レジェンドプロデューサー高垣健が語る、ビクターのロックの礎を作ったPANTAの音楽

さようなら世界夫人よ / 頭脳警察



田家:1972年5月に発売になって、一旦中止になってしまって翌月発売された2枚目のアルバム『頭脳警察セカンド』の中からお聴きいただいております。先週のゲストのTOSHIさんがこの曲があったから、俺はPANTAと50年やれたんだと言われていましたね。

高垣:PANTA、頭脳警察と言うと、やっぱり「銃をとれ!」とか「革命戦争宣言」とか、反体制、反骨のイメージが出ちゃうんですけれどもこのアルバムに実はこの「さようなら世界夫人よ」と「いとこの結婚式」という綺麗なメロディアスな曲が何曲か入っているんですよね。過激な歌もいいんだけれども、その中で時々聴こえてくるメロディアスなバラード、ポップス、それがすごく印象に残って忘れられなかった1曲ですね。

田家:1枚目の『頭脳警察ファースト』は発売中止になって、この『セカンド』も中止になってしまった。1枚目2枚目が中止に憂き目を見ているわけで、会社の中で頭脳警察が発売中止になったことは話題になったんですか?

高垣:話題にはなったんですけど、どちらかと言うとなぜこれが発売禁止になっちゃうんだという。ちょっと保守的な会社の体質に対して、同じ仕事をしている人たちの中でもクエスチョンマークがついたのは覚えています。

田家:PANTAさんはよく「でも俺ヒット賞もらってるんだよ」って冗談で言ってましたけれどもね(笑)。そういうヒット賞のパーティーには呼ばれているわけですもんね。

高垣:そうです、そうです(笑)。

田家:そういう時代でありました。高垣さんが選ばれた今日の2曲目、1976年4月に発売になったソロの1枚目『パンタックス・ワールド』から「明日天気になれ」。

明日天気になれ / PANTA

高垣:洋楽をやっていたので、スタジオ仕事はほとんど知らなかったんですね。ましてやレコーディングのディレクターみたいな形でスタジオに入るって初めてだったんです。このPANTAの『パンタックス・ワールド』が初仕事なんですよ。だから、たぶんオタオタしてすごくじれったいディレクターだったと思うんですけど、PANTAがシステムから進行から人脈から全部教えてくれたんです。PANTAがいろいろな人を紹介してくれた中にCharがいたんです。彼がまだ19歳です。Charが連れてきたドラムが古田たかしくん。

田家:佐野元春とハートランド。

高垣:そうです、そうです。そのときは18歳ですね。若いバリバリのロック・ミュージシャンがPANTAの後ろで演奏したというのが、ビクター・スタジオの「明日天気になれ」の記憶なんです。

田家:どんな曲をやりたいというのはPANTAさんの中にあって、これをやりたいんだけどと持ってこられて。

高垣:そうですねPANTAはストックがいっぱいありましたね。意見を訊かれることもあったし、こちらで結論を出すこともあったんですけど、Charが集めたミュージシャンのセッションとウエスト・ロード・ブルース・バンドの塩次伸二さんが集めたセッションが2つあったんですね。

田家:アルバムはホーンが入ってますもんね。

高垣:ブラスは向井滋春さんという名うてのミュージシャン。コーラスは金子マリちゃん。すごくいいメンバーをPANTAの人脈で集めてきてもらって。この曲は結構ブルースなので、普通はウエスト・ロード・ブルース・バンドのセッションが合うかなと思うんですけど、2テイクあるんですね。1つは塩次しんちゃんのバージョン。それからCharが弾いたバージョン2つありまして、PANTAが他にもブルースがあったので、この曲はCharのバージョンでいこうということにしたのがこの「明日天気になれ」ですね。

田家:頭脳警察は1972年から1975年にかけてオリジナル・アルバムが6枚あったわけですが、それ以外にソロでやりたい曲が既にたくさんあって、人脈もそこまで広く持っていたってことですね。

高垣:反骨のPANTAと叙情ポップなPANTAと同じPANTAの中に二重人格があって。

田家:十六人格というアルバムもありましたからね(笑)。

高垣:当時、僕も洋楽にかぶれていたので、どういう洋楽聴いているの?って聞いて、当然ローリング・ストーンズとかキンクスとか、当時の気鋭のバンドの名前が出てくるんだろうなと思ったら僕が好きなのはフランス・ギャルだって言われて、ええ!ってびっくりした(笑)。

田家:「夢見るシャンソン人形」ね(笑)。

高垣:ヨーロッパ・ポップスがすごく好きでしたね。

田家:さっきおっしゃったロックをやろうというレーベルがフライングドッグ・レーベルだった?

高垣:そうですね。

田家:PANTAが1作目だった。

高垣:そうです、1作目です。その後ビクターのいろいろなロック・アーティストがデビューしましたけど、PANTAがビクターのロックの先鞭を作ったと言ってもいいと思いますね。

田家:ヒット賞だけじゃなかった功績ということになります。高垣さんが選ばれた今日の3曲目ソロの2枚目のアルバム『走れ熱いなら』から「やかましい俺のROCKめ」。

Rolling Stone Japan 編集部

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE