キングスマン続編で使われた70年代大ヒット曲の秘密

『キングスマン:ゴールデン・サークル』(©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation)

過去と現在をつなぐという意味でも、最近の映画やドラマの劇中歌が果たす役割は大きい。物語を盛り上げる「曲」にフォーカスし、そのメッセージや背景を掘り下げる連載「サウンド・アンド・ヴィジョン」。第一回目は映画『『キングスマン:ゴールデン・サークル』で使用された「故郷にかえりたい(カントリー・ロード)」を取り上げます。

※この記事は昨年12月24日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.01』に掲載されたものです。

表の顔はロンドンの高級テーラー、だがその実態は英国紳士だけが所属できるスパイ機関“キングスマン”。その一員である若者エグジーは敏腕エージェントとして活躍していた。しかしある日、謎の麻薬カルテル“ゴールデン・サークル”によってキングスマンは壊滅。何とか生き残ったエグジーとメカニック担当のマーリンは、緊急事態に備えて準備されていたマニュアルに従って行動するのだが……。



世界中で大ヒットしたマシュー・ヴォーン監督の『キングスマン』第2弾『キングスマン ゴールデン・サークル』(現在公開中)は、英国スパイ映画へのオマージュが濃厚に漂っていた前作と比べると、世界観がぐっと広がったものとなった。なぜなら今作では、タロン・エガートン演じる主人公エグジーが協力を申し出る相手として、アメリカのスパイ機関“ステイツマン”が登場するのだから。このステイツマンの設定がすごい。表の顔はバーボンウィスキーの蒸留所で、エージェントはこぞってテンガロン・ハットとカウボーイ・ブーツを着用。おまけに武器として投げ縄を操るのだ。

そんな奴らが登場することを反映するかのように、主題歌的に流れるのが、かつてアメリカを代表するシンガーソングライターだった故ジョン・デンバーが1971年に放った大ヒット曲(最高2位)「故郷にかえりたい(カントリー・ロード)」だ。この曲は映画冒頭にバグパイプ・アレンジで奏でられるばかりか、クライマックス・シーンで重要な役割を果たす。この曲をこよなく愛するマーリンは劇中、エグジーにこう語る。「俺はカントリー&ウェスタンが好きなんだ」



実はこのセリフこそ、ヴォーンが本作のコンセプトを観客にさりげなく説明したものなんじゃないだろうか。というのも、「故郷にかえりたい(カントリー・ロード)」はカントリー&ウェスタンの曲ではないからだ。元々ジョン・デンバーはフォーク畑の出身で、ボブ・ディラン「風に吹かれて」を初めてカバーしたフォーク・グループ、チャド・ミッチェル・トリオのメンバーだったこともある男。その音楽性はアコースティックなものではあるけれど、洗練されたものであり、カントリー特有の土臭いフィーリングや、ブルースやブルーグラスからの影響があまり感じられない。

「故郷にかえりたい(カントリー・ロード)」の曲中の主人公は、ブルーグラスの故郷アパラチア山脈の中にあるウェストバージニア州の出身という設定だが、父親が空軍勤務だったことから子ども時代は全米各地を転々としていたデンバーには故郷と呼べる場所はなかった。ウェストバージニア州には行ったことすらなかったという。「故郷へかえりたい(カントリー・ロード)」で描かれた故郷の風景は、転勤族の子どもだったデンバーが脳内に思い描いたバーチャルなものだったのだ。

そんな曲を用いることによって、ヴォーンは笑っちゃうくらいアメリカンなステイツマンが、英国人である自分の空想の産物に過ぎないことを観客に告白しているのだ。

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