Blondshell来日直前取材 グランジとライオット・ガールの後継者が抱く「女性らしさ」への違和感

ブロンドシェル

昨年発表のデビューアルバム『Blondshell』が世界中で絶賛され、Z世代の新たなロックアイコンとなったブロンドシェル。2月13日(火)に東京・渋谷WWW Xで初来日公演を開催する彼女にインタビューを実施した。

「数多のアーティストが90年代の復活を試みているが、サブリナ・タイテルバウムほど巧みにやってのけたアーティストはほとんどいない。デビュー作にはエモーショナルな怒りと女性の怒りが渦巻いている。彼女は過去を呼び起こすだけでなく、それを再発明しているのだ」

2023年の年間ベストアルバム上位に『Blondshell』を選出した米ローリングストーン誌は、ブロンドシェルことサブリナの逸材ぶりをこのように評している。

サブリナは父親のiPodを通じて、ローリング・ストーンズなどのクラシック・ロックに幼い頃から親しんできた。そこから地元ニューヨークの伝説的存在であるヴェルヴェット・アンダーグラウンドやパティ・スミスに入れ込み、フェイクIDを片手にインディ・ロックの現場へ通うようになり、ザ・ナショナルが紡ぐモノクロの詞世界に魅了される。音楽活動に励むべく18歳でLAに移住し、南カリフォルニア大学のポピュラー音楽プログラムを履修したものの2年で中退。BAUM名義でポップな楽曲を手がけた時期もあったが、その頃の方向性や分業制のソングライティングはしっくりこなかったそうだ。そしてパンデミックが始まる頃、彼女は心の内側にある「激しい感情」と向き合うことを決意。剥き出しの想いを歌にするシンガーソングライターとしての作風を確立していく。赤裸々な楽曲たちはアルバムへと発展し、彼女の人生を大きく変えていった。

かくしてボーイジーニアスやミツキ、カーリー・ハーツマンを擁する新興バンドのウェンズデイ、もしくはスネイル・メイルやサッカー・マミーといったオルタナの後継者と並んで、女性たちが牽引するインディーロック新時代の顔となったサブリナ。グランジ譲りの鬱屈とした怒りを鳴らす彼女は、リズ・フェアやスリーター・キニーといったライオット・ガール周辺の大御所からも愛され、最近ではトーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』のトリビュート・アルバムに起用されるなど、Z世代を中心に幅広い年齢層のリスナー/アーティストを虜にしている。

彼女がこれだけ評価されているのは、実体験から着想を広げた告白的なリリックによるところも大きい。“彼のサラダに毒を入れる”という一節が示すように、復讐劇とトラウマの克服をテーマにした「Salad」は、SZAの「Kill Bill」と同じように強烈かつ切実でアンニュイだからこそ胸に響く。さらにサブリナは、バイセクシャルでクィアな自身のセクシャリティが楽曲に反映されていることも認めている。このあとのインタビューで、90年代のグランジから受け取った影響について「誰もが共通に抱えているのにまだ言語化されてない感情を掘り起こしてくれる。それを通じて自分自身の気持ちをより深く理解することができる」と語っているが、ブロンドシェルが共感を集める理由もそこにあるはずだ。自身初となるワールドツアーの一環で初来日を果たすサブリナは、LAの自宅からリラックスした様子でZoom取材に応じてくれた。




グランジが教えてくれた「言葉にできない感情」

―アーティスト写真やInstgramを見ると、普段からよくロックTシャツを着ているみたいですね。ニール・ヤングもそうだし、ピンク・フロイドウィングスプリテンダーズとか。今もザ・ストロークスのフーディを着てますが、そういうファッションがお好きなんですか。

サブリナ:普段からこういう恰好をしてるから、意図的にアピールしてるわけじゃないんだけど(笑)。でもロックTシャツが一番自分にしっくり来るんだよなあ……あ、ちなみに今着てるこれはLAのフェス「Ain’t No Picnic」に行ったときにゲットしたやつ。ちょうどストロークスが出演してたんだよね。そんな感じでロックTシャツ関係のコレクションが他にも山ほどある(笑)。

―最高です(笑)。デビューアルバム『Blondshell』は各所で絶賛されましたが、リリースから時間が経った今、どんな手応えを改めて感じていますか。

サブリナ:ほんと最高の気分。今回のアルバムを聴いて共感してくれる人がたくさんいるんだなってことをしみじみ実感させてもらってる。本当に感激しっぱなしだよ。今こうして日本のメディアとインタビューしてるってことは、日本であのアルバムを聴いてくれてる人が確実に存在してるってことで、それだけでもテンション上がるっていうか。しかも、このあと日本でライブも控えてるわけで! 今からめちゃくちゃ興奮しまくってるよ。


Photo by Mike Palmer

―ブロンドシェルの音楽性は90年代グランジからの影響が大きいそうですが、様々なジャンルの音楽があるなかで、グランジが自分にフィットした理由はなんだと思います?

サブリナ:やっぱりギターってとこになるのかなあ……。どういうわけかわからないけど、あの辺のギターが自分のなかではめっちゃ響くんだよね。どうしてもギター・パートに惹きつけられちゃう、それはもう昔っから。90年代のあの辺のバンドにも似たようなものを感じるんだよね。ただ単純に自分の感情にフィットするというか。ギターを表現手段として選んだ先にああいう音楽に辿り着いた、みたいな、その構図がそのまま自分にも重なるんだよね。それとあの剥き出しでローファイな感じ。90年代の音楽なんか特にそう。作られてないし加工されたものじゃ全然ないでしょ。ただ剥き出しのエモーションだけがゴロっとあって、そこが自分にもガンガンに響いてくるんだよなあ……。

―90sオルタナ的なソングライティングを習得するにあたって、影響を受けたのはどういった人たちでしたか?

サブリナ:ソングライティングってことで言ったらフィオナ・アップルにかなり影響を受けてるよ。クランベリーズにも。あと90年代のあの辺で言ったら間違いなくスマッシング・パンプキンズだね。それにホール、ニルヴァーナ! 本当にインスピレーションの宝庫だし影響を受けまくってる。みんな自分にとって大切なアーティストだよ。


クランベリーズ「Disappointment」のカバー映像

―どういうところに影響を受けてると言えそうですか?

サブリナ:みんながボンヤリと感じてるのに、言葉にはできない感情を形にするっていうところかな。「わかるわ、これー」「たしかに、自分もそうだった」っていう、自分のなかにこんな感情があったんだってことに気づかせてくれる感じ。誰もが共通に抱えているのにまだ言語化されてない感情を掘り起こしてくれる。それを通じて自分自身の気持ちをより深く理解することができる。見たことも会ったこともない赤の他人の経験を、音楽を通して自分自身の感情について理解できるようになるって、考えてみればものすごく尊いし有難いことだよなあって。あの頃の音楽を聴いてるとつくづくそう思うよ。

―サブリナさんは音楽を通じて、どういう感情を表現しようとしているのでしょう?

サブリナ:確実に言えるのは、一般的に女性に求められてる音楽って、サッドかハッピーかのどちらかで、要するに二択しか与えられてなかったけど、そんな単純なもんじゃないだろ、っていう。その間に何千何万という感情の振れ幅が存在してるわけで。それを90年代の女性アーティストが表立って発してくれた。そんな単純なものじゃないし、その間にもっと複雑で繊細な感情の動きがあるんだよってことを……ただ悲しいだけでもハッピーだけでもない、それこそ怒りも激しさも渇望も抱えてるんだよってことを。90年代に彼女たちがそのお手本を見せてくれた。そのおかげで自分もそうした感情にアクセスしやすくなったっていうのは確実にあるよね。


Photo by Mike Palmer

―ブロンドシェルについての記事を見ると「anger」「rage」という言葉がよく用いられていますよね。デビューアルバムのなかで、あなたは何に対して怒っているのでしょう? 怒りの根源はどこにあって、そこにはどんな感情が渦巻いているのでしょうか。

サブリナ:もう本当に色んな……一つとかじゃない。マジでほんとにたくさん……長いこと自分はその感情を抑えてたんだなあって、それが今回のアルバムを作ってるときに初めて露呈してきた。私は色んな人だの事柄に対してそこまで鬱積したものを抱え込んでる人間だなんてちっとも思ってなかった。それなのに自分の内側を掘り下げてみたら思いのほかネタがありすぎた。

―どうして今回のタイミングでそれが噴出したと思いますか?

サブリナ:まあ、生活環境が大きく変化していた時期だったんだよね。自分の慣れ親しんでいた環境とか生活が変化するときって、自分のそれまでの人生も違って見えてくるわけじゃない? それも含めて大人になっていく時期ってことだったのかなあ。私があのアルバムを作ったのって、何しろ23、24歳のときだからね。実際、自分が大人になっていくのを感じていた。それでもっと自分の気持ちに正直になっていったんだろうね。



―歌詞やサウンドは実にエモーショナルですが、楽曲のメロディやプロダクションは理論的かつ丁寧に構築されている印象です。南カリフォルニア大学ソーントン音楽学校(USC Thornton School of Music)でソングライティングを学んだそうですが、その経験も大きかったのでしょうか?

サブリナ:あの学校に通った2年間のうちに、ものすごく多くのことを学ばせてもらった。技術的なことなんかも含めてね。子供の頃は歌の教室に通ってたぐらいで、それまで本格的に音楽について学んだことがなかったから。音楽理論やハーモニーの使い方、曲の構成とか諸々多くを学ばせてもらった。例えばビートルズやローリング・ストーンズの曲の作りがどうなってるのか、みたいな。ただ普通に好きとか曲がいいっていう以上に、「なるほど、ここがこうなって、こういう構造になってるんだ」って、もっと大きな見取り図で捉えて、実際にそれを言葉で説明するためのボキャブラリーを与えてもらった感じ。そのおかげで自分の作品を作るときにも、他人に対して「この音はこうほしい」「この音は必要ないから外して」とか、自分のやりたいことを具体的に言葉で指示できたのは、あの学校で学んだ経験があったからこそで。正に言語だよね、音楽にまつわる言葉を習得したって感じ。

Translated by Ayako Takezawa

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