The Japanese Houseが語る、クィアとして音楽業界に思うこと、The 1975との信頼関係

ザ・ジャパニーズ・ハウス(Photo by Jay Seba)

 
Dirty Hitとの契約やレーベルメイトであるThe 1975との関係性、そしてその唯一無二の静寂でありながら壮大なサウンドがたびたび話題になるザ・ジャパニーズ・ハウス(The Japanese House)ことアンバー・ベイン。6月30日にリリースされた2ndアルバム『In the End it Always Does』ではクィアな恋愛や壮大な失恋、人生の希望・絶望や自身のアイデンティティの模索などについて歌っている。最新アルバムの制作過程、クィアアーティストとしての音楽業界に対する意見、クィアなスペースや「居場所」を作ることの重要性、そしてDirty Hitとの信頼関係について聞いた。

※ザ・ジャパニーズ・ハウス来日公演、2024年1月に開催決定(詳細は記事末尾にて)



―はじめまして、高校生の頃からザ・ジャパニーズ・ハウスのファンだったので、インタビューできるなんてとても光栄です。新しいアルバムを聴かせていただきましたが、雨の日に聴きたくなるような、クリーンである種の魔法のようなサウンドが素晴らしかったです。同時に、核となるテーマは、誰かに恋焦がれたり、憧れたり、その人に「自分を見てほしい」という欲望の感情も感じられて。それが日本の観客にどう伝わるのか楽しみです。

アンバー:ありがとう。

―まずお聞きしたいのは、アルバムがリリースされることについて今どう感じているかということ。制作からリリースまでのプロセスはどのようなものでしたか? そしてそれが世界と共有されようとしている今、どのように感じていますか?

アンバー:面白いのが、このアルバムの多くを書いたのは、もう1年以上前のことなんです。ミックスやマスタリングをのぞいて、ほぼ完成させたのが去年の夏だったので、今になってリリースするのはあまり実感がわかないというか。アートワークを作ったり、いろいろ準備したりと、リリースするタイミングになるまでにやらなきゃいけないことがたくさんあるじゃないですか。それで今、こうしてリリース直前になった時(※取材は5月末に実施)、まるで自分の手を離れていくかのように、リスナーの気持ちで向き合えるのが気持ちいいですね。いったん時間を置いて一息つくことで、客観的に自分の作品を見つめられるのも良いなと思うし。当然、ミックスとマスタリングのプロセスが終わる頃にはあまりに何度も聴きすぎて、自分の脳にタトゥーのように刻み込まれた状態になってしまいますからね。

だから今は、この作品がリリースされることについてリラックスした気分でいられるし、最終的な仕上がりについてもすごく満足していて、今考えても何も変えるところはない。それってすごく開放的。だって、自分が作ったものに満足していることが一番大事ですから。

―『W』誌のインタビューで、3人カップルの経験についてや、それが最新アルバムに影響を与えていることについて話していましたね。その関係がいかに真剣で、心境に変化をもたらしたのかが伝わってきました。そして、その関係が解消される前後も、人生にとって大きな出来事だったそうですね。今は穏やかに生活できていそうですが、振り返ってどう感じていますか?

アンバー:その話題に興味を持ってくれるのは面白いですね。今回のアルバムはその3人カップルのことを書いたわけではなくて、1曲や2曲影響されているくらい。私自身、その恋愛の経験について話すのが大好きだし、結果的によくインタビューで触れてもらうことになるけど。

「Friends」という曲があるんですが、これはかなりはっきりとした歌詞で、シリアスな歌詞というよりも、恋に落ちた彼女が二人いる状況下で書いたもの。もう一つは「Over There」という曲で、相手に別れを告げられた時、相手が望んでいた人生を自分が生きていることを実感するような感情をテーマにしています。その曲は、3人カップル関係から一人が抜けた時に書きました。

振り返ってみて、本当にこの経験ができて良かったと思っているし、一切後悔もしていません。恋愛が発生している真っ只中の時も「これは特別なことだ」と理解していました。何かが特別な経験だったと理解するまでに時間が必要だったりするものだけど、この時は違ったし、みんなが経験できるわけじゃないことも知ってる。この経験からたくさんのことを学んだし、今の私を形成しているように思います。痛み、罪悪感、オープンマインドでいる重要性、そして直感を手放すということ。直感とか初期反応から一旦離れて、「なんでこういう気持ちになっているんだろう? この経験から得たいものは?」と考えることは、いい訓練になったと思います。今はその関係も終わってしまったし、比較的安定している気がします。初めてあんなふうにクレイジーなことをすると、まるで旋風に巻き込まれたような気持ちになるから。今はもう、そういうものは求めていません。




―あなたがその経験をオープンに語っているのは、とても興味深いです。私のクィアの友人たちの多くはポリアモリー(関係者全員の合意を得た上で、複数のパートナーと関係を結ぶ恋愛スタイル)の関係にいるのですが、彼らはよく、コミュニケーションがとても重要で、自分の気持ちにもっと直感的になり、自分の言葉に正直でオープンでなければならない、みたいなことを話しています。人間関係そのものではなく、人間同士のつながりや、異なる種類のつながりを探索しなければならないというような経験が、音楽へのアプローチの仕方に変化をもたらしたことはありますか?

アンバー:私の楽曲は基本的に、すべて実際の恋愛経験に基づいているので、どんな恋愛も私の音楽の形を独特なものに変えていきます。一緒にいる人たちや、その人たちと一緒に聴くことになる音楽が、自分のセンスに浸透していくのかもしれないし、恋愛を経験しているからこそ、香りの記憶やオーディオの記憶みたいに、特定のサウンドと感情、特定の人を結びつけたりして、それが作曲するときにも反映されるのかもしれない。

それと、曲作りや音楽に対するプレッシャーみたいなものが減って、オープンになったのは確かだと思います。自分の曲を完全に自分のものにしたいとか、何でも自分がやらなきゃいけないとか、そういう生得的な欲求はあまりなくなりました。プロデューサー、アーティスト、ミキサーといった役割のすべてを自分でこなさなくてもいいし、コラボレーションをしたり、アイディアを与えてもらうことにもかなり積極的になりました。クロエ(Chloe Kraemer:後述のジョージと共に最新作を共同プロデュース)と一緒に仕事をすることで、すべてが変わりましたね。他の女性と一緒に仕事しながらアイディアを出し合うことで、もっとクリエイティブになることができるし、気持ちがとても楽になりました。「この人といると安心できる」という環境づくりが大事だと思います。ジョージ(The 1975のジョージ・ダニエル)とも17歳の頃からの付き合いだから、同じような安心感があるんだと思います。だから、いろんなことを試してみても恥ずかしくない。

というのも、素晴らしい音楽は、「恥ずかしいもの」になる一歩寸前だっていう持論があって。いろんな恥ずかしいことを試すことで、初めて良いものに出会えると思うんです。例えば、アルバムの中に「Joni」という曲があるんですが、たまに聴くと、ちょっとやりすぎだなって思うことがあります。そして、この曲を胸が締め付けられるようなものにしているのは、それだけ真に迫っているということだと思う。あまりに曝け出していて、あまりに直接的なので、ちょっと恥ずかしくなることもある。でも、ぎりぎりのラインにするためには、一旦行き過ぎなければならない。

 
 
 
 

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