レジェンドプロデューサー高垣健が語る、ビクターのロックの礎を作ったPANTAの音楽

トゥ・シューズ / PANTA&HAL



高垣:フル・アルバムを作るときは何をやりたい?みたいな話をしたら、ロックンロールもやりたいけど、やっぱりポップスやりたいという1つが典型的な曲になったのがこの「トゥ・シューズ」。イントロもフランス語が出てきたりとか、ヨーロピアン・ポップスの影響も濃いPANTAらしい曲だなと思います。

田家:今回PANTAさんの追悼特集『ミュージック・マガジン』がPANTA、頭脳警察追悼増刊を出してくれまして、その中で評論家の志田歩さんが、PANTAの代表曲の1枚、1987年の『クリスタルナハト』は本来『1980X』のときにやろうとしていたことだったと書かれてましたけども、それの経緯はどうだったんですか?

高垣:そこは僕もあまり定かじゃないんですけど、頭脳警察が休止してPANTAのソロ・アルバム2枚、それからPANTA & HALを結成して2枚。ライブ・アルバムはありますけど、オリジナル・アルバムとしては2枚。それからPANTAのソロでまた甘い、スウィートなポップス・アルバムが2枚という。2枚単位で変わってきているんですね。彼の中にはいつも楽曲がいっぱいあるんですよ。ストックがいっぱいあって、その中で本人が選んでアルバムのコンセプトを作って、僕らにプレゼンテーションしてくる。だから、『クリスタルナハト』のときも、ドイツの昔の歴史的なイメージがPANTAの中にあったんだろうなと。

田家:それは彼の中で時期尚早みたいなものがあって、このときやらなかったということになるんでしょうね。

高垣:そうですね。

田家:今日の6曲目をお聴きいただきます。1981年のアルバム『KISS』から「涙にさようなら」。

涙にさようなら / PANTA



高垣:この『KISS』というアルバムとその次の『唇にスパーク』っていう2枚のアルバムは本当にとろけるような甘いポップスナンバーが勢揃いの曲になってまして、これもPANTAがずっと前から企んでいた(笑)。

田家:ラブソングアルバム、スウィート路線と言われましたけどもね。

高垣:僕は傑作だと思います。世の中からは叩かれましたけども(笑)。これはプロデュース、アレンジを矢野誠さんが全曲やってまして。橋本治さんという作家の方がおられる。

田家:仲良かったですもんね。

高垣:はい。桃尻娘でヒットされた作家の方がおられて、この橋本治さんとPANTAがすごく仲良かった友だちだったんですね。詞のテーマとか内容もこの「涙にさようなら」とかその前に入っている「悲しみよようこそ」という曲は橋本治さんの色がかなり出ている、こういう色の中で作られた楽曲じゃないかと、僕は想像しています。

田家:これはPANTA & HALの話でお訊きしておかなければいけないなと思ったのが、PANTA & HALの解散、メンバーの平井光一さんが「青天の霹靂だった」と。これは志田さんの原稿の中にあったのですが、やっぱりそういう解散だったんですかね。

高垣:そうですね。PANTAとしてはかなり熟考を重ねた末の結論だと思うんですけども、あまり過程を見せないんですね。決めてからこういう理屈でこういう理由で一旦休止しようという話をするのが、PANTAの1つの作戦だったような気がしますね。

田家:そのために2枚ずつアルバムを作っていたのかもしれないですね。そういうスウィート路線の2曲目の中からお聴きいただきます。今日の7曲目です。1982年7月発売のアルバム『唇にスパーク』から「レーザー・ショック」。

Rolling Stone Japan 編集部

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