プリンスは望んでいるのか?遺産管理人たちによる権利ビジネスの行方

2009年3月28日、ロサンゼルスで演奏するプリンス (Photo by John Shearer/WireImage)


「一番売れている男」

プリンスが死んで1年間は著しいカオス状態だった。家族の弁護士たちが入ってきては消え、エンターテインメント・アドバイザーもチャールズ・コッペルマンとL. ロンデル・マクミランの2人が就任して解任された。ユニバーサル・ミュージックは、プリンスがワーナーを離れたあとの90年代半ばに作り始めていた音楽の権利を購入した。これは、ワーナーは当初言われていた時期から何年も経過しないと音源をリリースできないという条件が発覚したため、その条件を消滅させるための措置だった。

そんな状況をよそに、経費は増える一方で、2017年にダラス拠点の銀行であるコメリカ・バンク・アンド・トラストがブレーマー・トラストから管理を引き継ぎ、暫定的に特別管理責任者として任命されている。現在まで、エステートがコメリカに支払った裁判料金と経費は590万ドル(約6億5400万円)だ。プリンスと片親が違うシャロン、ノーリーン、ジョンのネルソン3兄弟姉妹は銀行のやり方への不満を公言しており、銀行の管理不行き届きの責任を問い、銀行の裁判料金を差し引くと「遺産相続人には遺産がほとんど残らない」として裁判所で争っている。彼ら以外のプリンスの兄弟姉妹のタイカ、オマー、アルフレッドはそれぞれが弁護士を雇っていて、彼らのような問題を提起していない。それどころか、唯一プリンスと両親が同じタイカは、銀行の管理の仕方に満足しているとすら述べている。「彼らは最善を尽くしてくれているわ。私にもちゃんと報告してくれる。彼らは銀行よ。エンターテインメント企業じゃないんだから」と。コメリカは、期間は未定だが、今後もプリンスの遺産を監視し続け、その期間が終了すると6人の兄弟姉妹がプリンスの遺産管理を引き継ぐことになる。

プリンスの死後1年間に2〜3のプロジェクトが立ち上がった。2016年秋には、プレスリー邸宅跡のグレイスランドを運営する会社のガイダンスに従って、ペイズリー・パークがミュージアムとして公開された。プリンスを知る人たちの中には、このアイデアに眉をひそめる者もいた(プリンスが禁酒していたことを知る人たちは、今年初めに同所で行われたスーパーボウル・パーティーで酒が提供されたことに不快感を表しもした)。しかし、タイカ・ネルソンによると、生前のプリンスは敷地のミュージアム化計画を考えていたと言う。「敷地内を歩き回って『これはこの部屋に置きたい』とか、『これはあっちの部屋だな』とか言っていたわ。私が『じゃあ、この衣装はどうするの?』と聞くと、『この部屋に飾りたい』と答えていた。兄の頭の中には壁に展示されている構図がすでにあったと思うし、それに従って現在のミュージアム・スタッフが展示品を展示しているのよ。みんなが目にするものは兄のビジョンを具現化したものなの」と述べた。


プリンスのペイズリー・パーク・ミュージアム内の「Under the Cherry Moon」と「Graffiti Bridge」の展示室(Photo by Adam Bettcher/Getty Images)

プリンスの商業的な価値とその商品化の可能性を世間に知らしめた最初の出来事がおきたのは2017年11月だった。一流のオークションハウスの一つであるジュリアンズが、毎年恒例のロックのメモラビリア・オークションにプリンスが所有していた青のクラウド・ギターを出品したのである。このギターは、1994年にカリフォルニア州ノースリッジで起きた地震の被害者救済の寄付金を募るためにプリンスが寄付したもので、6〜7万ドル(約660〜770万円)で売れると予想されていた。ところが、匿名のミュージアムがこのギターを70万ドル(約7700万円)で落札したものだから、人々は衝撃を受けたのである。「あれで人々は気づきました」と、ジュリアンズの専務取締役マーティン・ノーランが言う。「あの一件で『うわっ、プリンスが今ホットなんだ。一番売れているのはこの男なんだ』と気付いたわけです」。

これを受けてジュリアンズは5月にプリンスの遺品のみのオークションを実施した。このときはプリンスの前妻メイテ・ガルシアが寄付した品物を目玉に、収集家や無名の家族から寄せられたアイテムを出品したのである。(このオークションにプリンス・エステートは参加しておらず、売上金も受け取っていない。) 黄色のギターが22万5000ドル(約2500万円)で、プリンスの衣装の中には10万8000ドル(約1200万円)で売れたものがあり、最終的に200万ドル(約2億2000万円)近い純益となった。これは近年他界したミュージシャンの遺品オークションでは破格の売り上げである。プリンス以前にジュリアンズでオークションにかけた遺品のもあるが、ホイットニー・ヒューストンのジャンプスーツが2万5000ドル(約280万円)で落札され、ジェームス・ブラウンの死後に複数の遺品が出品されたが、それぞれのアイテムが「数百ドルで落札された程度だ」と、ノーランが説明してくれた。

2018年内に実行されるプロジェクトの中にはプリンスの家族が引き継ぐ前に決定していたものもある。その一つが彼の書籍であり、もう一つが「4U: A Symphonic Celebration of Prince」だ。後者はウォルフ・トラップ・オーケストラが行う秋のツアーで、クエストラヴが選曲し、キューレートしたプリンスの楽曲のオーケストラ・バージョンを披露する公演となる。タイカによると、このプロジェクトは家族が始めたものではなかったが、「彼らは本物のミュージシャンで、兄は本物の音楽が好きだった」から許可を出したと言う。

家族が引き継ぐ前に決まっていたもう一つのプロジェクトが、ユニーバサル傘下の商品販売会社Bravadoが監督するプリンスグッズの新シリーズで、2018年内に販売開始されることになっている。プリンスグッズにはTシャツ、スウェットシャツ、ナンバープレート、マグカップ、収集家向けコインなどがあり、現在はミネアポリスのターゲット・フィールドにあるミネソタ・ツインズの公式ストアで購入可能だ。各アイテムにツインズのロゴとプリンスのラブシンボルが印刷されており、エステートの要望によりミニマルなデザインが施されている。今年ターゲット・フィールドで行われた「プリンス・ナイト」スペシャルでは、プリンスに敬意を表して、彼の紫のギターを模した風船を参加者にプレゼントした。タイカによると、エステートは、近い将来プリンスの衣装やグッズを販売する“大きな販売者”との契約を締結するということだ。

Translated by Miki Nakayama

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