研究室育ちの鴨ムネ肉、その味は? スタートアップも続々参入する代替肉産業の内幕

広義の意味での「代替肉」製品は、近年アメリカで急激に勢いを増している。(Courtesy of Memphis Meats)



畜産業者が出資する「培養肉」マーケット

細胞から肉を生産することで、畜産業の温室ガス排出量を3/4以上削減できる上、水の使用量も90パーセントまで減らせるとヴァレティ氏は考えている。さらに培養肉によって細菌汚染の危険性がなくなり(大腸菌の脅威や大量の糞ともおさらば)、心臓疾患や糖尿病の危険も減らすことができる(培養肉なら、脂肪やコレステロール値の調整が可能)。「我々は、数十億の人間と数兆頭の動物の生活を変えようとしているのです」とヴァレティは語った。

私が初めてMemphis Meats社を知ったのは2018年初頭。Tyson Foods社がヴァレティ率いるスタートアップ企業への出資を発表した時だった。アメリカで消費される肉の1/5を生産している企業が出資するとは、どうも理不尽なように思えた。

Tyson社の牛肉の年間売上高は150億ドル以上。鶏肉は11億ドル、豚肉は5億ドル。さらにHillshire FarmやJimmy Dean、Ball Park Franksといったブランド名で、年間8億ドル相当の加工肉を販売している。

Tyson社は培養肉だけでなく、植物性由来のタンパク質を製造するスタートアップ企業にも投資を始めた。なかでも有名なのがBeyond Meat社だ。同社は大豆やエンドウ豆のタンパク質を原料とするバーガー肉やソーセージ、ナゲットを製造しており、巨額の新規公開株価格で話題を集めた。

広い意味での「代替肉」製品は、近年アメリカで急激に頭角を現している。シリコンバレーのスタートアップ企業Impossible Foods社は自社製品、合成血液で風味付けした植物性由来のハンバーガー肉を世に送り出すべく、3億5000万ドルを調達した。最新のニールセン社のデータによると、この1年で代替肉の小売売上高は一気に30パーセントも上昇した。食肉製品や小売食品の売上成長率をはるかに超える。別の調査でも、肉食を好む人の70パーセントが、週に1度は肉の代わりに非動物性のタンパク質を摂取していることが判明した。

典型的な畜産業者が、常識破りの投資を行った例はTyson Foods社だけではない。別の世界最大手の食肉メーカーCargill Meats社は、Tyson社より数カ月先駆けてMemphis社に出資している。当然予想されるように、ヴァレティ氏の会社にはビル・ゲイツ、リチャード・ブランソンといった著名人、革新的なテクノロジーに特化したベンチャー投資会社Atomico社やDFJ社も何千万ドルも出資している。Cargill社のソニヤ・ロバーツ氏は、Memphis Meats社をこう表現した。「彼らは新しい食肉製造法を開発しています。我が社としては、動物の健康に配慮する消費者にアピールするためにも、この技術が必要なのです」

培養肉を支持する人々は、肉の風味や弾力、噛み応え、肉厚感には植物性由来の製品も決して敵わないと考えている。「なんちゃってパテやなんちゃってナゲットも重要な食品のひとつですが、応用範囲は狭いです」とヴァレティは言う。「人類は何世紀にもわたって肉食を続けてきた。今日、世界の人口の90パーセント以上が肉を食べています。人々が欲するのは、従来の肉とまったく同じ味で、同じように調理できる製品なのです」。別の言い方をすれば、ヴァレティが目指すのは肉の代用品ではなく、豚1頭(あるいは牛1頭)の代用品。骨や臓器、皮がなく、「ブゥブゥ」とも「モー」とも鳴かない代用品を作ることだ。奇妙奇天烈極まりないが、なんとも意欲的な目標だ。だからこそ私も、ラボへいらして製品を試食してみませんかというヴァレティ氏の誘いを承諾したのだ。

Translated by Akiko Kato

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