「ジミヘンの再来」と称される大器、タッシュ・サルタナの運命を変えた決定的瞬間

『Terra Firma』を支えたフィアンセの存在

最新作『Terra Firma』に、サルタナは心血を注いだ。時には週6日のペースでメルボルンにあるプライベートスタジオに入り、合計200日に及ぶセッションを経て、同作は昨年8月半ばに完成した。『Flow State』でも手腕を発揮したRichard Stolzをミキシングにおけるアドバイザーに迎えた他、先述の「ドリーム・マイ・ライフ・アウェイ」に参加したジョシュ・キャッシュマン、ダン・ヒューム、「プリティー・レディー」「クロップ・サークルズ」「ビヨンド・ザ・ライン」「グリード」の4曲に参加したマット・コルビー、そして「ウィロー・ツリー」に参加した高校時代の同級生ジェローム・ファラーなど、同作では複数の共同ソングライターがクレジットされている。

デビューアルバムの全曲の作曲とアレンジ、演奏、プロデュースまでを単独でこなしたサルタナにとって、それは新たな冒険だった。「コラボレーションにこだわりたいんだ」。サルタナは目を輝かせながらそう話す。「すごく楽しいよ。知らずして、パンドラの箱を開けてしまったのかも」



取材中、サルタナのフィイアンセのJaimieは幾度となく会話に参加していた。メルボルンで同棲している2人は、10エーカーの菜園を放置しがちだという。庭に設置しているスケートボード用のハーフランプは傷んでおり、修理するまで使えないそうだ。サルタナとJaimieの性格は正反対で、彼女が整然としていて現実的であるのに対し、夢追い人のサルタナは「時速100万マイル」で走り続けている。

「Jaimieと出会ったことで、ずっと探してた本当の自分になることができた」サルタナはそう話す。「彼女は何でもお見通しなんだ。嘘をついてもすぐに見破られる。彼女に見透かされた人を、これまでに何人も見てきた」

『Terra Firma』ではJaimieのことが多く歌われており、2人だけの合言葉が登場する「ビヨンド・ザ・パイン」と「レット・ザ・ライト・イン」はその最たる例だ。「彼女と出会った頃、自分たちがお互いにとっての日曜のような存在だっていうジョークをかわしてた。1週間のハイライトってこと」。サルタナは小さく笑いながらそう話す。「そして月火水木金土と巡っていくわけだけど、それが永遠のように長く感じられる」



熱波から逃れるように家の中に入ると、サルタナはソファに座ったJaimieを見つめ、引き寄せられるように歩み寄ってキスをした。まるでカーテンを引くかのように、サルタナのロングヘアが横顔を覆った。

タッシュ・サルタナの筋の通った生き方と鮮やかなブルーの瞳は、父親から受け継いだものなのだろう。叶えたい夢、自分の脆さ、そしてアイデンティティ。サルタナは理想とする自分になるまでの過程に、時間をかけるつもりでいるようだ。何よりも成長を重んじるサルタナは、繰り返されるその過程をしっかりと噛みしめようとしている。

「本当の自分に嘘をついたままで、まっすぐに生きていくことはできない」漢方薬草のハーブティーで喉を潤しながら、サルタナはそう話す。「それは誰にでも言えることだと思う。本当の自分を受け入れない限り、自分が辿るべき人生を歩むことはできないし、目標を達成することはできない」短い沈黙を挟み、サルタナはこう言った。「明日死んだとしても、悔やむことはひとつもないよ」


英国ロンドンのAlly Pallyでのタッシュ・サルタナ、2019年6月29日撮影(Photo by Dara Munnis)

From Rolling Stone au.




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『Terra Firma』
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Translated by Masaaki Yoshida

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