Blondshell来日直前取材 グランジとライオット・ガールの後継者が抱く「女性らしさ」への違和感

赤裸々な歌詞、ジェンダーの揺らぎ、ライオット・ガールへの感謝

―「Kiss City」はデラックス・エディションに収録されたホームデモ版と完成版を聴き比べるのも興味深かったです。

サブリナ:まあ、言うまでもなくデモ・バージョンが最初のやつで。最初にあの曲を作ったときは、正にあのデモのまんまだったんだよね。それをスタジオに持っていって、ギターとかを付け足してプロデュースしたのがアルバムに入ってるバージョンっていう。

―歌詞の部分ではどうですか。どんなことを歌いたかったのか。

サブリナ:切望について歌ってる曲になるのかなあ……自分自身、すごく悶々としてる時期だったんだよね。今の世の中のムードとして、軽い感じがよしとされるような……重たい関係とか今どき鬱陶しいだけだし、そもそも優しさだの思いやりだの自分以外の他人に求めるべきものじゃないっしょ、そんなの自分でどうにかして解決して昇華していくべきものでしょ、みたいな。自分があの曲を書いたとき、自分が本当に欲しいものを人に言えないように感じてた。私は遊びじゃなくて、本気で誰かと深く関わり合うことを求めてたから。それを自分の心に正直に全部ぶっちゃけたのがあの曲なんだよね。自分が本当に求めてるのはこれなんだよっていう。




―歌詞といえば、「Salad」の“Look what you did / You’ll make a killer of a Jewish girl”(どうしてくれんのよ?/あんたのせいでユダヤ人の女の子が殺人者になっちゃうじゃないの)というフレーズは話題になりましたね。

サブリナ:あれね(笑)。こうなったのは私のせいじゃないだろ、っていう……! 私があなたに殺意を抱いてわざわざ曲にしなくちゃなんなくなったのは、完全にあんたのせいだからね?!っていう。私は普通にナイスなユダヤ人女子なのに(笑)。あんたのその仕打ちのせいで私の怒りの限界の線を超えてきたんだから。こうなったのはこっちじゃなくて、そっちの責任だよ?っていう(笑)。



別のインタビューで「バイナリーに関して語るのって難しい。自分がどのジェンダーに属するかは日によって違う気がするから」と語っていましたね。日本はジェンダーを巡る議論が遅れているのもあってお聞きしたいのですが、ご自身がジェンダー・フルイドであることはアルバム制作にも影響を与えていると言えそうですか?

サブリナ:あー、別にバイナリー問題について取り上げようって気はなかったんだよなあ……とはいえ、それは出ちゃうって。歌詞とか全然違う話題について歌ってるとしても、音のほうに出ちゃうって。だって、それがその時期の自分の実感として存在してるんだもの。どうしたって出ちゃうよ、自分の一部だから。

とはいえ、バイナリーについて曲の中で取り上げるまでには、自分のなかで結構時間がかかったかなあ、とは思うよね……そもそも自分の理解が追いついてなかったから。自分が男っぽく感じることもあるし、女だなって感じるときもある。どちらか一つの絶対的なものじゃない……っていう。それが結局、音にも出ちゃってるってことなんだろうね。「女性アーティストが歌ってる曲だとしたら、どうぜ中身はこんな感じでしょ?」ってセオリーから普通に外れちゃうし、そもそも自分はその枠のなかに納まっていたいなんてこれっぽっちも思ってないわけだから。


Photo by Mike Palmer

―ブロンドシェルのライブでは、ル・ティグラ(Le Tigre)「Deceptacon」のカバーが最近の定番となっているようですね。ライオット・ガールを代表する名曲ですが、どんなところに魅力を感じているのでしょうか?

サブリナ:あの1stアルバム(1999年リリースの『Le Tigre』)が大好きすぎて。一連のライオット・ガール・ムーブメントがなかったら、自分は今みたいな曲を作れてたのかなあ、作ったとしても誰かに届くことなんてあったのかなあって本気で思う。その受け皿までも作ってくれたバンドなんだよね。彼女たちが道を切り拓いてくれてなかったら、自分の声が自分以外の他人に届くことなんてあったのかな?って思う。それは自分にとってものすごく大きいし、だからこそリスペクトを込めて。




―90年代前後のライオット・ガール周辺バンドを発掘したきっかけは?

サブリナ:それで言うとキャスリーン・ハンナの存在が大きくて。彼女がやってたビキニ・キルとル・ティグラが、ライオット・ガールズ周辺では一番好きなバンドで……それ以外にもたくさん。それこそL7、スリーター・キニー、ベイブス・イン・トイランド、あとはホールなんかも……まあ、ホールは世間的にはライオット・ガールのなかにはカウントされないのかもしれないけど、個人的にはライオット・ガール周辺のバンドが好きなのと同じ理由で好きなんだよね。

―いろんなところでホールとコートニー・ラヴの名前を挙げていますよね。彼女のどんなところが偉大だと思いますか?

サブリナ:だって、超優秀なソングライターだから。自分のなかではベストの何人かに入る。しかも、ロック界でベストのボーカリストのうちの一人だと思う。とりあえず、自分が成長期にあたってものすごく影響を受けたアーティストではあって。コートニーの曲って、優れたソングライティングのお見本としてもっと語られて参照されるべきだと本気で思うよ。だってソングライターとしての実力が半端ないもの。自分自身が経験してきたことを、誰もが共感できる感情であると同時に、紛れもない彼女にしかない特殊なものとして描いてるってところがマジで凄いなって思う。




―サブリナさんは昨年、リズ・フェアと一緒にツアーを回ったんですよね。彼女もライオット・ガールの文脈で語られるべき存在だと思いますが、やはり影響は大きいですか?

サブリナ:もちろん、めっちゃテンション上がった! 大ファンなんでね。しかも、『Exile in GuyvilleI』の(30周年)アニバーサリー・ツアーで、昔から大好きな作品だったから、それもまた感慨深くて。それまで女性が発言するのはタブーとされてきたことを大っぴらに語ってるところとか、それこそ性やセクシュアリティについてぶっちゃけてたり。彼女のギターがまた味があっていいんだよなあ……ものすごく個性的で。かなり影響を受けてるよ。一緒にツアーできて本当に最高だった。




―グランジとライオット・ガール以外に自分の音楽を形作る上で影響を受けた音楽を挙げるなら?

サブリナ:80年代のいわゆるニューウェイヴ系の音楽には相当影響を受けてる。あるいはヴェルヴェット・アンダーグラウンドだとか、それからUKのバンドだよね。ブラーとかニュー・オーダー、ジョイ・ディヴィジョンとか。まあ、ブラーと後の2つはちょっと時期がズレるけど、あの周辺のバンドのプロダクションには相当影響を受けてる。あの辺のバンドのギターの使い方も好きで……いわゆるブリット・ポップ/ニューウェイヴ好きってやつだよ。


米ローリングストーン誌は「Joiner」を、ブラー「Coffee & TV」のダーク・バージョンと評している

Translated by Ayako Takezawa

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