The xxのロミーが語るダンスフロアとクィアな愛への祝福、解き放たれたアイデンティティ

ロミー(Photo by Bryan Novak)

 
The xxのギタリスト兼ボーカリストとして、すでに15年以上のキャリアを歩んできたロミー(Romy)が、9月8日に初のソロ・アルバム『Mid Air』をリリースする。彼女はDJとしても既に長く活動しているが、『Mid Air』はフレッド・アゲインやスチュアート・プライスといったダンス・ポップのエキスパートたちと共に制作技術を磨き、その思いを多幸感溢れる楽曲群へと落とし込んだ素晴らしい作品だ。しかもただダンス・トラック集として優れているわけではなく、自身のアイデンティティごと解放されたロミーによる率直にして強靭なメッセージを宿している。つい先頃のフジロック出演時にも、そんな彼女のパフォーマンスに歓喜した人は少なくないだろう。なぜロミーは今、これほどまでに伸び伸びと解放されているのか。じっくりと訊いた。


ー最近はよく来日してくれていますが、今回のフジロックはいかがでしたか。

ロミー:また日本に戻って来られて嬉しいです。フジロックは、The xxとして出演したことはあったけれど、私のDJを誰が観にくるのかなっていう心配が少しあって。でもいざ始まってみたら、お客さんはとてもエネルギーに満ち溢れていたので、嬉しいサプライズでしたね。

ー会場では多くのファンとも交流していたみたいで。SNSに写真がアップされているのを見かけたりしたんですけど。

ロミー:そう。今回は私のDJが遅い時間だったこともあって、フジロックの雰囲気も見たかったので早めに会場入りしたんです。The xxで出演したときは、スケジュールの都合であまりフェスを楽しめなかったので。今回は昼間から会場を歩き回って、いろんな人に会って話をして、自撮りを一緒にしようって誘われたり。お客さんのワクワクした気持ちを感じられたのも良かったです。




フジロックでのライブ写真(Photo by Kazma Kobayashi)

ーDJのときは、あなた自身がとてもハイになって情熱的に盛り上がっている様子が伝わってきました。The xxのときのあなたとは少しイメージが違っていて、驚いたところもあるんですけど。ステージの手応えはどうでしたか。

ロミー:ハイテンポな音楽を多くプレイしていることもあるし、何よりお客さんのエネルギーを感じ取って、自然に興奮してしまうところがあります。これまでのThe xxのときはとてもシャイで、自意識過剰みたいなところもあったし。今でもそういうところはあるんだけど(笑)、昔よりは楽しんで、自分自身を解放しながら自由にプレイできるようになったと思います。

ーDJではソロ曲のリミックスがハイライトになっていましたし、今回のデビュー・アルバム『Mid Air』は、繊細な構造がある一方、強い自信と主張が窺える作品になったと思いますが、どうでしょう。

ロミー:アルバムが完成して、まずはホッとしています。制作には時間がかかって、それは私の自信をビルドアップするために必要な時間だったと思いますし、自分がやりたい音楽を正直に表現するためにも必要な時間でした。さっきも言ったハイテンポな音楽を自分で体現するにも、少し時間がかかりましたね。



ー「自分自身を解放する」というプロセスについて仰っていましたが、クィア・コミュニティとダンス文化の歴史的な深い結びつきをあらためて提示するアルバムだと思いましたし、フジロックのステージでも何か使命感のようなものを感じたんですが、そのあたりはどうですか。

ロミー:そうですね。クィア・コミュニティを賞賛してサポートしたい、という気持ちを抱いているので、使命感のようなものはあると思います。私が初めてロンドンのクィア・クラブに行ったのは16歳の頃だったんですが、そのときにある種の安心感、アットホーム感のようなものを強く感じたんですね。自分のセクシュアリティのままでいいんだ、という肯定をもたらしてくれる居場所というか。そこでプレイされていた音楽も大きな影響になっているので、まさに仰るとおりだと思います。

ー『Mid Air』には、「Enjoy Your Life」のように古き良きガラージュ・サウンドがあれば、「Strong」のようにバレアリックなサウンドもあって。曲調の多様性はあらかじめ意図していましたか。

ロミー:確かに、私はいろいろなスタイルのダンス・ミュージックが好きなので、自分のムード次第で何を作りたいか、何を聴きたいか、というのが変わってきます。そういう部分もしっかり表現したかったので、いろいろなリファレンス・ポイントになるものを聴いたり、プレイリストを作ったりしていました。ただ、過去の音楽に影響を受けている部分もあるんですけど、私が作る音楽は未来を見据えた、コンテンポラリーなものにしたいという思いがありますね。



ー『Mid Air』というアルバム・タイトルは、自由な開放感が受け止められると同時に、拠り所のない不安も感じられるんですが、このタイトルに込めた意図はどのようなものですか。

ロミー:このタイトルを決めるまでには随分時間がかかりました。『Emotional』や『Euphoric』といったタイトル候補もあったんですが、それらもちょっと意味が広すぎるな、と感じて。重さをまったく感じないような状態の、ある感覚的な瞬間を捉えた表現にしたかったんです。ダンスフロアで感じられるものであったり、それ以外の解放的な体験の中で感じられるものをイメージしました。それと同時に抽象的なイメージも作りたかったので、解釈は人それぞれ自由で良いと思います。仰っていただいたように、今はまだ不安定で悩んでいる状態、という解釈でもいいですね。「Mid Air ft. Beverly Glenn-Copeland」の歌詞の中では“It hit me in mid air”と表現していて、ふとしたときに重要なことに気づく、という体験を表しています。その曲がシームレスに「Enjoy Your Life」へと繋がる構成になっているので、「Enjoy Your Life」こそ重要な気づきなんだ、ということになりますね。

ーなるほど。ちょうど「Mid Air」から「Enjoy Your Life」へと繋がる歌詞の話が出ましたが、ここではビバリー・グレン=コープランドの「La Vita」がサンプリングされていますね。ビバリーの作品からはどのようなインスピレーションを得たのですか。

ロミー:「La Vita」を聴いたとき、とてもシンプルで力強い歌詞だな、と感動しました。“Enjoy Your Life”という姿勢が大切なのだと。私は幼い頃に悲しい体験をして、人生は短く儚いものだな、ということを経験として知ったので、ときどき“Enjoy Your Life”とという姿勢を忘れがちなんですね。だから、この「Enjoy Your Life」という曲は私にとってのリマインダーでもあるんです。決して軽薄な気持ちのメッセージとして発したいわけではなく、人生が大変なときでも良いところを見つけて楽しもう、という気持ちが込められています。




ーまさに、パートナーのヴィク・レンテーニュさんが監督した「Enjoy Your Life」のビデオでは、あなたの亡くなられたお母さんの面影が映っていたりして、いろいろなことが起こりうる人生そのものを捉えたビデオだな、と感動しました。そんなふうに、人生そのもの大きく捉えて表現していくことも、あなたがソロ活動を行なっていく上では必要な手続きだったと思いますか。

ロミー:あのビデオをそんなふうに受け取ってくれてありがとう。人生の大きなテーマと向き合うことも無意識にやっていたことで、「Enjoy Your Life」や「Strong」では喪失感や死の悲しみについて歌っているんですけど、私は普段からそういうことを考えるタイプではなくて、別に元気だよ、って言ってしまうタイプなんですね。でも、こういった曲を書くことで、心の奥の方にある感情を表現することができましたし、こうして作品について皆さんとお話しすることで会話が生まれています。多くの人と感情を共有できる機会になりましたし、自分としても癒しの体験ができたと思います。

Translated by Emi Aoki

 
 
 
 

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