米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

インターネット上だけではない、リアルな動員力

次に来る疑問は、「Yangstas」と自ら名乗るインターネット上の支援者たちを実際の票に結び付けられるかどうか、という点だ。彼の支援者集会に出かける人はいるだろうか? 彼がボランティアを募れば応じる人はいるだろうか?

ヒューマニティ・ファースト・ツアーと銘打ち、ヤンが2019年4〜5月にかけて大都市で行った一連の演説が、これらの疑問に対する回答だった。ワシントンDCのリンカーン記念堂には2000人が集まり、ロサンゼルスでは3000人、シアトルには4000人がヤンの話を聴こうと集まった。ツアーの最終地となったニューヨーク市のワシントン・スクエア・パークには、土砂降りにもかかわらず2500人が集結した。ヤンが集めた聴衆の数は、大統領選への立候補を表明した何人かの上院議員や知事の集会をも上回っている。この状況に主要メディアも同調し、ヤンはFox News、MSNBC、CNNなどから出演依頼を受けた。

筆者が初めてヤンと会ったのは、彼がニューハンプシャー州を遊説中の2019年6月のことだった。同州では、大統領選の予備選が最初に行われる。雨の木曜日の真っ昼間、ニューマーケットの街角にあるクラックスカルズというカフェに60〜70人が集まった。数週間前にオバマ政権で長官を務めたフリアン・カストロが同店で集会を開いた時はこの半分の人数だった、と店のバリスタが漏らすのを耳にした。

遊説中のヤンには、カリスマ性が感じられなかった。ダークカラーのズボンとライトブルーのオックスフォードシャツ、紺のブレザーでノーネクタイという、いわゆるベンチャーキャピタル・カジュアルのヤンは、人々を魅了したり鼓舞したりしようとはせず、人々を喜ばそうともしない。彼は自分の演説を、先行きの厳しい統計データと切迫した警告で味付けしている。トランプ同様、彼も米国の中産階級がいかに「崩壊しつつある」かを主張する。彼はよく「シリコンバレーの私の友人たち」や、人々の職業を奪う可能性のあるシリコンバレーのテクノロジーを引き合いに出す。

テクノロジーに先見の明を持つ人々が、ロボットが支配するこの世の終わりが来るだろう、と不安を煽るのは珍しい話ではない。しかし今回の大統領選においてそう主張しているのは、ヤンただひとりだ。ニューハンプシャー州での遊説中に集まった聴衆から判断すると、彼は自分の主張に対する支援者を得たようだ。高校生らが「MATH」と書いた青い帽子をかぶっている。トランプのスローガンをもじった「Make America Think Harder」の略だ。クラックスカルズ・カフェでヤンの支援者たちは彼のセリフを覚え、その後の演説中にヤンと聴衆との掛け合いで何を叫んだらよいかを学んだ。

米国人の平均余命が前回3年連続で縮んだのはいつか、とヤンが問いかけると、「1918年のスペイン風邪の流行!」と誰かが叫ぶ。

また、今既に毎年1000〜2000ドルの最低所得を保障している州はどこかと問えば、聴衆は「アラスカ!」と答える。

「財源は何か?」

「石油!」

「21世紀の石油とは何?」

「テクノロジー!」

ヤンはさらに、民主党内で議論されている資本主義か社会主義かの議論は的外れだ、と続ける。「私たちは経済において先例のない変化に直面しています。20世紀の体制や政策は、今の私たちにもはや通用しないのです」

Translated by Smokva Tokyo

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