史上最強のA&R近藤雅信が語る岡村靖幸「色々な方に彼の論文を書いてもらいたい」

田家:というわけでようやく岡村靖幸さんのアルバムに辿り着きました。先週、この放送を聞いていると集大成な気がして、これで終わってしまうんじゃないかと話されてましたけど、全くそうではないというのが今週です(笑)。

近藤:うーん、でも自分で自分のやっていることに飽きちゃったらおしまいだっていう感じはいつもありますね。自分を飽きないようにさせる、っていうことは考えているのかなあ。

田家:色々なアーティストと関わるときに、飽きかけたら離れるということはありそうですか?

近藤:飽きかけたら離れるというとはすごく人間的な感じがするんですけど、レコード会社って、アーティストと、ある期間や枚数の契約をするので、その中で結果を出さないといけないわけですよね。池波正太郎風に言えば、急ぎ働きにならざるを得ない側面はあると思うんですよ。

田家:次々と結果を出さないといけない。

近藤:そうなんですよ。だからそこをどういう風にやっていくかっていうことですよね。

田家:でも今はそういう状態で仕事をされているわけではないでしょう?

近藤:今は2、3枚の作品の中でなんとかしなきゃいけないっていう発想ではなくて、物の考え方が10年サイクルくらいで考えるようにはしていますね。今年以内になんとかしないといけないっていう発想は全くないし、それよりもとにかく良いものを出し続けていくっていうことに何より集中しています。レーベルも自分でやってて、マンツーマンのシステムなので、なんかやりたいと思った時に色々なところに相談したりとかする必要もない。例えば、朝日新聞の見開き全段カラーやりたいなってなったら、自分でやりたいって思えばできちゃうわけですね。そのやり方は、僕には向いているなと思うんです。

田家:岡村さんに話をすればいいわけですもんね。その中で最新アルバム『操』が完成しました。それではアルバム1曲目お聴きください。

岡村靖幸 / 「成功と挫折」

田家:これが出来たときはどういう風に思いました?

近藤:アルバムの心臓ができたなと思いましたね。深く深く満足しました。

田家:これは1曲目用に作ったわけではないでしょう?

近藤:1曲目用にって本人が考えたかは分からないけど、ある時からこれが1曲目なんだろうなっていう風に思ったのかもしれないですね。

田家:岡村さんは常日頃から曲を作っている人だって伺ったんですが。

近藤:そうですね、スタジオが彼にとって遊び場というか。仕事というより生活、生きている場所ということなんでしょうね。そんな感じします。最初の頃は僕がスタジオもどっぷり付き合っていたんですけど、事務所稼業も忙しくなり、ある日を境にスタジオの中は岡村くんの仕事ね、スタジオの外は俺の仕事ねって、徐々にそういう風に僕の中でそうなっていったのかもしれないです。

田家:いわゆる重低音でありながら、見事に計算と精微と風格、品格があるように感じました。「あり金もハリガネも」っていう歌詞が僕はすごい好きなんですよね(笑)。このさりげないユーモアというんでしょうか。そしてギターが小山田圭吾さん。フリッパーズ・ギターの話は先々週に近藤さんに語っていただいて、もう何の違和感もない人選ということになるんでしょうね。

近藤:そうですね、ギター最高ですよね。この不協和音的なファンキーな感じ、大好きです。

田家:このタイトル「成功と挫折」もストレートに感じましたけど。

近藤:天国と地獄、白と黒とか相反するものから物を作り出すっていうのはフォーマットとしてありますよね。言葉をどう使うかっていうところで彼はうまいと思いますね。

Rolling Stone Japan 編集部

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