現代はハーフタイムが覇権を握っている時代? 鳥居真道がトラップのビートを徹底考察

アリアナ・グランデの新曲「positions」のMVを「スクショで良いのでは?と思いつつMVをスマホで撮影したもの」


そもそもの話、「Against The Clock」の冒頭で聴こえるクリックのBPMを計測すると176ぐらいなので、倍だと再解釈したテンポこそがデフォルトで、トラック自体がハーフタイムになっていると考えるほうが実情に即しているのかもしれません。つまり、トラップ的なビートにおいてスネアないしクラップが鳴るのは3拍目だと捉えるべきなのかもしれないということです。海外のサイトで「positions」のBPMを調べると、144と出てくるので、やはりハーフタイムとして捉えるほうが一般的な感覚なのだと思われます。

ちなみに、最初に取り組んだ暇な手拍子も、ゼイトーヴェンのように頭を前後に細かく揺らしながら打てばしっくり来るはずです。倍のテンポで頭を揺らしながら「positions」を聴いてみると、アリアナの麗しき歌唱がすすすっと耳に入ってくること請け合いです。

トラップを通じてテンポを倍で取ることの気持ち良さを覚えてから、それまで愛聴してきたファンクのビートの聴こえ方も変わりました。特に今回取り上げた「Position」と同じく、ハイハットが16分で刻まれるタイプのビートです。もっというと、片手で16分のハットを刻んでいるタイプのビート。有名なところだと、ジェームズ・ブラウンの「FunkyDrummer」やビル・ウィザーズの「Use Me」があります。ちなみに、前者はクライド・スタブルフィールド、後者はジェームス・ギャドソンが叩いています。比較的近年の作品には、アンダーソン・パークの「Come Down(Tiny Desk Concert版)」、チャイルディッシュ・ガンビーノの「Have Some Love」、クルアンビンの「August 10」などがあります。これらの曲のバックビートを3拍目だと解釈し直して、ゼイトーヴェンのように細かくテンポを刻んでいくと気持ちの良いことこの上なし。



こうしたタイプのファンクから今度はトラップを捉え返してみると、トラップもファンクの成れの果てという気がしてきます。トラップ=ファンク説。ちなみに、Spotifyの「アメリカ合衆国トップ50」というプレイリストをざっとチェックしたところ、ハーフタイム的なテンポ感の曲がほとんどでした。該当しないのはザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」とBTSの「Dynamite」。そして、フリートウッド・マックの「Dreams」。現代は長らくハーフタイムが覇権を握っている時代といって過言ではありません。まさに終わることのないハーフタイムショー。今回はそんな良い感じの言葉で締めたいと思います。



鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

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Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
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Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12
クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
Vol.13 ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」に出てくる例のリフ、鳥居真道が徹底考察
Vol.14 ストーンズとカンのドラムから考える現代のリズム 鳥居真道が徹底考察
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