ヒット曲はどのように生まれた? Spotifyと振り返る2020年の音楽シーン

Photo by Helene Pambrun (Harry Stiles), ACMA2020/Getty Images for ACM (Taylor Swift)

ストリーミングサービス「Spotify」が、2020年の世界と日本での部門毎の音楽再生回数のランキングを発表した。2020年1月1日〜11月27日までのデータを集計したチャートは、「国内で最も再生されたアーティスト」「国内で最も再生された楽曲」「国内で最も再生されたアルバム」の1位をOfficial髭男dismが独占。また、バイラルチャートや、Instagramストーリーで最もシェアされた楽曲など、Spotify独自の指標から集計されたデータは非常にユニーク。単なるヒットチャートや人気投票とは異なるリストとなっており、様々な示唆を与えてくれる。

今回Rolling Stone Japanは、このランキングについて掘り下げるべく、Spotify Japanのコンテンツ部門を統括する芦澤紀子に話を伺うことに。新型コロナウイルス禍に見舞われた2020年、どんなアーティストが活躍し、どのようにしてヒットが生まれたのか? Spotifyのランキングと芦澤の話からは、音楽シーンの全体像のみならず、それを取り巻く2020年の社会状況が見えてきた。(※文中のアーティストは敬称略)


芦澤紀子(あしざわ のりこ)
ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。(Photo by Rika Tomomatsu)



―Spotifyが日本上陸したのは2016年の秋。ローンチから丸4年を迎えたわけですが、ユーザー数は順調に伸びているのでしょうか?

芦澤:伸びています。サービス開始以来成長を続けていますので、新型コロナの影響があったのかを分析するのは難しいですね。

2018年頃から、日本においてもストリーミングサービスの一般的な認知が広がりました。あいみょん、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)、King Gnuといったアーティストの楽曲がストリーミングで人気を得て、地上波テレビなどで紹介されメインストリームに広がっていったことが、さらにストリーミングの認知度を押し上げたと思います。その頃からユーザー数も急速に伸び、その成長カーブは現在も変わっていません。

―あとは今年8月、米津玄師のサブスク解禁も象徴的でした。

芦澤:あれは時代が大きく動いた瞬間でした。昨年8月に星野源のカタログが解禁され、10月から11月にかけて嵐、年末にサザンオールスターズの解禁がありました。トップアーティストやレジェンドも続々配信をスタートしてきています。

―日本のアーティストにとっても、ストリーミングが無視できない存在になってきていると。ユーザーの男女比率や年齢層はどうですか?

芦澤:大きな偏りはありませんが、女性の方が若干多いです。年齢層については、サービス開始当初と比べ若い世代が非常に増えてきています。平均年齢は20代後半ですが、18~24歳という年齢層が増えてきたことで平均を押し下げています。



―今回のランキングを見ても、若いリスナーの価値観が大きく反映されているのが伝わってきます。既存のJ-POPチャートでは新しい風を感じづらい状況が続いていますが、Spotifyのランキングに目を移すと一気に新陳代謝が良くなっている。

芦澤:Spotifyは様々な形での発見、ディスカバリーをユーザーに提案しています。ヒューマンキュレーションによるプレイリストと、AIによるパーソナライゼーションされたおすすめ(※)、その2つの融合によって新しいお気に入りの曲やアーティストに自然に出会える、新しい音楽を発見できる設計になっているんです。音楽専門のストリーミングサービスとしてスタートし、ユーザー体験の向上を追求してきたSpotifyならではの音楽の楽しみ方だと思いますね。

2020年はそういった楽しみ方が定着する一方で、TikTokなどの新しいソーシャルメディアが登場し、ストリーミングとの連携が加速していたことで、これまでにない形でヒットソングが生まれた年になったと思います。

※Spotifyには新たなお気に入りを発見するため、『Daily Mix』『Release Radar』『Discover Weekly』など、パーソナリゼーションによるプレイリストが豊富に揃えられている。

―Spotifyにとっての2020年は、どういうものだったのでしょう?

芦澤:一番大きかったのは、やはり新型コロナの影響です。Spotifyは国内では従来通勤通学の時間帯に利用する方が多く、平日は朝と夕方から夜にかけて最も利用されていました。ただ、今年は1日の長い時間を家で過ごす生活スタイルになったので、時間帯における再生回数の偏りがなくなり、一日中何かしら聴かれている、「毎日が休日」のような聴かれ方に変わりました。

また、「ステイホーム」をより快適に過ごすためのプレイリストが多く作成され、リラックスしながら楽しめるローファイ/チル系の音楽が聴かれるようになっています。Spotifyは「At Home」というカテゴリーページを新たに開設しました。仕事や家事など何かをしながら音楽を長時間聴く人が増えたため、いわゆる「ながら」で楽しめるプレイリストが人気だった印象です。

デバイスについては、これまではモバイルが主軸でしたが、ホームスピーカーやゲームコンソールで聴く方も増えています。マルチデバイス化が進んだ、とも言えますね。




「在宅勤務中に最も聴かれた楽曲のランキング」をまとめたプレイリスト

―聴かれる音楽の傾向は変わりましたか?

芦澤:大きな変化はありませんが、ひとつ興味深かったのが「懐かしい音楽」のトレンド。困難な状況下において、慣れ親しんだ音楽を聴くことで安らぎを得ようという動きが世界的にあったことがデータで判明しています。たとえば世界中が外出自粛を強いられた4月1日〜7日の期間中、懐かしいお気に入りの曲を集めたノスタルジックなプレイリストを作成するリスナーが54%も増加したとの数字が出ています。

あとは先ほども話したとおり、TikTokで話題になった曲がソーシャルメディアでバズを起こし、そこからSNSで話題になっている曲をSpotifyが独自に指標化した「バイラルチャート」に入り、より広い音楽リスナーやメディアに注目されていく例が多かったです。TikTokからバイラルチャートという流れから、過去の楽曲に再度スポットが当たった事例も目立ちました。

―今年は海外だけでなく日本でも、TikTokが「新しいヒットソング製造機」になっているという声が多く聞かれました。

芦澤:2020年を象徴する楽曲であるYOASOBIの「夜に駆ける」と瑛人の「香水」は、そういった動きの中で生まれたヒットです。今までにない形でバイラルチャートが注目された年でした。

Text by Ryutaro Amano

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