フランク・オーシャンも認めた映画『WAVES/ウェイブス』、監督が語る創作秘話

「再生」を描く中で監督が伝えたかったこととは?

─主人公のタイラーは、周囲の期待による重圧と「自分らしく生きること」の間で葛藤し、取り返しのつかない結果を招いてしまいます。こうしたエピソードを描きたかったのはどうしてでしょうか。

これは僕自身の経験と、タイラーを演じたケルヴィン・ハリソン・Jrの経験をもとにしています。ケルヴィンとは前作『イット・カムズ・アット・ナイト』で出会い、驚くほど意気投合したから、絶対にまた彼と仕事をしたいと思っていました。本作のアイデアを彼に送ったところ、タイラーにすぐ共感してくれて。それからはテキストメッセージを送ったり、電話をしたりして、互いの過去のこと、両親や恋人との関係のこと、当時感じていたプレッシャーなどについて語り合いました。そのやりとりを僕たちは「セラピーセッション」と呼んでいました。

実際、僕らはすごく共通するものがあって、僕はテキサス、彼はニューオリンズで生まれ、共にミドルクラスで僕はレスリング、彼は音楽をやっていました。周囲のプレッシャーも大きく、親からは常に常に見張られているような感覚がありましたね。しかも僕はタイラーのように、レスリングで肩を痛めてしまったことがあるんです。当時は両親の仕事を手伝い、勉強も決して手を抜かず、周囲からは大人として扱われていたので一杯いっぱい。身動きが取れず、かわす方法も知らないから、全てをストレートに受け止めてしまっていました。失敗は許されないと、常にストレスを抱えていたのを覚えていますね。

─そうだったんですね。

10代は大人でも子供でもなく、自分のアイデンティティを探していて、何かしら窮屈に感じているところがある。それがいきなり崩壊し始めたら一体どうなるのか。咀嚼する間もなく、話し相手もいないまま目の前でそれが起きたときに、一体どのような態度を取るのかを、この作品なりに追求したかったんです。

─第2部では、崩壊寸前までいった人々の、それぞれの「再生」を描いています。ここで監督が訴えたかったことを最後に聞かせてもらえますか?

前半で負のスパイラルを描き、最終的に悲劇が待ち受けているのですが、そこから立ち上がることができるのか?を後半で描きました。ルークも、エミリーの家族も僕や僕の恋人の経験がもとになっています。ルークが父親に会いに行くシーンはまさしく僕自身が経験したことで、ずっと疎遠だった父が癌になり、死ぬ前に会いにいかなければと思って恋人と会いに行ったんです。そこで彼を「赦す」ことができたのは、僕にとってとても大きかったと思います。

一方、恋人も同じようなパーソナルな経験をしていて。それらをもとに作っていきました。なので、愛する2人がお互いを助けながら悲劇を乗り越え、成長していく様をいかにリアルに描けるかにこだわりました。人生は山あり谷ありで、人は誰しも谷にいるときに「人生終わりだ」と感じがちですが、そこを越えれば必ず光が待っている。歳を重ねて、その光の部分がいかに大切か次第にわかってくる。そのことを皆さんに感じ取ってもらえたらうれしいです。

<INFORMATION>


『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー(配給:ファントム・フィルム)

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