デヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」を巧みにちりばめた冒険物語

『ワンダーストラック』角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中(©2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC / Photo by Mary Cybulski)

過去と現在をつなぐという意味でも、最近の映画やドラマの劇中歌が果たす役割は大きい。物語を盛り上げる「曲」にフォーカスし、そのメッセージや背景を掘り下げる連載「サウンド・アンド・ヴィジョン」。第二回目は映画『ワンダーストラック』で使用された「スペイス・オディティ」を取り上げます。

※この記事は3月24日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.02』に掲載されたものです。

1977年のミネソタ州。シングルマザーの母を交通事故で失った12歳の少年ベンが、実家でニューヨーク自然史博物館発行の本『ワンダーストラック』を発見した。そこには博物館の近くで営業する書店のしおりが挟まれており、「愛を込めて、ダニー」と書かれていた。ダニーがこれまで一度も会ったことがない父親だと直感したベンは、落雷事故で聴覚を失いながらもニューヨークへと旅立つのだった。



一方、さかのぼること50年前の1927年。ニュージャージー州からやはり耳の聞こえない少女ローズがニューヨークへと向かっていた。彼女は崇拝する映画女優リリアンの舞台を観るため、また自然史博物館で働く兄ウォルターに会うために厳格な父が支配する家を抜け出していたのだ。

『ワンダーストラック』は、異なる時間軸を生きる少年少女を主人公にしたファンタジーだ。当初は別々に描かれていた物語は、2人が自然史博物館に迷い込むと交錯しはじめ、やがて思わぬ融合を果たすことになる。

そんななか、ヘインズが唯一自己主張しているのが音楽の使い方だ。回想シーンでベンの母が聴いているのはデヴィッド・ボウイの初期の代表曲「スペイス・オディティ」。地球の美しさに魅せられた宇宙飛行士が宇宙空間へと旅立っていく姿を描いたこの曲の“さあ、勇気を出してカプセルから出るときがきた”という歌詞の「カプセル」は本来、宇宙船を指したものだが、映画内で流れるとベンとローズがそれまで暮らしてきた小さな世界のメタファーにも聞こえてくる。そう、ヘインズは、2人の冒険の旅のテーマソングとして「スペイス・オディティ」を選んだのだ。さすがグラム・ロック期のボウイをモチーフにした『ベルベット・ゴールドマイン』(1998年)でブレイクした男だけある。


「スペイス・オディティ」
デヴィッド・ボウイが1969年に放った彼にとって最初のヒット曲(英国5位、米国15位)。中盤に炸裂するメロトロンによるスペーシーなソロは、この後イエスに加入してプログレッシブ・ロック界で最高のキーボーディストと目されるようになるリック・ウェイクマンの手によるもの。


ボウイの熱心なファンはこの選曲に時代のズレを感じてしまうかもしれない。「スペイス・オディティ」がリリースされたのは1969年で、アメリカでヒットしたのも1973年と、ベンの物語より少し前のことになるからだ。しかしそんな疑問にヘインズは選曲で答えてみせる。

MachizoHasegawa

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