか?

AM:一番古いものだと、ハンス・ジマーの『ラスト・サムライ』かな。彼の音楽は核心を突いている。ハーモニーが単純明快で「このコードなら悲しくなるだろう」って感じ。だから感動的なシーンでは、音楽の難しい理論的なことが全然わからなくても、すぐに感情移入することができた。あとは『HUNTER×HUNTER』のキメラアント編のサントラ。あれは最高だね。思わず検索してサントラを探しちゃったよ。実は大のアニメ・ファンなんだ(笑)。

Translated by Yuriko Banno

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