デヴィッド・ボウイ「スペイス・オディティ」を巧みにちりばめた冒険物語

その曲こそが、エンディングで流れるラングレイ・スクール・ミュージック・プロジェクトによるカバー版「スペイス・オディティ」。ラングレイ・スクール・ミュージック・プロジェクトとは、カナダ西部のラングレイ小学校で行われていた“ロックの有名曲を子どもに演奏させる授業”のことで、その成果を録音したアルバムはもともと生徒の親に配られた自主制作盤でしかなかった。しかしゼロ年代にマニアに発見されると拙くもピュアな歌心が評判を呼び、最終的にはCD化までされて世界中でカルト・ヒットを記録している。ちなみにウィングス「バンド・オン・ザ・ラン」やビーチ・ボーイズ「グッド・ヴァイブレーション」等とともに「スペイス・オディティ」が録音されたのは1976年から1977年にかけてのこと。つまりこの曲を歌っているのはベンとまったく同年代の子どもたちということになる。



しかもヘインズは駄目押し的にブラジル出身のアレンジャー、デオダートによるファンキーな「ツァラトゥストラはかく語りき」を映画のラストに流してみせる。この曲の原曲はドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウスによる交響詩で、スタンリー・キューブリック監督のSF映画の古典『2001年宇宙の旅』(1968年)で使われたことで一躍有名になった。この『2001年宇宙の旅』にインスパイアされてボウイが作った曲こそが「スペイス・オディティ」なのだ。

過去と現在が錯綜するストーリー同様、ヘインズは「スペイス・オディティ」を巡る連想ゲームを映画の中で繰り広げているのである。


長谷川町蔵
文筆家。最新刊は『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)。その他の著書に『あたしたちの未来はきっと』(TABA BOOKS)、『21世紀アメリカの喜劇人』(スペースシャワーブックス)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)など。

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