ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選【フジロック直前予習】

 
「Under Cover Of Darkness」(『Angles』収録:2011年)



長年バンドをやっていれば、良い時期も悪い時期もある。4thアルバム『Angles』は、ストロークスが一番バラバラになりかけていた時期の作品だ。このアルバムのレコーディングでジュリアンはメンバーが待つスタジオに顔を出さず、メールやファイルのやり取りだけで曲を完成させたという。メンバー間の空気は決して良いものではなかったに違いない。しかしそんな険悪なムードのなかからも、確かな輝きを放つ曲が幾つか生まれている。そのひとつがアルバムからのリードシングルでもあった「Under Cover Of Darkness」だ。

この曲は要するに、古き良きストロークスへの回帰。軽快なシャッフルビートは「Last Nite」や「Someday」へのオマージュであり、リードギターのフレージングは「Hard To Explain」にも通じる楽天的なフィーリングを醸し出す。だが、ヴァース→プレ・コーラス→コーラスときっちり展開する曲構成は、2nd以降に積み上げてきたソングライティング技術の向上なしにはあり得ない。間奏で一瞬スローダウンしたかのように錯覚させる、緩急をつけたアレンジの妙も、演奏家としての成熟を感じさせるだろう。

「誰もが10年間、同じ曲を歌ってる」という歌詞は、10年前の『Is This It?』のようなサウンドをいまだにファンから求められ、セルフパロディのような曲を作らざるを得ない状況に対する皮肉かもしれない。だがそんなジュリアンの忸怩たる思いとは裏腹に、「Under Cover Of Darkness」には10年前と同じような曲を作ろうとしても同じにはならないという事実、つまりバンドとしての確かな成長が刻まれている。


「Juicebox」(『The First Impression Of Earth』収録:2005年)



重戦車が砂ぼこりを巻き上げながら爆走するようなゴリゴリのベースラインはミスフィッツか? 『ピーター・ガン』のテーマか? この曲は、ハード&ヘヴィに変貌を遂げた3作目『The First Impression Of Earth』期のストロークスを象徴するトラックだ。ギリギリまでヘヴィメタルに近接したギター、グロテスクに歪んだベース、鋼鉄のようなドラム、フラストレーションを爆発させたシャウト――それらが混然一体となって突進する様は、ひたすら暴力的で重苦しい。

ワーキングタイトルが「Dracula's Lunch(ドラキュラの昼食)」だったことからもわかるように、曲名のJuicebox=紙パック入りジュースとはドラキュラから見た人間のこと。血がたっぷり詰まっている人間はさぞ美味しそうに見えるだろう。ジュリアン曰く、この曲で歌っているのはブラッドサッカー(血を吸う=搾取する人)について。ストロークスで一儲けしようと舌なめずりする業界人に対する苛立ちが隠せない、キャリア随一のブチギレソング。


「Welcome To Japan」(『Comedown Machine』収録:2013年)



ローリングストーン誌のロブ・シェフィールドの見立てでは、「Welcome To Japan」は「デュラン・デュランに負うところが多い曲」。5th『Comedown Machine』にはストロークスのレンズを通した奇妙な 80年代解釈が散見されるが、この曲もそのひとつだと言っていい。日本でのアバンチュールを歌うジュリアンの気怠いボーカルがセクシーな、ファンキーなノリのポップチューンだ。ちなみに歌詞の一節“What kind of asshole drives a Lotus?”は、シュールで笑えるパンチラインとしてファンや批評家の間で愛され/ネタにされている(意訳:ロータスみたいな“車バカ”向けの高級スポーツカー、どんなクソ野郎が乗ってると思う?……俺の愛車なんだわ)。

リリース時に一切プロモーションやツアーをしなかったので世間からスルーされた感のある『Comedown Machine』だが、いま振り返ると決して悪くはない。前作『Angles』のようなチグハグさはなく、バンドとしてのまとまりが感じられるし、新しい音楽的アイデアもある。次作『The New Abnormal』での完全復活を踏まえれば、このアルバムはストロークス再生の準備段階として必要不可欠な一手だったのかもしれない。


「Reptilia」(『Room On Fire』収録:2003年)



いまやライブのクライマックスに欠かせない、2nd『Room On Fire』が誇るストロークス屈指のアンセム。オーディエンスのアドレナリンを爆発させるハードなギターリフはライブで大合唱が巻き起こるほどアイコニックだが、コーラスで登場するカウンターメロディのアルペジオも実に効果的だ。艶めかしくてキャッチーなフレージングは、ガンズ・アンド・ローゼズの曲に出てきてもおかしくない。これがあるからこそ、間奏のハードロッキンなギターソロが自然に聴こえるし、一層映える。1stの曲よりダークでハード、だが同時にメロディアス。『Room On Fire』の目標は「1stとかけ離れているわけではないが、ちゃんと違いが感じられるものにすること」だったというが、「Reptilia」はその理想形のひとつだろう。

 
 
 
 

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