The Acesが日本で語る 影響を受けた5枚のアルバム、クィアとしての使命に目覚めた瞬間

 
影響を受けたアルバム5作、クィアとしての使命に目覚めた瞬間

―ジ・エイシズについて、現在の音楽性を誰かに説明するとしたらどう形容しますか?

クリスタル:ファンクポップのエレメントが入ったインディーロックかな。

アリサ:インディー・ディスコ・ポップロック!

マッケンナ:やっぱりインディーロックかな。

ケイティ:そうだね。オルタナティブポップ、インディーポップは土台にある。



ケイティ・ヘンダーソン(Photo by Tae Fukushima

―その音楽性をさらに深掘りするために、ここからは影響を受けたアルバムについて話を聞かせてください。メンバーそれぞれ1作ずつ、バンドとして1作を選んでくれたそうですね。ケイティさんからどうぞ。

ケイティ:私のお気に入りの1枚は、テーム・インパラの『Currents』(2015年)。リリースされたあと、すぐにアルバム全曲を聴いて、彼の世界観のとりこになった。ケヴィン・パーカーの、ドラムとベースをレコーディングしたミックスにすごく魅了されたんだ。とにかく、私を満たしてくれる音楽。それに、彼の実験精神も素晴らしい。彼のインタールードは独特で、歌詞もすごくパワフル。




―ケヴィン・パーカーは自分のプレイを強調するより、アルバム全体のサウンドメイクを重視していますよね。ケイティさんのギターも、自分が目立とうというよりも、バンド全体を輝かせようという意識を感じます。

ケイティ:私も、昔は「目立つぞ!」ってプレイしてたと思う。スタイルが変わったのは、一緒に制作をしてきたプロデューサーや、出会ってきた人たちの影響を受けたから。1stアルバム(2018年の『When My Heart Felt Volcanic』)は、すごくリズミカルでクールなトップラインで、プレイするのがすごく楽しかった。プロデューサーのダン・ギブソンとサイモン・オスクロフトからは、プレイスタイルを含めて学ぶことがたくさんあった。私たちの音楽には、ファンキーなギターラインがあるじゃない? リズミカルで、質感があって、メロディックで……最高に楽しみながらプレイしてるよ!



マッケンナ・ペティー(Photo by Tae Fukushima

―では次に、マッケンナさん。

マッケンナ:1枚だけ選ぶのは難しいけど、ビッグ・シーフの『Masterpiece』(2016年)。初めてのレコードを制作しているとき、ツアー中の飛行機、バス、バンの中でずーっと聴いてた。このアルバムを聴いていると、安心できて落ち着けるんだよね。エイドリアン・レンカーは、私の憧れで、彼女の歌詞や音楽に救われてる。もちろん、バンドも素晴らしい。ビッグ・シーフの作品はどれも大好きだし、いつでも私を包み込んでくれる、そんなアルバムなんだ。




―昨日のライブで、マッケンナさんの演奏がすごくかっこいいという感想を見かけたんですが、憧れのベーシストはいたりしますか?

マッケンナ:バンドを結成してすぐの頃、特に尊敬する女性ベーシストはいなかったんだけど、今はクルアンビンが大好き。ギターとベースの演奏がすごくリズミカルで、楽しくなっちゃうよね! 彼女(ローラ・リー)のベースプレイには影響を受けてるけど、ヒーロー的な存在はいないかな。



アリサ・ラミレス(Photo by Tae Fukushima

―続いて、アリサさんは?

アリサ:私が選んだのは、マイケル・ジャクソンの『Thriller』(1982年)。母親がレコードを持っていて、子供の頃に初めて聴いたレコードだったんだ。私の人生の一部になってるし、作曲家として、ドラマーとして、そしてミュージシャンとしても、このアルバムからすごく影響を受けている。マイケル・ジャクソンとクインシー・ジョーンズ、マイケルに関わっていた当時のアーティストたちからたくさんのインスピレーションを受けたんだ。今まで作られたアルバムの中でベストだと思うよ! メロディーのストラクチャーからもたくさん学んだ。80年代のディスコ、ポップっぽいサウンドは、私たちの音楽に反映されている。すべてライブ演奏のレコードだなんて信じられない! このアルバムは最初から最後まで何度も聴き続けられるんだ。最高のミュージシャンたちとのコラボレーション、最高の作曲家、そして、最高のボーカリストでありパフォーマーであるマイケル・ジャクソン、すべてにおけるベストが集結したアルバムが『Thriller』だと思う。




―先ほどバンドの音楽性を「インディー・ディスコ」と説明していましたが、アリサさんのドラムを聴いていると、ヒップホップやR&Bなどの要素も感じます。

アリサ:私は、ジ・エイシズを「ディスコミュージックをプレイするインディーバンド」だと思ってる。リズミカルでヒップホップっぽいディスコのドラムが好き。4つ打ちのビートで、ただ身体で感じて自然に動くようなリズム。つまり、シンプルなのが好きなんだよね。マイケル・ジャクソンが好きな理由の1つも、彼の音楽を聴いたら踊らずにはいられないじゃない? 私たちの音楽は、自然と踊ってしまうようなリズムにこだわってる。



クリスタル・ラミレス(Photo by Tae Fukushima

―クリスタルさんが選んだアルバムは?

クリスタル:ティーガン&サラの『Heartthrob』(2013年)。これは、ティーンエイジャーの私がティーガン&サラを知るきっかけになったアルバムだった。それから2年くらい、ずっとこのアルバムを聴き続けてた。ミュージシャンを目指していた私にとって、ティーガン&サラは、私の「願望」を「使命」に変えてくれたんだ。それに、2人はクィアであることをオープンにしてきたアーティストだった。自らがクィアであることを語り、クィアの人たちのスペースを作っているアーティストに今まで出会ったことがなかったし、自分のアイデンティティに後ろめたさを感じることがあった私を、2人の音楽はただ受け入れてくれた。クィアとして「この世界をどう生きていくべきか考えることなく、ただありのままの私でいていいんだ」っていう感覚は、マインドセットを180度変えた瞬間だった。その時から、私は私の夢を実現するんだって火がついたんだ。ティーガン&サラは私にとって永遠の存在。人として、アーティストとして大きな影響を受けた。17歳だった私にとっての2人のように、ジ・エイシズもそんな存在になれたらいいなって思ってる。




―今の話でいうと、昨日のライブで「Suburban Blues」の演奏中、最前列のファンからプライドフラッグを渡される場面も印象的でした。

クリスタル:その流れは世界中で起きてるよね! ファンどうしで事前に連絡を取りあってるんじゃないかなって思っちゃうくらい(笑)。私たちのバンドがきっかけになって、コミュニティが生まれることってすごく素敵。クィアのコミュニティはすごく団結しているって感じる。それに、世界中の人たちとコミュニケーションできるようになったのは、まさにインターネットのおかげだね。

アリサ:私たちのファンは、ちょっと真面目だよね(笑)。いろんな国に行くたびファンと話す機会があるけど、「私たちは(ユーザーネームを名乗る)です、オーストラリアの代表です」って、まるでアンバサダーみたいな感じ(笑)。

クリスタル:昨夜のライブのあと、メッセージを見てたんだけど、「ライブをありがとう! 昨日のライブでたくさんの友達ができた!」って書いてくれていて、私たちが望んでいたことがまさに形になった経験だった。

Translated by Miho Haraguchi, Natsumi Ueda

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE