ピーター・フックが語るジョイ・ディヴィジョンの永遠性、ニュー・オーダーとの確執

今、息子とジョイ・ディヴィジョンを演奏する意味

ージョイ・ディヴィジョンは、ああいうある種のムードやサウンドを音楽的に取り込んだ最初のバンドであり、言ってみれば自分たちなりのひとつのジャンルをつくりだしたように思います。バンドメンバーが当時聴いていてインスピレーション源になったものはなんでしたか?

ピーター:ふつうだよ。イアン・カーティスは素敵な教師で、スティーヴはなんだか妙なものを聞いてた。でもバーナードと僕はいたってノーマル。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスから始まって、セックス・ピストルズとかのパンクに興味を持つようになった。イアンに会ったのはそれから。イアンは大喜びで僕たちにクラウトロックを紹介してくれて、同じようにヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかイギー・ポップとか、あとはあの素敵なグループだ。みんな僕らのサウンドがよく似てるって言ってた、ザ・ドアーズっていう、あのバンド。イアンが僕ら、つまりバーナードと僕にザ・ドアーズの最初のLPを貸してくれたのは、とても重要な瞬間だった。みんな僕らがザ・ドアーズにすごく似ているって言っていて、イアンはそれに同意してた。でも僕らはというと、「ドアーズって誰よ?」って感じだった。

奇妙なことに、僕らがレコードを手に入れてみると、なんということか、本当にザ・ドアーズみたいなサウンドだったわけだ。ギャグのつもりで、「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」をジョイ・ディヴィジョンのセットで演奏したものだ。誰も気付かなかったけどね。

ースティーヴンが聴いてたっていう妙なもの、なにか覚えてます?

ピーター:ああ、そうだね、ジャズをたくさん聴いていた。チャーリー・ミンガス。


ジョイ・ディヴィジョン(Photo by Kevin Cummins)

ージョイ・ディヴィジョンの曲は、ライブで演奏していくにつれてどんなふうに変化してきましたか?

ピーター:ジョイ・ディヴィジョンみたいに演奏しようとしたことは一度もない。そんなことするほど厚かましくはないよ。ライブでのジョイ・ディヴィジョンはレコードのなかのジョイ・ディヴィジョンとはぜんぜん違ったものだったから。でも、2010年に、ほとんどの人がレコードを通じてしかしらないイアンの生涯を祝おうと思い立ったときに衝撃だったのはそこなんだ。YouTubeにはジョイ・ディヴィジョンのライブ映像がほとんどなかった。録音物の外に実際に存在したジョイ・ディヴィジョンを伝えるものはほとんどなかったんだよ。

ー2010年のリイシューが出るまで、ジョイ・ディヴィジョンのコンサートをフルで聴いたことはほんとになかったですね。

ピーター:でしょ。(プロデューサーの)マーティン・ハネットが僕らにくれたものを祝福したかった。つまり、作品に長い命を与えてくれたことを。彼は僕らの音楽になにかを感じ取った。メンバーのなかでも辛口だったバーナードと僕はそれと戦っていたんだけど。僕らはザ・クラッシュやセックス・ピストルズみたいな音を出したかったんだよ。でも彼は僕らの音になにかを見出して、素敵な贈り物に仕立ててくれた。それで、これは祝福するに値すると実際思うようになった。

しかし(これらの曲を)ライブで演奏する、特に5ピースのバンドとして演奏するというのはまた違う話。僕はいつも歌が始まるタイミングになると脇に退いていたんだ。息子(ベーシストのジャック・ベイツ)がいつも僕にベースを弾いてほしがるものだからね。彼に歌ってもらうべきだったと正直思う。でもシンガーを雇うのは無理で、結局は過激なネットユーザーが僕の候補に挙げていた3人をビビらせて追い払ってしまった。自分で歌い始めてから半年とか1年くらいはこれでいいのか実は自信がつかなかった。でも音楽は素晴らしく感じられた。凄く嬉しかっただけに、ごく注意深く、音楽にできるだけ寄り添うようにした。微妙に変わったところもあるけれど、ほとんどの人は気づいてない。これは良い兆候だと思う。具体的にどこかは教えないけどね。

ー息子さんと一緒に演奏するようになってもう10年経ちます。このことにまだスリルは感じますか?

ピーター:とても素敵だよ。以前は『クローザー』の収録曲を演奏した経験があるメンバーもいなくて、自分がかつてやったように演奏するというのも僕にとってはとても不安で怖かったし、息子がベースラインを覚えていくのを見てるのなんかは一番不気味だった。なにしろ自分が同じくらいの歳だったころとよく似てたものでね。それがはっきりとデジャヴに思えた。ある曲を演奏してるからといってなにか思い出しているわけではない。もう覚えた曲なら、ただ演奏するだけだから。でも演奏を覚えている最中というのは、一番訴えかけてくるものがある。(ジャックが)演奏を覚えていく様子を見ると、自分のことを思い出すんだ。マーティンが勧めてくれたオーバーダブを再現したり。あれは本当に、本当に奇妙だった。

認めないといけないけど、僕がミュージシャンとして経験したもっとも偉大な瞬間というのは、『クローザー』を実際に全編にわたって演奏し、取り戻すということだった。ジョイ・ディヴィジョンの楽曲を演奏するようになって以来、他のメンバーたちとはずっと議論しっぱなしだけれど、それで唯一もたらされた良い成果はいまや彼らもジョイ・ディヴィジョンの曲を演奏しているということだ。ファンにとってはこのうえないことだよ。バーナードとスティーヴンに達成してもらいたいことがあるとしたら、あのアルバムをライブでまるごと再現することだ。やってみると素晴らしい体験だし、素敵なことだ。なぜなら、収録されている曲の大半はスタジオで完成したもので、楽曲の大部分を書き上げたのもスタジオ、歌メロもスタジオで書かれたもの、ライブで演奏する機会は一度もなかったんだから。


息子のジャック・ベイツも参加している、ピーター・フック&ザ・ライトによる2015年のパフォーマンス映像

Translated by imdkm

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