田中宗一郎と宇野維正が語る2017〜2018年の洋楽シーン後編

田中が「2017年のロックでベスト」と語るファーザー・ジョン・ミスティ(Guy Lowndes)


カルヴィンとベックの新作は、Spotify全盛の時代に何をやるべきか?を考え抜いた作品。(田中)

─宇野さんのカルヴィン・ハリスと、タナソーさんのベック。お二人がプッシュしてきた2組についても伺いたいです。

宇野 最初の話に戻ると、2017年の上半期はまるで高校生の頃に戻ったような無邪気な気持ちで音楽に興奮して、初めて海外に行ったときみたいな気分でLAでラップのライブをはしごして、そこでずっと聴いてたのがカルヴィン・ハリスの今回のアルバムだったわけですよ。こうやってEDMサイド、白人サイドからもウェストコースト・ヒップホップの再検証があって、ここからまた新しい時代が始まるんだろうなって。で、そこに冷や水かけられたのが、2017年のサマソニのトリでのいわゆる“カルヴィン事変”ですよ。

田中 (笑)。

宇野 あのアルバムは、ある種、ポップ・ミュージックのユートピア的な世界を具現化してた作品だったと思うんです。でも、この時代、やっぱり興行ってものがどれだけミュージシャンにとって大きいのか、サマーソニックでまざまざと見せつけられて……。結局カルヴィンはもうツアーをやらない、毎週末ラスベガスのクラブで回しているだけの人なんですよね。それが一番儲かるし楽だから。


カルヴィン・ハリス『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』

田中 今の彼は、興業中心のEDMの世界では最前線にはいなくて、乱暴に言うと、晩年のエルヴィス・プレスリーみたいな位置なんですよ。今だと、日本だけでは大きなコンサートがやれるブリトニー・スピアーズみたいな。

宇野 あるいはセリーヌ・ディオンとかね。あれだけ豪華ゲストを呼んで、すごいレコードを作るための基盤としてラスベガスの興行があって。たまたま日本のフェスに呼ばれたから、ラスベガスでやっていることをそのまま日本のスタジアムでやっちゃった。あれはなかなか強烈な体験でしたよ。悪い意味で。

田中 正直キツかったよね。フジやサマーソニックと比べても、ULTRA JAPANって世界の潮流と一番クロスオーバーしてるフェスでしょ? あれがあったからEDMだけはしっかり普及していたかと思いきや、4年前のまま止まってたと。まあ、懐メロがうれしかったっていう反応だったんだろうけど。

宇野 サマソニまで日本では『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』が調子良く売れていて、本当はそこで加速がつくはずだったんだけど、サマソニで止まっちゃった(笑)。だから、CDが出て、ツアーやフェスでの来日があってという、従来の洋楽のプロモートの仕方がもう通用しないんだなって。興行は興行でデカ過ぎるし、CDはあくまでも向こうではグッズの一つだし、それを連動させるのが難しい時代に入ってきてしまった。

田中 良くも悪くもカルヴィンの新作って2017年のビッグ・イン・ジャパンの一つだよね。ある意味、ベックもそうだけど。

─どちらも年間ベストの上位に入ってるのはほぼ見かけなかったですね。RSだとカルヴィンは選外です。

宇野 え、そうなの? 向こうでもそれなりに売れたんだけどな……。

田中 間違いなく志は高かった。もはやカルヴィン自身は今の興業中心の EDM の世界には未練はなくて、DJ ではなくプロデューサーとしてやっていきたい、だからこそ今回みたいなレコードを作ったわけだけど。ただ、あまりにも急激に変化する状況からは弾かれちゃった。この作品に対してはネガティブなことは言いたくないんだけど、ホント難しいなぁーって。

宇野 自分は責任持って年間ベストの1位にしましたよ(笑)。アルバム単位では、一番聴いた作品であることに間違いはないわけだし。

田中 でも、やっぱり「Slide」はすごかったよね。2017年屈指のサマーソングだったわけだし。それにフランク・オーシャンが書いた“銀行口座を空っぽにして、『パイプを持つ少年』(ピカソの絵画)を買っちゃおうか”っていうラインは2017年のベスト・リリックでしょ。富や名声に対する批判でもあったし、“アートこそが一番重要なんだ”っていうメッセージでもあるから。



宇野 そうそう、あのリリックに時代の空気が全部が入っていた……はずなんだけど(苦笑)。タナソウさん、ベックはどうでした?

田中 俺はカルヴィンのアルバムと同じフォルダに入れてるんですよ。志の高い健闘作っていう。ラップとポップ全盛、Spotify全盛の時代に何をやるべきか?を考え抜いた作品。

宇野 そうですね。


ベック『カラーズ』

田中 今は分断の時代です、ロックがサブカル化しています――そういう時代におけるオーセンティックなポップとは何かを考えて、ビートルズ、ドゥービー・ブラザーズ、スティーヴィー・ワンダー、ポリス辺りを引用する一方で、ビートはすべて生ドラムのチョップで組み立てて、Spotify対応もばっちりっていう。ほぼグレッグ・カースティンと2人で作ったようなレコードだから、マックス・マーティン以降の世界にもしっかりと楯突いてるんだよね。ベック本人と話をして納得したのが、ジャスティン・ビーバーって「Loser」が出た94年に生まれているんですよ。で、ベックが前作でグラミーを獲ったとき、彼の友人だかがベックのことを新人だと思ったんだって。そりゃ、ゼロから考え直さなきゃって気分にもなるよね。実際、どのロック・バンドよりもそういう問題意識が成功していると思う。



宇野 それこそ、さっき言ったヒップホップを通過してきたかどうかが重要という話でいうと、ベックはキャリア初期の段階からビースティー・ボーイズの『ポールズ・ブティック』で名を上げたばかりのダスト・ブラザーズとやってたわけですからね。90年代アメリカのロックのソロ・ミュージシャンでは唯一と言えるくらい正しかった。

田中 しかも、「Wow」みたいなトラップを独自解釈した曲も作りながら、「『オディレイ』時代からTR-808だけのヒップホップっていうアイデアは持ってた」なんて言ってて。要は自分の方がトラップよりも10年以上早かった、みたいな主張なんですよ。対抗意識丸出しで最高でしょ?(笑)。あとは、さっき今の時代は「モザイク状に入り組んだ衝突が起きている」という話をしたけど、白人の側でそこと向き合ったレコードを作ったのは、他ならぬベックだった。そういう見方もできる。

─アルバムのタイトルが『Colors』なのも、“(黒や白だけでなく)いろんな色が一緒に存在する”という意思表示ですもんね。ただ、RSのランキングだと意外にも42位止まりで。

宇野 リアムより下なんだ。これは気の毒だな(笑)。

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