研究室育ちの鴨ムネ肉、その味は? スタートアップも続々参入する代替肉産業の内幕

広義の意味での「代替肉」製品は、近年アメリカで急激に勢いを増している。(Courtesy of Memphis Meats)



細胞を「蘇生」する方法とは?

バークレーにあるMemphis Meats本社は、ライトグレーのカーペットに大きな窓、開放的なレイアウトで、明るくエレガントだ。ラウンジエリアにあるベジタブルレザーのクッションソファの上には、アルバムジャケットがモザイク状に掲げられている。その中には、従業員お気に入りの、食べ物にちなんだバンドもちらほら。ミートローフ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ソルト・ン・ペパ。

Memphis Meats社には全部で4つのラボがある。どれも真っ白な壁に、顕微鏡、遠心分離機、洗眼シャワー、ビーカーの棚が並び、典型的な研究室のように見える。ヴァレティはこれらのラボをあえて「農場」と呼んでいる。「細胞を培養することは、動物を飼育することと似ています」と彼は説明する。「ですから我々の作業行程も、農場での作業と同じ流れで進んでいきます」

最初のラボは、ヴァレティ氏が「細胞ライン開発チーム」と呼ぶチームの持ち場。どの品種の肉の細胞が培養に適しているかを選定する。ジェノヴェーゼ氏はカリフォルニア州内外の農家と提携し、天然ものから地鶏や養殖まで様々な品種を飼育してもらっている。そこからもっとも良質な筋肉の品種、あるいは特定の肉の風味を持つ品種を選び出すのだ。契約農家はジェノヴェーゼ氏が希望する部位から少量の組織を採取し、ラボに送る――通常の生体検査で採取するよりもずっと少ない量だ。

理論的には、骨だろうと臓器だろうと、動物のどの部位からも培養することができるが、いまのところヴァレティ氏の研究チームでは、我々が直接食べる部位――筋肉、結合組織、脂肪のみを使用している。細胞は液体窒素で保存され、急速冷凍状態にされたあと「蘇生」される。これら検体から、ジェノヴェーゼ氏率いるチームは再生能力に最も優れた健康的な細胞、つまりもっとも増殖しやすい細胞を特定し、選別する。

見学の途中、ヴァレティはシャーレを培養器から取り出し、顕微鏡に設置して底を照らし、のぞいてみるようにと言った。「二等辺三角形のような、小さなイモ虫のようなものが見えるでしょう? あれが筋肉形成細胞――いわゆる“スターター細胞”です」と彼は言った。顕微鏡を調整して、夕闇に青白く光る星が散らばったようなところにピントを合わせる。2つの細胞は、長方形というよりも丸みを帯びていて、対になって互いに身を寄せ合っていた。「細胞分裂ですよ!」とヴァレティが叫ぶ。生命の原初の奇跡を目の当たりにしたのは初めてだった。生きた細胞が再生する瞬間。理論的にはまったく同じ細胞が再生されるのだが、そのためには特定の条件と原料が必要になる。そこで我々は次のラボ、「飼料開発チーム」のラボへ移動した――細胞の成長に必要な特殊な培養液を配合する場所だ。

Memphis Meats社の科学者の一人、K.C.カーズウェルは、細胞に栄養を与えるのがいかに複雑かを説明してくれた。「細胞は牧草をそのまま食べることはできません――牧草に含まれる成分を摂取するのです。牛の身体でいえば、胃で分解されたものを食べるわけです」 カーズウェル氏は自分の仕事を一種の「バイオミミクリー」――自然界に存在する営みを模倣する試みだと語った。「牛の体内で行われているのと同じように、細胞が栄養を摂取して、成長因子を獲得できるようにするのです」。カーズウェル氏のチームは、タンパク質、脂肪、ホルモン、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの配合を変えて作った培養液を、毎日何十種類もテストしている。血液は動物が摂取した栄養を核細胞に届けるが、培養液はまさに血液の役割を果たしている。伝統的に、科学者たちは組織の培養にウシ胎児血清を用いている。細胞の成長に必要な栄養素が豊富な物質だが、ひとつだけ難点がある――牛の胎児から抽出しなくてはならないため、金銭的にも、また環境や倫理面でも負担が大きいのだ。

Translated by Akiko Kato

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