プリンスは望んでいるのか?遺産管理人たちによる権利ビジネスの行方

プリンスならどう思うか?

プリンスがみんなに聞いてほしいと思うものや体験してほしいとおもうものは何か。そして彼が嫌うことは何か。彼が遺した資産を運用する計画を立てるとき、この問いが必ず確認される。「彼の遺産がバーガー・キングの広告みたいにならないことを神様に願っているわ」と、レボリューションのギタリスト、ウェンディ・メルヴォインが2017年にローリングストーン誌に述べている。「私の言いたいこと、わかるでしょ? みんなが強欲にならないことを願っているのよ」と。

ホログラムでのツアーから、プリンスの音楽をフィーチャーしたシルク・ドゥ・ソレイユ風の公演やブロードウェイ・ミュージカルなど、以前さまざまなプロジェクトが噂されたが、タイカはすべて提案に過ぎないと断言した。「イエスと返事をした提案は一つもなくて、単純にアイデアというものだった。契約書もない。プリンスはミュージカルをやりたかったけど、彼はステータスが嫌いだったの。ホログラムは論外ね」とタイカが説明した。しかし、2018年2月のスーパーボールでのジャスティン・ティンバーレイクのハーフタイムショーで、ホログラムが一度も成功していないと報告を受けながらも、ティンバーレイクの背面でプリンスのイメージを使用することをエステートが許可したと、タイカは強調する。「あの会場にプリンスのイメージを出すのは悪くないと思ったの。けっこういい感じだと思ったけど、人はあれこれ言いたがるから」と。

プリンスが遺した音楽となると、決定はもっと複雑になってくる。「すべての辻褄を合わせると考えたとき、大きなプレッシャーが押し寄せた」とカーター。「楽曲のバージョン数がいくつもあった。その中の何がリリース済みで、何が未発表なのか、どの曲が完成版なのかを確認しないとダメだったね。それに、まだ自分の望む曲になっていないから聞かせたくないとプリンスが思う曲はどんなものかも考えないとダメだったんだ」と説明する。

決断の中には楽なものもあった。プリンスの遺産保管庫の中には「W」のラベルが貼られた箱がいくつかあった(パフォーマンスに満足できないものにweakを意味する「W」のラベルを付けるようにプリンスはロジャーズに指示していた)。逆にプリンスが気に入ったトラックには星印が付いていた。「確実だったことは、プリンスが絶対人に聞かせたくないと思ったものはその場で廃棄してたってことよ」とロジャーが言う。エステートとカーターはプリンスが望むものを決める助けをさまざまな時代のコラボレーターたちに求めた。彼らは録音物から色彩設定までアドバイスしてくれたと言う。

カーターによると、プリンスは死ぬ前にいくつかのプロジェクトの計画を記したノートを遺していた。その中の一つが、「Purple Rain」の拡大版と、2017年にリリースされたプリンス自身が選択した曲の珍しいディスクをフィーチャしたデラックス版に対する考えだった。それ以外の曲に関しては「自分たちでできる限り良い判断をするだけだ」とハウが答えた。

カーターはプリンスが「ライセンス契約をかなり嫌っていた」と認めている。そのため、これまでプリンスの楽曲がCMや映画で使われることはほとんどなかったのである。しかし、エステートは映画やテレビシリーズでプリンスの楽曲を使用できるようにする予定だ。使われる場面が楽曲に適している場合にはプリンスの楽曲が映画で流れる可能性があるだろうと、タイカ・ネルソンが言う。「みんながセックスしているシーンとかね。そういうお願いがたくさん来ているの。使用料もかなり高額よ。でも、兄がそれを許すかしら? 彼は『Let’s Go Crazy』をセックスシーンで流すなんて、きっと嫌がるわ。『Darling Nikki』ならいいかもね。それじゃなきゃ、『Do Me, Baby』 かしら」。

プリンスが公民権の支持者と知っているカーターとエステートは、『Piano and a Microphone』収録の19世紀の黒人霊歌「Mary Don’t You Weep」をスパイク・リー監督の新作『BlacKkKlansman(原題)』で使用することを許可した。ロジャーズは、この演奏は「少し不敬な感じに聞こえるけど、神聖さと不敬さが上手くブレンドされているのがハッキリとわかる。彼の魂が押したり引いたりしているの」と説明してくれた。カーターはこの映画の初期の試写会に招かれたが、その時点ではまだ音楽はついていなかった。しかし、映画の最後のシーンには2017年にバージニア州シャーロッツビルで起きた事件の記録映像が使われていたのを見て、カーターはスマートフォンに入っていた「Mary Don’t You Weep」を呼び出し、試写会の途中でリーにヘッドフォンを通して聞かせたのだった。「スパイクは本当に驚いていたよ」とカーター。「あれは骨まで凍りつくような曲で、あの作品にとても合っていた」。

しかし、エステートの監視者全員の意向に沿って、プリンスのレガシーを最大限に活用することが、かなり大変な状態になっていると、カーターは認めている。「プリンスのレガシーを維持しながら、彼のアーティスティックな品位を守り抜きつつ、エステートのために遺産のいくつかを商業化するにはどうしたらいいのか? 『プリンスならどうするかに忠実に従う』として決断していたら、遺産を管理しながらエステートを運営するなんて絶対にムリなんだよ」と、カーターが述べた。

Translated by Miki Nakayama

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