ザ・ビートルズ「最後の新曲」は4人の友情の証 関係者が明かす「Now and Then」制作秘話

「Now and Then」の制作プロセス

「Now and Then」は、同曲を1962年発表の「Love Me Do」(リンゴがドラムを叩いているバージョン)とカップリングした両A面レコードとカセットの販売も予定されている。ジャケットは著名なエド・ルシェが手がけた。本シングルは、神経質なティーンエイジャーたちが伝説となるまでの60年間の歴史の始まりと終わりを結びつけるものだ。ピーター・ジャクソンがディレクターを務め、最先端のテクノロジーを駆使したミュージックビデオは、発売翌日の11月3日金曜に公開される。ジャクソンにとって初のMVとなるそれは、彼のフィルモグラフィーで最も短い作品となるだろう。


「Now and Then」カセット(ビートルズ・ストア限定商品)

さらに、オリヴァー・マーレイが監督と脚本を務めた、同曲を紹介する12分に及ぶ映像作品が11月2日(日本時間午前4時30分)に公開された。同曲を初めて聴く上でうってつけの体験となるであろう『Now and Then — The Last Beatles Song』と題されたこの作品では、ショーン・オノ・レノン、ポール、リンゴ、ジャクソンの4人が、ジョンのピアノ(ショーンは父親が自宅でいつも音楽を奏でていたと強調する)からポールとリンゴの各パートのレコーディングまで、本曲が完成するまでの過程について語る。

ジョンを除く3人は1995年に「Now and Then」を形にしようと試み、ジョージは自身のギターパートをレコーディングしたものの、曲は未完成のままとなっていた。後にポールが録ったスライドギターのソロは、ジョージのスタイルを意識しているという。「僕なりのジョージへのトリビュートだ」。ポールは同映像作品でそう語っている。



夏に同曲の存在を仄めかしたポールがAIに言及したことで、ファンの間では激しい議論が巻き起こった。マーティンは笑いながらこう話している。「渋々だったかもしれないけど、ビートルズの曲にAIを使っているとポールが明かしたことは可笑しいよね。人工的あるいは知的(Artificial or Intelligent)という言葉は、ビートルズとはまるで無縁だから」。

ポールとリンゴはショーン・オノ・レノンとオリヴィア・ハリソンの承諾を得て、友人2人が残した曲の完成をさせるべく動き始めた。「ポールはそれを紛れもないビートルズの曲として仕上げることにこだわっていた」とマーティンは話す。「中途半端なトリビュート作品みたいなものじゃなくてね。僕に言わせれば、今っぽくする必要はまるでなかった。リンゴはリンゴであるべきで、いつものようにドラムを叩くべきだ。彼はクリックなしでドラムを叩き、それはリンゴの音以外の何者でもなかった。代役はいないんだよ」。

父のジョージがファブ・フォーのクラシックの数々で手腕を発揮したように、マーティンは同曲のストリングスアレンジを担当している。「父のやり方をできる限り真似ようとした」とマーティンは話す。「父を真似てビートルズの曲の弦アレンジをする機会なんて、そうはないだろうからね」。

「Now and Then」のプロデュースはポールとマーティンが担当し、ミックスはスパイク・ステントが手がけた。ポールがプロダクション面でビートルズのレコードにクレジットされるのはこれが初めてだ。「ポールは曲を大胆にアレンジした」とマーティンは話す。「曲を聴いた時、彼はすでに曲構成を変更して新たなパートを書き、ギターソロを録り、ボーカルもギターもほぼ仕上げていた。僕は彼と一緒に作業しながら少し手を加えただけだ」。

精巧なディティールの一部として、ポールとジャイルスはビートルズのクラシック3曲のバッキングボーカルをミックスに用いた。「ビートルズが健在なら、曲のどこかに必ずボーカルハーモニーを入れるはずだと思った」とマーティンは話す。「もし入れるなら、4人全員が歌っているものじゃないとだめだ。だから『Eleanor Rigby』『Here, There and Everywhere』『Because』の3曲の一部を組み合わせた。もちろん4人が生で歌った場合とは比較にならないけど、彼らがスタジオで録ったテイクであることには変わりない。それが一番重要なんだ。それがビートルズのレコードである以上、4人全員が揃っていなきゃ意味がないんだよ」。

だが、同曲のインパクトがそういった事情によって薄れている印象はない。「実際にはそうじゃないと分かっていても、ポールに歌わせるつもりでジョンが最近書いた曲のように聞こえるはずだ」とマーティンは話す。「甘くほろ苦いソングライティングはまさしくジョンだ。幸せと後悔が入り混じっているという点で、『In My Life』に通じるところがある」。

Translated by Masaaki Yoshida

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