現代屈指のギターアイコン、マーガレット・グラスピーが語る「生々しさ」の美学

ジュリアン・ラージとの家での過ごし方

ーボーカリストとしての影響源も聞きたいです。綺麗に歌うだけでなく、叫んだり、軋ませた声も披露していますよね。

MG:驚くかもしれないけど、若い頃のバーブラ・ストライサンドとか。

ーそれは意外すぎます(笑)。

MG:予想外でしょ?(笑)。でも、彼女はジャズシンガーとして超一流。特に若い頃は誰にも止められないと言わんばかりにシャウトし、唸り、本当に素晴らしかった。もう一人、大好きなのはメアリー・マーガレット・オハラ。『Miss America』が良かった。とてもユニークな歌手で、曲の真ん中に即興で色んなことをしたり、言葉にエコーをかけて曲間でずっと流したり、それまで聴いたことのないような変わったことをする人だった。そんな彼女のスタイルを長いこと尊敬してきたので、5年前に会えたときは単なるファンになっちゃってた(笑)。あとはキム・ゴードンも最高だし、PJハーヴェイも大好き。




ー『Echo The Diamond』はデイヴ・キング、クリス・モリッシーとのトリオで制作されたわけですが、あなたとジャズの音楽家が持つライブ感と即興性を、プロデュースを務めたジュリアン・ラージもうまく引き出しているように思いました。

MG:デイヴやクリスの音楽への理解力は本当に速いので、リハーサルで長い時間をかける必要がないし、一旦スタジオに入ればいい結果が生まれるってすぐにわかる。プロデューサーとしての私は、スタジオで一度演奏するだけでマジックが生まれるようなものの方が好き。収録曲の「Female Brain」はリハーサル・テイク。二人はほとんど曲も知らなかったけど、演奏を始めたら、それが結果的にあの曲になった。そういうのが私は大好き。

ジャズ・ミュージシャンと一緒にやるのが好きなのは……というか、デイヴやクリスとやるのが好きなのは、二人ともパンクとジャズの感性を併せ持っているから。クリスは今まで会ったなかでいちばんのパール・ジャム・ファンだし(笑)。実際、私はクリスに「パール・ジャムだったら、ここのベースはどうしたと思う?」と聞いたことがある。すると、彼は普通ジャズではやらないような、ロックンロールなベースを弾いてくれる。




ーところで、ジュリアンとは家でどんな音楽の話をするんですか?

MG:あはは! どうだろう、普通の話だと思うけど(笑)。

ーお互いの作品をプロデュースし合う一方で、戦前ジャズやフリージャズについて詳しく解説してくれるような彼と、ソニック・ユースへの愛を熱弁するあなたの間に、どんな共通項があるのかなと思いまして。

MG:音楽面での共通点は、二人ともセーフティネットなしの、ライヴ・ミュージックがもつマジックがとにかく大好きってところ。今ここでしか起こりようがない音楽を目撃したいから。それもあって、昔の音楽が好き。だって当時は、今のようなテクノロジーがなかったからそうなるしかなかった。なので、二人でセロニアス・モンクが演奏する古い動画や、アーマッド・ジャマルの演奏を見て「すごい!」って、ボブ・ディランやソニック・ユースの動画を見ても「すごい!」って。そんなふうに、二人でずっとYouTubeを見ては「すごい、すごい!」と言い合ってる(笑)。

ー楽しそうですね(笑)。

MG:一緒に自宅で演奏したりもする。今はお互いツアーが多いので、同じタイミングで家にいることは少ないけど、二人でいられる時はアコースティックギター2本で演奏する。ギター・ミュージックへの愛は共通している部分で、時代やジャンルは関係ない。、それに二人ともギターが大好きだから、ギターの話もよくしてる。私は「ギターのことなんてあまり気にしていない」と口では言いながら、実際は何本もギターを持っているタイプ。ジュリアンは「ギターにすごくこだわりがある」と言いながら、いつも同じギターに戻るタイプ。つまり私と彼はギターの周りを、すごく異なる、そして似た軌道を描きながら回っているってこと。

あと、二人でNYのTR Crandallというギターショップにギターを持って行って、セットアップしてもらう。それはとても楽しいデートコースになってる。

ーお二人が一緒に来たら、店員さんは緊張しそうですね。

MG:そんなことない(笑)。家族みたいな間柄だから、みんな楽しんでる。数カ月おきにギターを持ち込んで、そこでセットアップしてもらう間、コーヒーを飲んで過ごすのがすごく楽しい時間になってる。一緒に過ごしているあいだに、ギターのメンテナンスまでできるわけだから!



ーいよいよ初の来日公演ですね。

MG:ジュリアンが日本に行った時に同行したことがあって、その時はすごく楽しかった。日本でプレイするのは私にとっての夢だったから、とても光栄だし興奮してる。日本で美味しいものを食べるのも楽しみ。前回行った時は肉を食べたけど、今は肉を食べないから、日本のベジタリアンフード事情がどうなのかも興味がある。カルチャー、食べ物、アート、ショッピング、何もかもが楽しみだし、誰もが優しくて、本当に楽しみで仕方がない。

ーパフォーマンスに関してはどうですか?

MG:普段はロッククラブのようなダーティーで、ラフな会場でやることが多いから(笑)。ブルーノートに出演することに興奮しているし、これが『Echo the Diamond』ツアーのラストになるので、エネルギッシュなステージになるだろうし、アルバムからの曲を演奏することを楽しみにしている。『Echo the Diamond』は日本を訪れた時に感じた、日本のアートやクリエイティブなヴァイヴに触発されたアルバムでもあって。日本のディテールやアートに対する深いこだわりに制作中の私は刺激を受けてきた。そんなアルバムの曲を届けられるのが楽しみ。日本の皆さんには、私がディテールに込めた思いを理解してもらえる気がするから。






マーガレット・グラスピー来日公演
2024年6月18日(火)、19日(水)ブルーノート東京
Open5:00pm Start6:00pm/Open7:45pm Start8:30pm
ミュージック・チャージ:¥8,800(税込)
公演詳細:https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/margaret-glaspy

Translated by Kyoko Maruyama

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