史上最強のA&R近藤雅信が語る岡村靖幸「色々な方に彼の論文を書いてもらいたい」



田家:アルバム2曲目「インテリア」の後に、3曲目「ステップアップLOVE」。やはり繋がっております。

田家:作詞作曲がDAOKOさん。DAOKOさんもそういう繋がりの中から生まれてきた関係ですか?

近藤:DAOKOちゃんとの仕事は、トイズファクトリーさんからオファーが来ました。最初はプロデュースだったけど、やってくうちにコラボになったのかな。これは『血界戦線』っていうアニメに関わる曲で、エグゼクティブプロデューサーは川村元気さんです。川村さんのやりたいアイデアを受け止めてそれを形にしていく。全体のデザイン力も含めて、彼女との仕事はとても良かったんじゃないでしょうか。良いもの作っても、出し方が良くないと、せっかく作ったのにみたいな反応になっちゃう場合もあるし、せっかく作るんだからきちんと世の中と恋愛してもらえる環境作りがスタッフ含めてできてるか大事だと思うんですよ。

田家:自分たちはそれができていると?

近藤:DAOKOちゃんとのプロダクトではよくできました。



田家:続いてアルバム4曲目、「セクシースナイパー」。近藤さんが関わるようになって、2013年に雑誌『ユリイカ』の岡村靖幸特集がありましたね。あれは近藤さんが仰った環境づくりの1つだった?

近藤:これは『ユリイカ』の編集者の安達さんのオファーだったんですけど、彼女のセンスがとても良かったし熱量もあった。だから了解しました。

田家:さっき近藤さんが色々な方に岡村靖幸を語ってもらいたいって仰っていた意味では、この本は本当に面白かったですね。

近藤:編集者によって、出来が全然違ってきちゃいます。考えてることが優れていて熱量もある人とどれだけ仕事ができるのかっていうのがポイントだと思うんですよね。やっぱり一緒にやるっていう場合には、そこがとても大事だと思っていますけど。

田家:特集の中で坂本龍一さんとの対談がありまして。その中で岡村さんが「坂本さんの音楽はエロい」という話をされていて、二人でセクシーとはっていう話になったのが面白かったですね。ブラック・ミュージックとセクシーって関連しているんでしょうしね。

近藤:ものすごく関連していると思います。日本にいるとついつい音楽の気持ちよさでR&Bとか聴きますけど、歌詞を読むとと体の力が抜けていくような内容も結構ありますよね。

田家:下半身ネタもいっぱいありますしね。そういう意味ではJ-POPの歌詞はすごくオブラートに包まれている。

近藤:国民性なんですかね。

田家:でも一貫している近藤さんのアプローチの中でも、アート性。岡村さんもアートに関心があったりするのは『ユリイカ』の特集の中で見せられた気がして。ああいう形だから初めて分かることもいっぱいあるんだなあって思います。

近藤:彼自身は、普通に写真集を買っていたり、展覧会に行ったりしてものすごくアートが好きなんですよね。それを殊更今まで出すこともなかったですし、出す必要もなかったのかもしれないですし。日常の延長のようにこうやって読まれたら良いなと思いますけどね。

田家:さっきの「モン・シロ」のジャケットも家庭の団欒の写真でして。岡村さんと奥様らしい女性と子供が2人で食事をしている写真のようですが、これはシリーズになっているんでしょう?

近藤:そうですね。岡村くんとアートディレクターの後智仁さんっていう方とのコラボ作品ですね。

田家:家庭とはなんだろうっていうことがテーマになっている?

近藤:そうですね、それがこんな風に表現されていった。

田家:『幸福』と『操』では会田誠さんがお描きになっていて、アート的な色彩が強い。

近藤:会田さんとは『ビバナミダ』も入れると、3作目なんですよね。森ミュージアムで「天才でごめんなさい」っていう展覧会があって、僕は2回観に行き、岡村くんも偶然行っていたんです。それまでは彼の作品を数点しか知らなかったんですけど、色々な作風があって。その中で滝の上に少女が十数人たたずんでいるような絵があったんです。それを見たときに天啓をうけまして。このタッチで書いてもらいたいって。で、岡村くんと相談して、お願いしました。会田さんは岡村くんと同い年で、中学生の時に岡村くんは新潟市に住んでいたんですけど、会田さんも同じ同じ市に住んでいたんですよね。もちろん面識はなかったけど、同じ時代に同じ場所にいたっていうのは大事なもので、そういう出自を僕は大事にするんです。そういった意味で言うと、これは会田さんとのコンビはいいかもと思っています。毎回作品をお願いするときは本人同士でミーティングをセッティングするんですけど、会田さんの世界観と岡村くんの世界観が乱反射していて僕はすごい満足しているんです。

田家:ミーティングはどういう話をされるんですか?

近藤:例えば『幸福』の時は、どういうものが幸福だと思いますか? っていうところから始まって。後日談なんですけど、岡村くんがなかなか掴めない幸福ってなんなのかなって話したことが、娘とお風呂に入っている絵に表されていて。あれは岡村くんが手に入れたくても、手に入れられない幸福じゃないかっていう意味で思いついたっていうことだった。『操』の場合はDAOKOちゃんとかライムスターさんともやったし、今までになく外の空気、色々な人と交わってるんですよって話したら、少年と少女が指切りげんまんしてる絵が想像できたんですって。それでそういう表現になったのと、色味はどうするかって話したらビタミンカラーが強いって話をしたら、それが蜜柑で表されたり。

田家:子供2人がアジア系とアフリカ系と考えると違う意味が出てくるかもしれません。アルバム『操』の5曲目「少年サタデー」。

Rolling Stone Japan 編集部

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