ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選【フジロック直前予習】

ザ・ストロークス

 
いよいよ今週末、7月28日〜30日に開催されるフジロック。ザ・ストロークス(The Strokes)の初日ヘッドライナー出演を記念し、彼らのアルバム5作品が初の日本語帯付レコード(輸入盤国内仕様)でリリースされる。そこで今回は、バンドを初期から追ってきた音楽ライター・小林祥晴に、20年超のキャリアからセレクトした「今すぐ振り返っておきたい名曲」を解説してもらった。

時代を塗り替えたデビュー作『Is This It?』から20年余り、ストロークスはいま第二の全盛期を迎えている。現時点での最新作『The New Abnormal』は、歴史的名盤である初期2作以来の傑作。このアルバムで初のグラミー受賞、時代の寵児ビリー・アイリッシュからは「2020年のベストアルバム」と絶賛されるなど、追い風も吹いている。詳しくは以下に譲るが、受難の季節だった2010年代を経て、彼らは再び波に乗り出した。

だからこそ、実に17年ぶりの凱旋となるフジロックでのヘッドライナー公演は見逃すわけにいかない。最近のライブはこれまでのアルバムをほぼすべて網羅したオールタイムベスト的なセットリスト。過去最高の充実度だと断言できる。しかも彼らは、昨年からレッド・ホット・チリ・ペッパーズのオープニングアクトとして全米スタジアムツアーを周り、フジロック直前には単独アリーナ公演やフェスで東南アジアを巡回。エンジンが完全に暖まった状態で苗場の地を踏むのだ。

となれば、いまこそがストロークスの偉大な功績を振り返るには絶好のタイミング。そこで本稿では、2022年以降のライブのセットリストから10曲を厳選。それぞれの曲を時代背景や当時の音楽シーン/バンドが置かれていた状況を踏まえて解説していく。いまからでも遅くはない。フジロックの直前予習を兼ね、ギターミュージックを鮮やかに再定義した5人組による珠玉の名曲群を再訪しよう。

【プレイリストで聴く】ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選

★2023年7月26日リリース
1stアルバム『Is This It?』(ブラック盤)
2ndアルバム『Room On Fire』(ブルー盤)
3rdアルバム『The First Impression Of Earth』(ヘイジー・レッド盤)


★2023年8月30日(水)リリース
4thアルバム『Angles』(パープル盤)
5thアルバム『Comedown Machine』(イエロー&レッド・マーブル盤)

予約/購入リンク: https://TheStrokesJP.lnk.to/Vinyl



「The Modern Age」(『Is This It?』収録:2001年)



すべてはここから始まった。何もかもが完璧だったデビュー曲「The Modern Age」は、2000年代の新しい扉を押し開いた。軋みを上げるほどタイトなサウンドで、ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!と打ちつけていくアンサンブルは、とっくに死んだはずのロックンロールがもう一度蘇ることが出来るのだという、あまりにも鮮烈な宣言だった。

2000年前後のギター音楽と言えば、アメリカではリンプ・ビズキットに代表されるニューメタル、イギリスではポスト・ブリットポップ世代のトラヴィスや初期コールドプレイのメロウなバラッドが人気を博していた。それらはある意味、90年代US/UKオルタナティブからエッジを取り除いた再生産品。耳当たりはいいが、刺激に欠けていた。トム・ヨークでなくとも「ロックなんて退屈だ、ゴミ音楽じゃないか!」と言いたくなる状況だったのである。

だがストロークスは、そこで当時脚光を浴びていたアンダーグラウンドの実験的なIDMやティンバランドがプロデュースする先鋭的ヒップホップにヒントを求めることはしなかった。彼らが選んだのは、贅肉をすべて削ぎ落したプリミティブなロックンロールに“敢えて回帰する”こと。まさにコロンブスの卵的な発想だ。その慧眼は世界中の若者たちに電流が走るようなショックを与え、時代遅れの楽器に成り下がっていたギターを再び手に取らせた。リバティーンズやアークティック・モンキーズからThe 1975やウェット・レッグに至るまで、ストロークスがいなければ生まれなかったと言っても過言ではない。

当時のストロークスは“NYパンクの焼き直し”と揶揄されることも多かったが、その批判が的外れなのは「The Modern Age」を聴けばすぐにわかる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「I'm Waiting For The Man」を下敷きとしつつも、そこに掛け合わせているのは裏拍を強調したレゲエ由来のリズムギター。ギターソロのフレーズはハードロックに肉薄しており、ナイフのように鋭い音色はポストパンクに近い。そして全体を貫くのは、グランジの呪いを断ち切るような軽快さとパンキッシュなスピード感だ。初期ストロークスはそのミニマリスト的な演奏を解剖すると、通常ではありえない音楽的要素の組み合わせで成り立っているのがわかる。リリースから20年以上経ったいまもこの曲が古びていないのは、そこに理由の一端があるのかもしれない。


「The Adults Are Talking」(『The New Abnormal』収録:2020年)



『The New Abnormal』のオープニングを飾る「The Adults Are Talking」は、ストロークスが新たな黄金期を迎えていることを如実に伝える名曲だ。全体的な音の質感は、奇妙なほど無機質で、どこかレトロフューチャリスティック。ほとんどリズムマシーンみたいに聴こえるドラムサウンドを筆頭に、ロボットがストロークスをカバーしているような演奏はかなりエクストリームだろう。一方で、おそろしくスカスカなアレンジとクールなボーカルには初期ストロークスを連想させる懐かしさもある。過去を受け入れながら未来へと向かっているようなバランス感覚が絶妙だ。

音楽的進化を続けたいというバンドの野心と、古き良きストロークスを求めるファンの欲求――その両極の間でストラグルを続けてきたのがストロークスの歴史だとすれば、『The New Abnormal』は初めて揺れ動く天秤が均衡を保つポイントを見つけたアルバムだ。それゆえに『The New Abnormal』は、初期2作以来の傑作と呼ぶにふさわしい。


「Automatic Stop」(『Room On Fire』収録:2003年)



ストロークスの音楽性を語る際にレゲエからの影響は欠かせない。特に2ndアルバム『Room On Fire』以降はそれがわかりやすい形で顕在化している。たとえば「Automatic Stop」のイントロで聴ける裏拍を強調したリズムギターは、ストロークス流レゲエ解釈の典型例だ。リズム隊にレゲエのうねるようなグルーヴ感は希薄で、むしろ直線的でガレージロック寄り。それゆえにアルバムの他の曲とも違和感なく馴染んでいる。当時のインタビューによると、アルバート・ハモンドJrがこの曲のレゲエ風ギターで意識したのはシンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」。ジュリアン・カサブランカスのボブ・マーリー好きは有名だが、いざ自分たちの曲に取り入れるときは正統派レゲエをそのまま参照しない“ズラし”がストロークスらしい。そういえば、この頃のストロークスがライブのオープニングSEで使っていたのも「Girls Just Want To Have Fun」だった。

 
 
 
 

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