ザ・ビートルズ「最後の新曲」は4人の友情の証 関係者が明かす「Now and Then」制作秘話

生まれ変わる『赤盤』と『青盤』

「Now and Then」は、リマスター音源で再発される2023年版の『赤盤』と『青盤』のフィナーレを担う。言うまでもなく、冒頭を飾るのは「Love Me Do」(アメリカのファンにはやや馴染みの薄い、イギリスでシングルとして発売されたバージョン)。『赤盤』には12曲、そして『青盤』には「Now and Then」を含む9曲の未発表曲が収録される。180グラムの6枚組となるアナログ盤は、4枚組のCD版とはパッケージングが異なる。アナログ盤ではオリジナルの曲順が完全に再現されており(オリジナル版の非の打ちどころのなさを考えれば当然だろう)、未発表曲はそれぞれの3枚目のディスクに収録されているのに対し、CDとストリーミングでは時系列順に収録されている。75曲全て、マーティンとサム・オケルがアビーロード・スタジオで、ステレオおよびドルビーアトモス仕様でミックスした。

新装版ではオリジナル盤の欠点が解消されている。とりわけ大きいのはジョージが手がけた曲、カバーバージョン、『Revolver』からの楽曲が新たに追加されたことだろう。新エディションの『赤盤』では「I Saw Her Standing There」「Twist and Shout」「This Boy」「Roll Over Beethoven」「You Really Got a Hold on Me」「You Can’t Do That」「If I Needed Someone」「Got to Get You Into My Life」「I’m Only Sleeping」「Taxman」「Here, There and Everywhere」「Tomorrow Never Knows」を新たに収録。一方『青盤』には「Within You Without You」「Blackbird」「Dear Prudence」「Glass Onion」「Hey Bulldog」「Oh! Darling」「I Me Mine」「I Want You (She’s So Heavy)」が新たに追加されている。お気づきのように、「Old Brown Shoe」は新装版の『青盤』にも収録されているが、その理由は墓場で眠るエレナー・リグビーのみが知るところだ。


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ビートルズの一連の再発の皮切りとなった『Sgt. Pepper’s』スペシャルエディションが2017年に発表されて以来、『赤盤』と『青盤』に収録されている曲の多くが新たにミックスされている。その中には『White Album』(2018年)、『Abbey Road』(2019年)、『Let It Be』(2021年)、『Revolver』 (2022年)、そして2015年発表のコンピレーション『1』でリミックスされた曲が含まれる。それ以外の楽曲はマーティンとオケルが今回新たに、ジャクソンとWingNut Filmsのオーディオチームによる「ミックス解体」テクノロジーを用いて再ミックスした。同テクノロジーの威力を『Revolver』で実感(リンゴのドラムの残響音の圧倒的な広がり!)した人なら、これらの楽曲の印象がどれほど大きく変わるかは予想がつくだろう。「Drive My Car」「Day Tripper」「Twist and Shout」「You Can’t Do That」、そのどれもがかつてなくパワフルに響く。「こんなことが可能になるなんて、夢にも思わなかった」とマーティンは語っている。

彼は幾度となく、初期の音源はこういったテクノロジーの恩恵を受けるにはあまりにラフすぎると語っていたが、今ではその考えを改めている。「知っての通り、僕は現実主義者だ」と彼は話す。「初期の音源の変化ぶりには、本当に驚かされた。まさかこんなことが可能になるとはね。『I Saw Her Standing There』や『All My Loving』、それに『Twist and Shout』のような曲に、このテクノロジーが使えるとは思っていなかったから。たとえばリンゴのドラムなんかは、本来のパワーが見事に表現されている。演奏自体が圧倒的に優れているから、それに見合ったものにできて嬉しく思っているよ」。

マーティン曰く、ストリーミングプラットフォームでは後期の作品、特に『Abbey Road』のような音質の面で圧倒的に優れた作品の方が有利だという。「ビートルズの作品で最も再生されている曲の多くは後期の作品だ」と彼は話す。「その観点で言えば、『Abbey Road』が最も人気のあるアルバムだ。曲がモダンだし、純粋に音が良いからね」。本プロジェクトの目標は、初期の作品にも後期のレコードのようなクリアさとパンチをもたらすことだった。「『赤盤』の前半の楽曲に対する印象は、これまでとは大きく変わるんじゃないかと思う。リンゴは『僕らはパンクスの集まりだった』と話しているけど、まさにそれを地で行く音になっているからね。4人の若者による溢れんばかりのエネルギーっていう初期の音源の魅力を、やっと正しく伝えられるようになったんだ」。

従来の『赤盤』『青盤』の最大の欠点はハリスンが書いた曲の欠落だったが、その点が解消されたことは多くのファンを喜ばせるはずだ。「多分アラン・クレインの意向だったんだろうね」とマーティンは話す。「でも今は、そういう重要なことはビートルズ自身が決めている。意思決定に関わっている人数は驚くほど少ないんだ。取締役会議にかけるなんてことはしない。世間一般の認識に反して、ビートルズに関わっている人はみんな思いやりのある人ばかりだ。だからジョージの曲が入っていないのはおかしいと感じれば、ポールもショーンもリンゴもそれを正そうとする。素晴らしいことだよ」

最も議論が白熱するのは、「I Am the Walrus」の新ミックスだろう。新バージョンでは、BBCラジオ制作の『リア王』のセリフの一部が削られているように思われる。エドマンドの声(「私は汝をよく知っている、有能な悪党だ」)は健在だが、オズワルドのセリフ(「私の遺体を埋めてくれ!」)はほぼ聞き取れない。「あの曲の制作には極めて無茶な方法が意図的に使われていたんだ」とマーティンは話す。「最大の問題は、後半の部分がモノラル音源をADTに通すことで無理やりステレオにされていた点だ。だから、まずいろんな素材を分離して、改めて組み直す必要があった」

Translated by Masaaki Yoshida

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