The Acesが語る生命力あふれるサウンドの背景、クィアとして自分らしさを探求する意味

ジ・エイシズ(Photo by Adam Alonzo)

昨今、バンド・シーンに新しい風が吹いている。ウェット・レッグやボーイジーニアス、ウェンズデイにクローラーズ……フレッシュな感性を持ったグループが続々デビューし、生き生きとまっすぐな音をかき鳴らしているのだ。中には女性やクィアな表現者たちも多く、自身のアイデンティティに立脚しながら煌めくサウンドを表現しているのも一つの傾向だろう。

ジ・エイシズ(The Aces)はまさにそのような新世代バンドの一つである。ユタ州で結成され2016年にデビュー、当初はThe 1975やハイムとも近しいインディ・ロックの感性が際立っていた。バンドはこれまで4人のうち3人がクィアであることを明かしており、「私たちは一生の絆で結ばれている」とも語る。親密なメンバーシップはTikTokはじめSNSの投稿からも伝わってくるし、その安心感が作品にも反映されているように感じる。

それら強固な関係性に立脚した、煌めく最新作が6月にリリースされた。3作目のアルバム『I've Loved You For So』は、キラキラした高揚感が増したことでこれまでのインディ・ロックの地平から大きくスコープを広げ、楽曲の可能性を拡大させた感がある。今作での変化、そして生命力あふれるサウンドはどのようにして生まれたのか。メールインタビューという形で、ボーカル/ギターのクリスタル・ラミレスに話を訊いた。


左からアリサ・ラミレス(Dr)、クリスタル・ラミレス(Vo, Gt)、マッケンナ・ペティー(Ba)、ケイティー・ヘンダーソン(Gt, Vo)
Photo by Adam Alonzo


―最新アルバム『I’ve Loved You For So Long』制作にあたり、バンド内で議論したコンセプトがあれば教えてください。

クリスタル:私たちが今回話し合っていた主たるコンセプトとテーマは、自己反省について。このアルバムでは、私たちが子ども時代にいかに宗教色の強い郊外で育ったかということについて自身を探求していったんだ。

―「Always Get This Way」をはじめとして、クリスタルがメンタルヘルスを失った様子を歌っている曲が散見されます。どのような出来事があったのでしょうか。

クリスタル:パンデミック中に、私はパニック発作が頻繁に起き、眠るのが非常に難しい状態に陥った。ずっと不安感に悩まされていたんだ。このパニックがどこから来るのか、どうしてこれほど辛いのかという疑問が湧いてきて、それが私たちがメンタルヘルスについて話し始めるきっかけになったんだ。

―精神的に辛い状況の中で、本作の制作はセラピーとして作用しましたか?

クリスタル:間違いなくそう。自分の中の不安との闘い、個人的な人間関係の苦労など、私が人生にわたってずっと抱えてきた問題について、初めて自省することができたと思う。だから、今回のアルバムを作ることで深く探求できたし、そうすることで悩みからは解放されたよ。




―そういった状況の中でも、煌めくシンセの音やポジティブな曲調が印象的です。サウンドがネガティブで陰鬱なものにならなかったのはなぜでしょうか。

クリスタル:つまり、それが私たちってことなんじゃないかな。私たちの根底にあるのは、歌ったり踊ったり希望を感じたりするための音楽なんだ。だから、私たちがいつもやってきたのは、深刻なトピックに取り組んだうえでそれを非常に明るい音楽で表現すること。ギターと軽快なリズムが前面に出ていて、これまで以上にパラモアのようなエモやポップ・パンクに近い印象を受けるでしょう? 今回のアルバムは、自分たちの子ども時代や思春期、そしてティーンエイジャーの頃に聴いていたギターを中心としたバンドにたくさんインスパイアされた。ギタードリブンのバンドのサウンドが光っているよね。私たちは子どもに戻ったような感じだったよ。

―アルバムのプロデュースをされたのは、先行曲同様にKeith Varonでしょうか? 彼とはどういった作品にしようという議論がありましたか?また、それが最も成功したと思われる曲を教えてください。

クリスタル:今回のアルバムは全部、私たちがエグゼクティブ・プロデュースしたんだ。制作にはかなり積極的に関与して、素直な意見を言った。Keithは信じられないほど素晴らしい楽器奏者でありプロデューサーでもあって、彼もアルバムのビジョンを実現させるためにすごくがんばってくれたよ。最も愛しているのは「I've Loved You For So Long」。私たちのビジョンが完全に実現された曲だと言える。


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