マーティン・スコセッシの音楽:数々の名作を彩るサウンドトラック徹底ガイド

Warner Bros/Courtesy Everett Collection


I: ドロップキック・マーフィーズ「アイム・シッピング・アップ・トゥ・ボストン」(『ディパーテッド』より)

ポーグスの影響下にあるこのマサチューセッツ州クインシー発のバンドは、初期の段階からオイ!と呼ばれるパンクに無数のケルト音楽の要素を持ち込んだ音楽性を追求していた。スコセッシはバンドが2005年に発表したこのカバー(原曲は船乗りたちの労働歌であり、歌詞はウディ・ガスリーが執筆)を、ボストンの地下社会を描いたオスカー受賞作の非オフィシャルテーマソングとして用いており、そのトーンは映画のムードと見事にマッチしている。アイルランド系アメリカ人の警察官とマフィアたちの駆け引きを通じ、古き世界の伝統と新世界における危機感の融合を描く本作は、マーフィーズの荒ぶるサウンドと確かに共鳴している。

J: マイケル・ジャクソン「バッド」のミュージックビデオ

特大ヒットを記録した『スリラー』に続くアルバムのセカンドシングル用ミュージックビデオを作るにあたって、キング・オブ・ポップは超一流のものを求めた。その期待に応えるべく、スコセッシはこの18分に及ぶ歴史的大作を作り上げた。本作は荒い白黒映画のように始まり(冒頭のシーンにはあどけなさが残るウェズリー・スナイプスが出演している)、やがてガラージを舞台としたカラフルなミュージカルへと変貌していく。ジャクソンが『ウエスト・サイド・ストーリー」へのオマージュでもある有名なダンスを披露する場面からは、スコセッシのヴィンセント・ミネリに対する愛情も垣間見える。

K: クリス・クリストファーソン「The Pilgrim, Chapter 33」(『タクシードライバー』より)

ひょろりとした体型が印象的なシンガーソングライター兼俳優の彼は、『アリスの恋』でハンク・ウィリアムズの「I’m So Lonesome I Could Cry」をカヴァーしているが、スコセッシの作品群における彼の最も有名な曲は劇中で流れるのではなく、歌詞の引用という形で登場する。トラヴィス・ビックルは欲望の対象である女性から、彼がクリストファーソンによるディラン調のカントリーソングの歌詞(一部は真実で一部はフィクション まるで歩く矛盾)を思い出させると告げられる。劇中でビックルはそのアルバムを買うが、多くの視聴者も彼に倣った。38年後の現在、その曲のイメージは「神に仕える孤独な男」による大虐殺と分かち難く結びついている。

L: デレク・アンド・ザ・ドミノス「愛しのレイラ」(『グッドフェローズ』より)

エリック・クラプトンによるこの曲は、友人であるジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドに対する叶わぬ恋心を歌ったものだ。当時『グッドフェローズ』のスコアに取り組んでいたスコセッシは、同曲の有名なコーダに一瞬で反応した。彼は警察がギャングたちの死体を発見するシーンの撮影中に、現場でジム・ゴードンのピアノとデュアン・オールマンのスライドギターを擁する同曲の終結部を流し、カメラの動きをその物悲しげな展開に合わせるようにした。曲がフェードアウトするにつれ、ギャングたちの黄金時代の終わりが実感を帯びていく。

M: ヴァン・モリソン「コンフォタブリー・ナム」(『ディパーテッド』より)

このピンク・フロイドの曲のライブカヴァー以前にも、ヴァン・モリソンはスコセッシの作品に参加している。『ラスト・ワルツ』では「キャラヴァン」のハードなヴァージョンが、『救命士』では「T.B.シーツ」がそれぞれ使われている。しかし、レオナルド・ディカプリオとヴェラ・ファーミガのラブシーンを熱く盛り上げるこのスローなカヴァーは、モリソンとマーティのコンビネーションの中でも屈指の出来だ。北アイルランド出身のモリソンはあらゆるサウンドをソウルフルに仕立てることができたが、『ザ・ウォール』に収録されたこの疎外感の賛美歌を、彼は驚くほど超越的に響かせてみせた。誘惑の前兆のような妖艶さは、スコセッシの手腕によるものなのかもしれないが。

N: ハリー・ニルソン「Jump Into the Fire」(『グッドフェローズ』より)

コカインでハイになったレイ・リオッタが演じるギャングスタが、上空のヘリコプターに目を向けながら車を走らせるシーンは、アメリカ映画史において最も緊張感のある瞬間のひとつだろう。彼は逮捕される直前なのだろうか?それともこれもドラッグによる幻覚のひとつなのか?チャートを制した『Nisson Scmilsson』からのサードシングルであるこの曲は、アップテンポではないにもかかわらず恐るべき緊張感を演出している。これぞまさにパラノイアのサウンドトラックだ。「Oh oh ooohs」というフレーズが映画に使われるたびに、視聴者は神経をすり減らすことになるだろう。

Translated by Masaaki Yoshida

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