マーティン・スコセッシの音楽:数々の名作を彩るサウンドトラック徹底ガイド

C:ザ・ローリング・ストーンズ「キャン・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」(『カジノ』より)

『スティッキー・フィンガーズ』に収録されたこのストーンズの名曲を映画に使うとしたら、平凡な監督ならヴァースやフック、あるいはホーンとラテンパーカッションのブレイクを選ぶだろう。しかし、スコセッシの目の付け所はまるで違う。ヴェガスで暗躍するニッキー・サントロのキャリアを描く場面で、7分以上に及ぶこの曲はフルコーラスで使用されている。ジョー・ペシが演じるサントロは、カジノへの出入りを禁止されたことをきっかけに、周囲のすべての人間を欺くことを決意する。曲が流れる中、宝石泥棒や借金の踏み倒し、ショーガールとのセックス、隠し場所に困るほどの大金など、様々な過去がモンタージュ的に描かれていく。曲が終わる頃には、「罪の都市」ことヴェガスにおける新たな保安官の誕生が強烈なイメージとして残る。

D: ボブ・ディラン(『ラスト・ワルツ』)

「私はディランの魅力に気付くのが遅かったんだ」スコセッシは元Time誌の映画批評家Richard Schickelにそう語っているが、彼は『ラスト・ワルツ』におけるディランのパフォーマンスの半分(彼は演奏する4曲すべてを撮影したいという申し出を拒否した)で、カメレオンのようなその変幻自在な魅力を描ききった。そしてスコセッシは後に、ディランが1966年に行った伝説のツアーのドキュメンタリー『ローリング・サンダー・レビュー マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説』で、ディランのエレクトリック期、そして悪名高い「ユダめ!」というくだりの背景を描いた。アメリカの音楽史に革命を起こしたディランと、アメリカ映画界のカンフル剤となったスコセッシという組み合わせは、まさにドリームチームだ。

E: ザ・ドアーズ「ジ・エンド」(『ドアをノックするのは誰?』より)

フランシス・フォード・コッポラが『地獄の黙示録』で使う前に、スコセッシはこのエディプスコンプレックスの象徴といえる曲をラブシーン(?)で使用している。彼にとって初の長編映画となった本作の配給会社がセクシーなシーンを要求したため、スコセッシはハーヴェイ・カイテルと複数の女性がヌードになる場面を盛り込んだ。バックで流れる「その殺人鬼は夜明け前に目覚めた」という恐るべきラインは、非現実的にさえ映るラブシーンに強烈なインパクトをもたらしている。初期のミュージックビデオを思わせるその場面で見せた、ポップとロックのエネルギーとダイナミックさを最大限に活用するその手法は、やがてスコセッシの代名詞となる。

F: アレサ・フランクリン「恋のおしえ」(『ケープ・フィアー』より)

「この曲を知ってるかい?」ロバート・デニーロが演じる精神異常者マックス・ケイディーは電話越しに、ジュリエット・ルイスが扮する反抗的な10大の少女に問いかける。彼がブームボックスの再生ボタンを押すと、アレサ・フランクリンが1967年に発表した、フェアなセックスを訴えるゴスペル調のこの曲が流れ始める。しかしこのR&Bのラブソングは、ケイディーにとっては殺意を掻き立てるためのテーマ曲だった。「信用してよ、俺はフェアな男だからね」彼はそう主張する。ソウルの女王によるB面曲がこの場面では、獲物に忍び寄る捕食者の狂気を浮き彫りにしている。

G: ザ・ローリング・ストーンズ「ギミー・シェルター」(『ディパーテッド』より)

ストーンズの1969年作『レット・イット・ブリード』に収録されている「ギミー・シェルター」は、バンドの作品の中で最も頻繁に映画で使われている曲だが、マーティほどその魅力を引き出せている人物は他にいない。同曲は『グッドフェローズ』ではレイ・リオッタが「ピッツバーグ・コネクション」を確立するシーンで使われているほか、『カジノ』の2つの殺人シーンではライブバージョンが採用されている。しかし『ディパーテッド』における、ボストン南部の社会的混乱の数々を描くシーンでの使用は、他のどのケースよりも印象的だ。同場面の最後にジャック・ニコルソンが演じる暗黒街のボスが登場し、緊張感は最高潮に達する。

H: ジョージ・ハリスン(『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』より)

スコセッシは基本的にビートルズよりもストーンズ派だったが、彼がファブ・フォーの中で最も物静かだったジョージ・ハリスンの3時間半に及ぶドキュメンタリーを手がけたことは意外ではない。スコセッシは本作で、ハンブルクでの下積み時代から世界中にその名を轟かせるまでの彼の軌跡を辿るとともに、ビートルマニアたちの異常な執着心に対する彼の困惑と、彼が最終的に自身の充足を目的としたスピリチュアルな方向へと進んだ背景を描いた。その価値観に共感したスコセッシが手がけた本作からは、ハリスンの東洋の宗教への傾倒、そしてソロとしてのキャリアに対する敬意が感じられる。

Translated by Masaaki Yoshida

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