ザ・キルズが語る、ギターミュージックの新たな地平を開拓し続ける原動力

 
過去を振り返るのは好きじゃない

―2020年にはゼロ年代にリリースしたB面曲やレア曲をまとめたコンピレーション『Little Bastards』をリリースし、2022年にはチャド・ブレイクによる『No Wow』のリミックスアルバムをリリースしました。これらを機に、改めて過去の自分たちを振り返ってどのように感じたかを教えてください。

ジェイミー:あれは俺は全然好きじゃなかったなぁ。

アリソン:私にとっては興味深かった。ちょうどパンデミックの真っ最中だったから、不思議なトレーニングのようなものだった。もちろん飛行機も恋しかったし、レコーディングも、ツアーに出ることもすべてが恋しかったけど。そういう状況の中で自分たちのやってきたことを振り返るというのは、正直に言ってあまり居心地のよいものではなくて、変な気分だった。私たちはつねに前進して、いつも新しいものを作り続けてきたから、この歳になって自分のやりたいことに後れを取るとは思わなかったな。

ジェイミー:あの頃は、本当にとんでもない時期だったよね。世界中の誰もが同じような気分になっていた……将来についての不安があって、待ち受けている未来がどんなものになるのか想像もできなかった。それで立ち止まって過去を振り返った時に、家族のことなんかも考えるようになって。俺たちはその頃、既に新しいアルバムの曲を書き始めていて、未来が待ち遠しくて興奮してたんだ。それなのに過去の作品をもう一度振り返ってノスタルジックな気分に陥る羽目になってしまって、俺は嫌だったな。俺はとにかく前だけを見て、俺たちの新しいレコードを作って、世界に聴いてもらいたかった。もちろん、世界中のすべての人にとって非常に難しい時期ではあったんだけどね。

アリソン:もちろん変な気分になるプロジェクトではあったけど、昔の曲を聴き返すことは、私は嫌いじゃなかった。昔の曲のビデオや写真を見返したり。特にB面の曲は、10年前に4〜5回演奏してそれっきりというものも結構あったから、こういう機会があって聴き返すことができたのは面白かった。当時はアルバムに入れるには何か足りないと思っていた曲も、実はすごくクリエイティブだったりインスピレーションを与えてくれる存在だったりしたことに気付かされたりしたし。そういう曲を再発見出来て、自分たちから切り離していた曲に対するありがたみを感じることが出来たのは良かったかな。ただ、本当に感情的にはジェットコースターに乗っているような感覚だった。




―最近、一部の若者たちの間では、インディスリーズと呼ばれてゼロ年代のインディロックやそれを取り巻くカルチャーやファッションが憧憬の対象になっています。過去に自分たちがやっていたことがそのように注目を浴びるのは、むず痒い気持ちですか?

アリソン:驚きもあるし、興味深いことでもあるけど、それを言われるとどういう顔をしていいのか分からなくなっちゃう。私の周りでそんな話をしている人は誰もいないから(笑)。

ジェイミー:俺はそういうノスタルジアに恐怖を覚えるよ。過去を振り返るのは好きじゃないからね。とにかく前だけを見て前進あるのみだと思ってるからさ。でも、人生はノスタルジアに支配されている部分もあるのは分かるし、音楽は繰り返されるものだからね。音楽はリバイバルを繰り返しながらひとつの輪をぐるぐる回っている感じだよね。90年代のパンクリバイバルにしてもそうだし、20年周期で繰り返されているような気がする。そうやって音楽の世界はできているんじゃないかな。自分が子どもの頃に耳にしていた音楽を、成長して演奏するからそうなるのかな。

アリソン:私が成長の過程で聴いてきた音楽は今でも変わらず大好きだし、多大な影響を受けているから、自分がその対象になることについて、気分を害することはなくて。とても素晴らしい驚きだし、クールなことだと思う。アーティストとして、ある意味誰かにインスピレーションを与えたくて音楽を作っているところもあると思うし。もしそんな風に私たちのことを言ってくれる人がいるのだとしたら、すごくハッピーなことだね。


2005年のドキュメンタリー作品『I Hate The Way You Love』

―キルズはデビューから20年以上が経ちましたが、これほどまで長く続けてこられた理由はどこにあると思いますか? あなたたちがキャリアを重ねるうえでロールモデルとしているアーティストはいるのでしょうか?

ジェイミー:バンドを始めた頃は、フガジとかソニック・ユースとか、そういうバンドについてよく話をしていたよ。人生を音楽へと昇華させたバンドとしてね。人生をどういう風に音楽という形にしているか、音楽をどういう風に人生という形にしているかについて。ソニック・ユースは、永遠にバンドを続けると思っていたし。彼らはレーベルから解雇されて辞めるようなバンドじゃなかったし、ヒット曲の有無や人気の度合いなんてものは関係なかった。大企業や音楽業界は彼らを止めることは出来なかったし、そういうものに振り回されないバンドだったからね。俺たちもそういうバンドになりたかったんだ。人生がある限り、ずっと続けていきたいと思っていたから。

アリソン:音楽を辞めるなんて出来ない。私は本当に音楽を作ることが好きだし、私たちに出来ることはたくさんあると思うから。

ジェイミー:そうした思いは、続ければ続けるほどどんどん大きくなっていったね。過去は振り返りたくない、前だけを見ていたいって言ったけど、辞めてしまったらそこでやってきたこと全てが過去のものになってしまう。やればやるほど、まだまだ先は長いと思うようになったんだ。

アリソン:その通りだね。


Photo by Myles Hendrik

―最後の質問です。もしあなたたちがフェスを主催し、誰でも好きなアーティストを呼べるとしたら、理想的なラインナップはどんなものになりますか? 何組か出演してもらいたいアーティストを挙げてください。もちろん、あなたたちは『God Games』を引っ提げての出演です。

アリソン:そうだな……フガジとまたウィーンのフェスティバルみたいに一緒にやりたい。それに、イギー・ポップにはぜひ出演してもらいたいな。

ジェイミー:ニック・ケイヴにも出てもらいたいね。ニック・ケイヴのライブを観たことがあるか分からないけど、クロアチアのフェスティバルでヘッドラインを務めたのを観たことがあってね。観客のほとんどが彼の音楽をよく知らなかったんだけど、6万人の前でパフォーマンスしたんだ。彼は巨匠だよ。彼が手のひらを差し伸べるだけで……それはもうすごかった(笑)。彼にはぜひ出てもらいたいな。あとは、リアーナ! カモン、俺は彼女とつるみたいんだ(笑)。

アリソン:フィオナ・アップルにもお願いしたい!

ジェイミー:声を大にしてお願いしたいね。

アリソン:なかなか良いラインナップなんじゃない? このメンツだったら毎日でも観たい!(笑)




ザ・キルズ
『God Games』
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国内盤CDボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13635

Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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