ザ・キルズが語る、ギターミュージックの新たな地平を開拓し続ける原動力

 
ギターミュージックの可能性と幅広い好奇心

―『God Games』のサウンドテクスチャーは非常に刺激的です。例えば『Blood Pressures』ではヴィンテージのテープエコーを使ったり、ギターは7つのアンプでそれぞれ別の音を出したりしていたそうですが……。

アリソン:(爆笑)。

ジェイミー:なんだよ、笑うなよ(笑)。

―(笑)今回のサウンドテクスチャーを完成させるためにおこなった実験や挑戦があれば教えてください。

ジェイミー:俺たちの音楽はとてもミニマルなんだ。俺は色んな楽器を入れたり、色んなサウンドが過剰に入っているのは好きじゃなくて……なんかゾッとしちゃうんだよね。楽曲の中に、スペースや静寂を持たせることで、ひとつの核心に迫る音を生み出したいと思っている。俺はヒップホップやR&Bの低めの柔らかなベースの音がすごく好きで。ギターミュージックにはああいうソフトなベースってなかなかなくて、ギターでどうにかベースの代わりになるソフトな音が出せないか試行錯誤したんだ。それで、ひとつのアンプにはオプティックペダルを繋いで、重低音を出して……という感じで、4つのアンプからそれぞれ違った音を出せないか、かなりの時間をかけたね。それぞれのアンプから出るギターの音でオーケストラのような効果を生みたかったんだ。俺は自分のギターが他の誰かと同じような音になるのは嫌なんだよ。



―さきほどジェイミーからMFドゥームの名前が出ていましたが、ドラムビーツのプロダクションをするときにMFドゥームをよく聴いていたそうですね。ヒップホップはこのアルバムにおいて重要な影響源だと言えますか?

ジェイミー:そうそう。『Madvillainy』は多大な影響を与えてくれたレコードだよ。実際に楽曲の中にそうした要素を聴き取ることはないと思うけどね。言ってみれば、そのスタンダードの高さだ。例えば、俺たちの音楽にフィオナ・アップルの要素は全く感じないだろうけど、彼女の『Fetch the Bold Cutters』が本当に好きで、そのスタンダードの高さは類い希なるものだと思ってる。MFドゥームもスタンダードが本当に高いし、カニエ・ウェストも非常に高いスタンダードを誇っている。そうしたものにとても影響されているんだ。キルズの音楽性にそうした人たちからの影響を感じ取ることは出来ないと思うけど、「フィオナ、すげえっ!」みたいなものが根底にあって、それが俺たちを高みへと押し上げてくれていると思うんだよね。




―アルバムには、ヒップホップだけでなく、レゲエの影響も感じられます。

ジェイミー:うん、プロダクションの面においてはね。リー・スクラッチ・ペリーとか。ヒップホップにしてもレゲエにしてもR&Bにしても、音楽的な要素はそこまで採り入れていないけど、プロダクションの面ではすごく影響を受けているよ。ひどく刺激的で衝撃的で、「どうやったらこんなこと出来るんだ!? なぜロックミュージックはもっとプロダクションのディテールひとつひとつに気を配って世界を押し広げていかないんだ!? これってどうやってるんだ!?」ってね。俺はちょっと興奮し過ぎかもしれないけど(笑)。

―今回のプロデューサーであるポール・エプワースは、キルズの初期にサウンドマンをしていたそうですね。まさにプロダクションのディテールを追及する上で良いパートナーだと思いますが、このタイミングでまた彼と仕事をしようと思った理由を教えてください。

アリソン:曲も書き終わってスタジオに入る準備が出来た時にプロデューサーを迎え入れようということになって、誰がいいか話し合っている時に、ポールと一緒にやれたらクールだと思って。ポールとは2004年に彼が私たちのライブのサウンドエンジニアをやっていた時以来、一緒に仕事をしたことがなかった。それでポールにコンタクトを取ったら、ロンドンのザ・チャーチっていう素晴らしいスタジオで働いていることが分かって(注:ノースロンドンの教会を改修して作られた名門スタジオ。ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートが所有していたが、デヴィッド・グレイの手に渡り、現在はエプワースが所有)、そこに行ったの。彼のプロダクションのクオリティは本当に素晴らしくて、メロディの魅力を最大限に引き出してくれたし、サウンドを完璧にしてくれた。それに、彼とは最初に話し合いを重ねる必要がなかったのも良かった。まるでバンドの一員みたいに、「ハーイ、ポール。久しぶり!」って感じで(笑)。

ジェイミー:彼は魔法を操れて、とても数学的でアカデミックな視点を持っているんだ。全ての曲を書き終えてみて、そのほとんどにギターが入っていなかったんだけど、彼は本当に素晴らしいサウンドにする方法を熟知していた。それは、俺たちのことを良く知っていて理解してくれている人でなければ為し得なかったと思う。それに、俺たちの音楽がどこから始まっているかをね。俺たちのいちばん最初のレコードが、古いフェンダーのアンプを使っていることを知っていなければ。もし新しい人に任せて、その人が俺たちが2002年にどんなことをやっていたか知らなければ、洗練されたデジタル製のリズムの上に土台も理解せず色んなものを積み重ねていって、すごく散らかった感じになってしまっていたと思うよ。ギターと、生っぽいサウンドの歌という土台の上に今回俺たちが作ったものをレイヤーしていくことが必要だったんだ。ポールは初期の頃からやってくれているから、俺たちのソウルというものを理解してくれていたんだよ。


2003年の楽曲「Fried My Little Brains」(『Keep On Your Mean』収録)

―エプワースとスタジオに入った時点では、ほとんどの曲にギターが入っていなかったということですが、ソングライティングでもギターを使わなかったんですよね? 前作リリース時のインタビューで、ジェイミーは「今の若者はコンピューターとソフトウェアだけで音楽を作るから、ギターバンドがもうどこにもいない」と話していました。そういった実感と、レコーディングの段階までギターを使わなかったこととの間には、何か関係はありますか?

ジェイミー:いや、俺はギターミュージックはジャンルを超えてその限界を押し広げて来たんじゃないかと思っている。ロックンロールの持つノスタルジアをお手本にしながら、限界を超えて画期的なサウンドを生み出してきた。俺自身も、ギターをプレイする時はいつもそういうものを見つけたいと思ってるんだ。

前作のアルバムの時にフェスティバルツアーをやったんだけど、バスに乗り込んだ午前11時から1日中、ギターの音はほとんど耳にすることがなくて、ずっと(テクノのビートを口ずさみながら)そういうのが聞こえてきてさ。でも、俺たちがギターをかき鳴らすと「なんなんだ、これは?」って感じでみんな食いついて来た。ギターミュージックは横ばい状態で、瀕死の状態にあるって言われてるけど、俺はそんなことはないと思う。今の19歳のクールな若者がバンドを始めるとすれば、きっとギターを手にしてギターバンドを組むと信じてるんだ。自分の感情を表現するのに、エレクトロニックギター以上のものはないと思うから。クラシック音楽が不滅なのは、他の音楽が取って代わることのできないものを持っているからだよ。ギターミュージックは、俺にとってはそういう存在なんだ。


Photo by Myles Hendrik

―前作『Ash & Ice』のリリースは2016年で、当時はギターミュージックが本当にスポットライトの陰に隠れてしまっていたように思います。でも最近は、マネスキンがアメリカでもブレイクしたり、ウェット・レッグがインディの最大公約数的に人気を博したり、ハリー・スタイルズやオリヴィア・ロドリゴみたいなポップアクトもギターミュージックを取り入れたりと、ゼロ年代とは違った形でギターミュージックが注目を浴び始めているようにも感じますね。

ジェイミー:その通りだね。今現在も面白いアーティストがたくさん出て来ていると思うよ。例えばピクチャー・パーラーとか、ババ・アリとか、デヴィッド・ロスとか。面白いことをやっている人たちが出て来る昨今の状況は、とても健康的だと思うね。そういう素晴らしい音楽をやっているギターバンドが、俺たちを影響を受けたバンドに挙げてくれたりするのは、本当に嬉しいし、信じられないよ。

アリソン:ギターミュージックは今でも素晴らしいものだと思う。とても人間的なサウンド、人間的な表現方法だから。アートを自分の手で作り出すことに夢中になるのは、いつの時代でもとても素敵なことだし。私自身もエレクトリックギターのサウンドが本当に好き。それ以上好きな音はないから。

ジェイミー:エレクトリックギターは音楽のジャンルではなくて、単なる楽器の一種なんだよね。だから、ギターミュージックが優れているか、エレクトロニックミュージックが優れているかという議論はナンセンスだと思う。色んな音楽を全部ごちゃまぜにして、ジャンルの垣根を越えるべきだと思うんだ。でも、俺自身はEDMやダンスミュージックを1日中聴くことは出来ないな。4時間くらいが限界で、それ以上聴いたら頭がおかしくなる。クラシック音楽にしてもそうで、1日中聴くことは不可能だ。違う音楽を色々聴きたいよね。




―今は音楽シーン自体が、色んな音楽がごちゃ混ぜの状況ですよね。ラテン圏の音楽、メキシコのリージョナル・メキシカン・ミュージック、西アフリカのアフロビーツ、韓国のK-POPなど、様々な国の音楽が世界的にヒットしており、ジェイミーがLAの街角で感じたような文化のメルティングポット的な状況がメインストリームで起きています。そういった意味でも『God Games』は非常に現代的だと言えるわけですが、あなたたちはそのような音楽シーンの現状をどの程度意識していましたか?

アリソン:敢えて意識する必要はないと思う。どこにいても耳に入ってくるから。トップヒットになっているような曲はどこでも流れているし、大都会、特にLAでは色々な音楽をごちゃ混ぜに聴くことが出来る。街角の至るところで違う音楽が流れていて、それが上手く調和しているから、それを私たちは飲み込むだけ。まるで毎日がパレードみたいな気分。

ジェイミー:俺たちが子どもの頃は、自分が属する音楽属性みたいなものを自ら選ぶ必要があった。自分はパンクでいこうとか、モッズだ、ロカビリーだってね。でも、今はそうする必要がなくなったと思うんだ。K-POPはちょっと違うから語るのは憚られるけど……俺自身はBLACKPINKが好きで何度か観に行ったりもしてるけどね。とにかく、現代は地球の至るところを旅しているようなものだ。インドにいると思ったら、ニューヨークのブルックリンにいたり。ジャンルのクロスオーバーはどこにでも存在していて。でも、俺はそういうことにはあまり興味がないんだよね。自分自身が好きな音楽に正直であるべきだと思うから。自分の好きな音楽が、自分自身に影響を与えているのは間違いないからね。

Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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