ピーター・フックが語るジョイ・ディヴィジョンの永遠性、ニュー・オーダーとの確執

ジョイ・ディヴィジョンについて今思うこと

ーこの間、ローリングストーン誌で隔離期間向けのプレイリストを公開したんですが、プレイリストをつくるにあたってまっさきにピックアップした曲のひとつがジョイ・ディヴィジョンの「アイソレーション」でした。薄気味悪いくらいいまの私たちの状況を予見しているようで。

ピーター:そうだろうと思う。びっくりするくらいぴったりだから。ジョイ・ディヴィジョンの曲にはいくつか、いまの状況についてすごく示唆的な曲がある。



ー40年以上前にレコーディングしたとき、ジョイ・ディヴィジョンの楽曲がこんなにも時代を超えるものになるなんて思ってましたか?

ピーター:うーん、ジョイ・ディヴィジョンはとてもまっとうな軌跡を歩んできた。自分たちらしさを確立するためにすごく格闘してきたんだ。ソングライティングはすぐ上達して、他の人らが書いていたような平凡で退屈なパンクとは違うものになった。(ファンも)どんどん増えていってたよ。レビューの評判も上がっていった。楽曲もどんどんよくなった。そしたらイアンの病気が直撃した。病気が彼を、なんというか、侵し始めると、グループにももちろん影響が出て来た。

いったん影響がではじめるとあっという間で、『クローザー』が完成したころには、みんな凄く心配していた――グループが今後どうなっていくかなんてことじゃなくて――イアンの健康について、ね。そして、周知の通り、バンドは止まってしまった。イアンが願わくば天上のよりよい場所へと旅立ってしまったあと、僕がバーニーとスティーヴ(バーナード・サムナーとスティーヴン・モリス)と一緒にまずやったのは、ジョイ・ディヴィジョンとほとんど縁を切るということだった。それも、凄く奇妙で、悲しみに駆られたやり方でね。

振り返ってものすごくびっくりするのは、それにほとんど時間がかからなかったこと。若いころというのは人生観もまったく違っているでしょ。早くやらないと人に盗まれると思ったりね。もうちょっと時間をかけていたならば、ニュー・オーダーはそこまで苦しまなくて済んだだろう。でも僕たちは溺れかかっていた。藁にもすがる思いで這い上がろうとしていて、そのためにまた一緒にバンドを結成して、ジョイ・ディヴィジョンとは縁を切ったんだ。『クローザー』も「ラヴ・ウィル・ティアー・アス・アパート」も、その後に起こったもろもろも全部なかったことにして、ニュー・オーダーだけに集中した。これは認めなければいけないけど、ジョイ・ディヴィジョンも、たとえばザ・ドアーズみたいな感じで、5年、10年、20年、30年、40年と時が経っていくにつれてもっと人気になるだろう、なんて一度も思ったことがなかった。マネージャーがそう言い出したときは本当にびっくりしたよ。ただ「失せろ」って言ったね。

ー「セレモニー」をレコーディングしたのはある種治療的なことだったのでは? ジョイ・ディヴィジョンからニュー・オーダーへの移行を助けてくれたのではないかと。

ピーター:そうだね。イアンは素敵なプレゼントを残してくれた。「セレモニー」と「イン・ア・ロンリー・プレイス」という2つの素敵な楽曲だ。この2曲を聴くと、ジョイ・ディヴィジョンがもし続いていたらどんなことが達成できただろう、という思いに身を焦がされるみたいだろう。思うに、一番奇妙だったのは、僕たちがまるでタイヤのパンクした車みたいだったっていうことだ。動くには動くけれど、前みたいに走ることはかなわない。しかも、不幸なことに、ニュー・オーダーではずっと、パンクしたタイヤがきちんと修繕されることがなかったように思う。修理はしたんだけど、いつもなんだかがたがたで、でもそれが面白い効果を生んでいたんだ。

バーナードのとてもフラジャイルなヴォーカルがいつも好きだったんだ。というのも、グループ全体を支配するようなことがなかったから。それでも、僕らの音楽には不可欠な要素だった。一方イアンは、いわば音楽の上で歌っていた。彼のかわりは見つからない。実際、かわりを探そうともしなかった。それが「セレモニー」のレコーディングで一番おかしかったことだな。みんな、自分が損しないよう駆け引きしていた。3人とも全員が試しに歌ってみたんだ。どうしても不安な気持ちがつきまとったね。確信が持てなかったから。

そういう初期のカセットを聞き返すと――というのは、10月にニューオーダーの記念品を出品するオークションの準備をしてるので――ほんとにカオティックなんだけど、でもすごかった。それもすごく独特で。ジョイ・ディヴィジョンがカオティックだったことはなかったからね。凄くタイトだった。ニュー・オーダーはというと、ほとんどステージ上でパンツを見せてるみたいなものでね。奇妙にもほどがある。なんて重大な達成かと思うよ。いまだにかつての重要性を失う様子のないグループを後にして、また別のグループを組むと、そっちもまた以前とはまったく異なるかたちで重要なグループになったんだから。


Translated by imdkm

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