田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

田中が「2017年のロックでベスト」と語るファーザー・ジョン・ミスティ(Guy Lowndes)


今、白人のティーンは辛いと思う。そんなときに救いになるのが「Rockstar」。(田中)

─2017年を代表するヒット・シングルを3つ選ぶなら、全米チャートで11週連続(合計12週)1位に輝いたエドの「ShapeOf You」、同じく16週連続で1位となったルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーの「Despacito Remix (feat. JustinBieber)」、そして8週連続1位のポスト・マローン「Rockstar(feat. 21 Savage)」になるのかなと。

宇野 世界中で(人口が増えている)ヒスパニックの人たちがSpotifyで音楽を聴くようになったことによって、スペイン語圏のポップ・ミュージックがチャート上に占める割合も大きくなっているんだよね。そのなかでも一番のヒット曲が「Despacito」で、ジャスティン・ビーバーが加わってさらに火が点いたと。

─曲はいわゆるレゲトンで、史上最大のラテン・ヒットとなったみたいですね。



田中 ロック特有の8ビートというのは世界言語じゃないってことは随分前から繰り返し言われてたことだけど、これからはそれがSpotifyのチャートを通してもっと可視化されていくんじゃないかな。この曲はまさにその象徴。あと、「Rockstar」のメガ・ヒットに関しては6〜7年前からの流れと繋がった現象として見てます。それこそタイラー・ザ・クリエイターやラナ・デル・レイが脚光を浴びだしたときから、2017年になってXXXテンタシオンがブレイクして、リル・ピープが亡くなる(オーバードーズが原因で、11月に21歳の若さで死去)までの流れ。

あるいは、グラミーにノミネートされたロジックの「1-800-273-8255」みたいな曲(自殺防止ホットラインの電話番号をタイトルに冠したメッセージ・ソング)を並べると見えてくるものがある気がする。あと、この曲のリリースとまさに同時期に全米を騒がせたNetflixドラマ『13の理由』とか。その『13の理由』のエグゼクティブ・プロデューサーを務めてたのがセレーナ・ゴメスだったってこととか。


ロジック『Everybody』
ブラックにもホワイトにもなりたくない、俺はただの人間でいたい”とラップする「Black SpiderMan」に顕著な通り、黒人と白人のミックスであるロジックが人種問題と向き合った一枚。音自体はキャッチーで初の全米1位を記録。「1-800-273-8255」はSKY-HIによるビートジャックも話題に。



─というと?

田中 リリックのモチーフとして、2010年代を通して最大のトレンドだったのは、ティーンが抱える鬱や自殺願望だってことなんです。「Rockstar」って曲は、ここ数年ずっと言われてきた“ラッパーこそが現代のロックスターなんだ”っていう世間のイメージをそこにクロスオーバーさせてる。歌詞に、オーバードーズで死んだボン・スコット(AC/DC)やジム・モリソン(ドアーズ)の名前をわざわざ引用したり。だから、ここ最近欅坂46で秋元康がやってることにも近くて、求められているものに応えた結果がヒットに繋がったっていうか。

実際、今、白人のティーンは本当に辛いと思うんですよ。だって、自分たちのカルチャーにカッコいいものが何一つないから。それに生活のことを考えたら、共和党やトランプに投票するしかなかったり。そういうときに救いになるのが、この曲だったりする。そういう現実の反映なんじゃないかな。ブラックの若者はこの曲を聴かないと思う。だから、なかなかこれは苦々しい……。



宇野 苦々しいですねぇ。でも、2017年のシーンを象徴するのは本当にこの辺りだと思う。リル・ピープがあまりにも早くあんなことになっちゃったけど、このモードが2018年も引き継がれることになるのかどうか。今のヒップホップって、昔でいうところのカート・コバーンがたくさんいるような状況でしょ? カートはパンクに憧れたわけだけど、現代のカートたちはラップに憧れている。それは、“livin’ rich and dyin’ broke”的な生き方だけでなく、フランク・オーシャンのようなDIY的なやり方も含めてね。それが今後どうなっていくのかは気になりますよね。

─昔のグランジみたいに、刹那的な才能がたくさん出てきているということですか?

田中 刹那的なのかな? KORNだとか、その後のマイ・ケミカル・ロマンスみたいなポップ・エモにむしろ近い気もするけど。自傷的な内省っていうか。ただブラックのラッパーはそういう鬱や自殺願望っていうトレンドを利用してるところもあると思うんですよ。ケンドリック・ラマーが言うところの“コカインってのは、やるものではなく売るものだ”というストリートの発想っていうか。例えば、リル・ウージー・ヴァートの「XO Tour Llif3」もそういう文脈で聴かれたんだけど、実はそうじゃなくて、Geniusがわざわざ「XO Tour Llif3」をモチーフにして、2017年曲解されたリリックっていうマーチまで作ったりもしてて。でも、そういう流れをまともに正面から受け止めた白人ラッパーのリル・ピープが死んでしまった。そんな視点もあると思う。実際にそういうことが起きて、今後どうなっていくのかという話だよね。

─最初の方(前編)で、宇野さんが「2017年の一曲を選ぶならリル・ウージー・ヴァートの“XO Tour Llif3”だけど、あの曲はXXXテンタシオンなどの流れに繋がる」と仰ってたのも、そういうことなんですね。

宇野 そう。XXXテンタシオンの『17』は出た当初は音楽的にはあんまりピンとこなかったけど、最近になってその背景がいろいろ見えてきて、自分も評価が変わってきた。


XXX テンタシオン『17』
逮捕に引退宣言など物騒なエピソードも多い、フロリダ出身の19歳ラッパーで愛称はエックス。「Look At Me!」という曲をドレイクが盗用したと話題になり、注目を集めたのち本作を発表。エモやグランジを背景に持つ、パーソナルで鬱々としたサウンドが胸に刺さる。

田中 あのレコードは全11曲で21分しかない、そこが一番のポイントだと思う。ビートルズの『ラバー・ソウル』みたいな60年代の傑作アルバムはどれも35分とかでしょ? だから、アートとしての方向性としても的を得てる。と同時に、今はストリーミングの時代だから、短い方が何度も聴かれるっていう発想もあったと思う。

宇野 またケンドリック無双の話になってしまうけど、XXXテンタシオンにいち早く反応したのも彼なんですよ。『17』が出た瞬間に「今5周目を聴いてる」ってSNSに投稿しているんですよね。そういう話でいうと、あんなに一人勝ちしていたケンドリックが、SZAの『Ctrl』が6月に発表された途端にアカウント画像をあのアルバムのジャケットに変えて、未だにそのままなんだよね(笑)※。

※2017年末の時点。現在は自身が音楽面をプロデュースした『Black Panther: The Album』のジャケに変わっている

─SZAとケンドリックはTDEのレーベルメイトですよね。あのアルバムはどうでしたか?

宇野 SZAの音楽は言ってみれば、ある種の白人音楽がもつ気怠さに対しての、ブラック・ミュージック側からの回答みたいな感じですよね。2016年でいうとソランジュのアルバムも似たようなムードをまとっていたけどちょっと優等生っぽすぎて、SZAの場合、もっと文系不良っぽいんですよ。だって、SZAが一番影響を受けたアーティストとして挙げているのは映画監督のウェス・アンダーソンですからね。「お前はシネフィルか!」って話ですよ(笑)。それでいて、ストリートっぽさもちゃんとある。


SZA『Ctrl』
ウータン・クランRZAへの憧れからSZA(シザ)を名乗る90年生まれの女性シンガー。ファレルやケンドリックも参加し、メロウなR&Bとオープンマインドな感性が詰まったデビューアルバムは全米3位を記録。収録曲「Drew Barrymore」のビデオにはドリュー・バリモア本人も出演。

田中 優等生ということで話すと、2016年のコモンやア・トライブ・コールド・クエストが出た時に思ったのは、ああいったコンシャスネスって少し遅すぎた感じがしたんだよね。2015年に出るべきレコードだったっていうか。

宇野 トライブはまだラスト・アルバム特需みたいなものもありましたけど、スティーヴィー・ワンダーまで招集したコモンの力作は見事に無視されましたよね。2016年でいうとアリシア・キースもそう。あれだけのスターだった彼女が、スッピンのジャケットで、あんなに音楽的に豊かな作品を作っても、まったく売れないし評価もされない時代。今はシーンのスピード感とムードにのれないと、本当にしんどい。



田中 それこそ2016年はビヨンセが、女性たちをエンパワーメントしようとしたことが象徴的だったと思うんだけど、2017年はむしろそれ以前に「もうどうしようもない、どうしていいのか分からない」ってフィーリングをまず共有しておかないと、っていうムードもあったと思う。じゃないと、みんな自律神経をやられちゃうからさ(笑)。SZAのアルバムはそういうムードとも共振してたんじゃないかな。個人的にも「Love Galore」ってホント何度も聴いた曲なんだけど、破滅的な恋愛に溺れる歌でもあるでしょ。

あるいは、ラナ・デル・レイのノスタルジアやドリーミーさって反動的なものじゃない? リリックにしても、コーチェラに遊びに行った帰りにウッドストックのことを思い浮かべたり。でも、まずはそこを表現しないとリアリティがないんじゃないか? 前を向くより、一度立ち止まったり、うずくまったりするべきなんじゃない?っていう。そこに然るべき2017年らしさがあった気がします。


ラナ・デル・レイ『ラスト・フォー・ライフ』
盟友リック・ノウルズに加えて、マックス・マーティンやメトロ・ブーミンも助太刀した5作目では、フィル・スペクターの様式とセピア色の歌声が、トラップ以降のプロダクションと融合。エイサップ・ロッキーやスティーヴィー・ニックスなどがゲスト参加。

宇野 そういう文脈でいうと、僕が2017年のロックのアルバムで一番よく聴いたのは、シガレッツ・アフター・セックスなんですよね。フランク・オーシャン経由でエリオット・スミスが再評価されているのとも同じ現象だと思うけれど、今の時代に白人のロックが生きるべき方法があるとすれば、普遍的ないい曲を書いて、80年代なら80年代、90年代なら90年代という、あえて時代に紐付けられたプロダクションで鳴らしたノスタルジックなレコードを作るってことだろうなって。これはラナ・デル・レイにも言えることだけど、今はある種の“気怠さ”というものが、白人が音楽をやるときの武器なんだろうね。



田中 ある種の退廃性、逃避主義の先にある官能だよね。どうしていいか分からない時代だから、とりあえずセックスやドラッグに溺れたいっていう。実際、それが正直なところだと思うし、そこでカッコつけても仕方がないっていう。ラナ・デル・レイのアルバムは評価や売上はちょっと微妙ではあるんだけど、「Groupie Love」や「Love」はホントよく聴いた。2017年屈指のポップ・ソングだと思います。

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