米大統領選密着ルポ アンドリュー・ヤンによる奔放な選挙活動の内幕「私はネットの申し子」

有権者は、ヤンの反体制的スタンスや近い将来の問題に対する単刀直入な物言いに惹かれている

彼の提唱する「自由の分配」は、職を失った人々をテクノロジー発展前の経済からITを中心とした新たな経済へと移行させる手助けをし、同時に地方経済の活性化にもつながるだろう。さらにヤンは経済状況を測定する主要な手段として、従来のGDPの代わりに「アメリカン・スコアカード」の導入を提唱している。同スコアカードには、平均余命、平均収入、健康成果、大気や水質の状態などが考慮に入れられる。彼が大統領になった暁には、一般教書演説の場でパワーポイントを使用してスコアカードの結果を公表するという。

「私たちはできるだけ早くこのビジョンを国内中に広めなければなりません」と彼は演説を締めくくった。「間もなく国民の皆さんは気づくでしょう。あるひとりの候補者が、トランプ支持者、無党派層、保守派、リベラル派、民主党員、革新派の有権者を幅広く取り込もうとしているのです。彼にご注目ください」

ヤンが演説を終えた後、筆者は聴衆の中をかき分けて何人かに話を聞いて回った。近隣の高校で専門職助手を務め、自らを「政治からは遠い存在」というキートン・ルークがヤンの演説を聴くのは、今回が2度目だった。「テクノロジーに仕事を奪われてしまう状況がすぐそこに迫っています」と彼は言う。「もう間もなく起こるべくして起こることです。ヤン以外にこの点を指摘する候補者はいません」

有権者は、ヤンの反体制的スタンスや近い将来の問題に対する単刀直入な物言いに惹かれている。さらに、高騰する株式市場や成長を続けるGDPと、多くの米国民が苦しみ続ける経済問題との間のギャップに対する彼の主張にも、共感が集まっている。「今後どうなっていくか、国民はわかっています」と、クライバーンDish Fryで出会ったヤンの支援者ジェニファー・ベイリーは言う。「バンドエイドを貼り続けるのはやめましょう。彼は将来を見据えてきました。彼は将来的な問題の解決を論じているのです」

しかしヤンの選挙活動に出かける人々は、自由の分配や仕事の未来について懐疑的だった。ニューハンプシャー州のある女性はヤンに対して、生活していくには年間1万2000ドル(約120万円)では不十分だという前提で、オートメーション化によって職を奪われたトラック運転手やコールセンターの従業員はどうなるのかと尋ねた。

「大いに役立ついくつかの案はありますが、残念ながら現時点では良い解決策とはなっていません」とヤンは答えた。また「仕事の概念を拡大」し、より多くの高校生に職業実習や商取引の体験をさせる必要性も訴える。さらに、自由の分配によって掛け算式に波及する効果についても言及した。彼は、分配したお金が使われる地域のコミュニティでは新たな仕事が生まれるだろうと主張する。「仕事の未来については、長い時間をかけて形成されていくでしょう」と彼は答えを締めくくった。


Photo by Sacha Lecca for Rolling Stone

その後のインタビューでこれらの問題について再度質問してみたが、彼の回答には全く説得力がなかった。彼は「多くのトラック運転手の仕事に将来はありません」と、遊説中に触れた話を始めた。「2018年にニューヨークで9人のリムジンとタクシーの運転手が自殺したという記事を読みました。そのうちの1人は市庁舎の前だったそうです」と彼は続ける。「彼らは経済的に困窮したために、自ら命を絶たざるを得なかったのです。それでも私たちの社会には、さざ波すら立っていません。亡くなった9人の運転手について原因を追求しようという国会議員はいないようです。亡くなった人数が90人、900人、或いは9000人だったら事態は動くのでしょうか? 残念ながら、私の意見では、もうその答えは出ているようです」

Translated by Smokva Tokyo

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