ザ・ストロークス、偉大な功績を振り返るための名曲10選【フジロック直前予習】

 
「Bad Decisions」(『The New Abnormal』収録:2020年)



4作目以降には、“みんなが好きなストロークス”像に寄り添った曲が必ずひとつは収録されている。現時点での最新作『The New Abnormal』においては、この「Bad Decisions」がそれに当たるだろう。

この曲を際立たせているのは、イントロから続くアルペジオのようなギターリフ。2コードのシンプルな構成だが、メロディアスで美しい。曲全体にメロウでロマンティックな情感を生み出している。リズム隊はグルーヴを保つことを重視し、2本のギターの絡みと展開でメリハリをつけていくという手法も、いまやお手の物だ。いわゆる“クラシックなストロークス”ソングでありながら、ベテランの風格さえ漂わせている。初期作にあったのがスリルと緊迫感だとすれば、ここにあるのは余裕と安定感だ。

ジュリアンの歌詞は、いまだに初期2作の幻影を追うファンとのテンションを歌っているようにも、パートナーとの関係を歌っているようにも、党派性によって分断された政治状況を歌っているようにも受け取れる。具体的なモチーフが何であれ、通底するテーマは“妥協を受け入れること”だ。おそらく誰もが人生を前に進めるためには妥協が必要な局面がある。誤った判断(Bad Decisions)をしたんじゃないかと不安に駆られることもあるだろうが、妥協が必ずしも悪い結果をもたらすとは限らない――やや踏み込めば、この歌詞はそんな解釈も可能だろう。ビリー・アイリッシュは『The New Abnormal』におけるジュリアンのワードセンスを称賛していたが、この曲の多様な解釈に開かれた言葉選びからは、確かにジュリアンのリリシストとしての成長が感じ取れる。


「You Only Live Once」(『The First Impression Of Earth』収録:2005年)



ストロークスの1stは後続に絶大な影響を与えたが、力作だった2ndはやや評価が振るわず、セールス面ではキラーズなどのフォロワーに次々と追い抜かれていく。その焦りもあったのか、3rd『The First Impression Of Earth』は筋肉質な音と洗練されたプロダクションへと向かった。つまりこれはアリーナロックへの挑戦だ。一方で曲のアレンジ自体は複雑化し、不協和音が増え、混沌とした空気が漂う。プロダクションのわかりやすさとアレンジのわかりにくさがぶつかり合い、あまり喰い合わせが良いとは言えない。しかし3rdを失敗作と簡単に切り捨てられないのは、ジュリアンのソングライティングがもっとも充実しているアルバムでもあるからだ。とりわけ「You Only Live Once」は珠玉のポップソングだろう。

3rdのなかでもアレンジは比較的に明快。ソリッドなリズム隊が曲を力強く牽引し、ギターは軽快なリフで彩りを添える。「Reptilia」以降に血肉化した手法である、コーラスでカウンターメロディを奏でるギターアルペジオもいい塩梅だ。そして、ボーカルメロディはいつになくポップでチャーミング。リリース当時、バンドはこの曲のリクエストをラジオ局に一斉に送るというプロモーション作戦をファンに呼びかけていた。ストロークスには珍しいキャンペーンだが、それくらいこの曲が秘めた“ラジオヒットを狙えるポップソング”としてのポテンシャルに自信があったのだろう。

今となっては、You Only Live Once=YOLOはドレイクが2010年代前半に流行らせた「人生一度きりだから好きにやろうぜ」というモットーとして有名だ。だがストロークスの歌詞は、「人は完璧にわかりあうことなど不可能なのだから、互いの違いを認め、争いをやめて耳を傾けあおう。だって人生は一度きりなのだから」と解釈することも可能だろう。ドレイクの享楽的なノリとは対照的に、ジュリアンのYOLOはビターで成熟している。


Last Nite (『Is This It?』収録:2001年)



当初、アメリカのモダンロックラジオ局は「ストロークスはローファイ過ぎる」と眉をひそめ、「こんなのリンキン・パークと一緒にかけられない!」と『Is This It?』の曲をオンエアのリストに入れなかった。しかしその無理解の壁を突き破って、とうとうラジオの電波に乗り、アメリカでのブレイクスルーのきっかけを作ったのが「Last Nite」だ。

トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ「American Girl」を下敷きにした、シャッフルビートのドラムとオクターヴ奏法のギターリフ。楽曲の根幹を成すのは、ほぼそれだけ。レゲエを意識して裏拍を取るリズムギターや、ギターとは微妙に異なるコード展開をするベースも効いているが、わかりやすいコーラスもなければミドルエイトもない。ただひたすら軽快なリズムとボーカルメロディのフックだけで駆け抜ける、究極のミニマリズム。ストロークス最大のアンセム「Last Nite」は、どこまでもプリミティヴでシンプル。だからこそ、一切の混じり気がない澄みきったクリスタルのように、このバンドの魅力がもっともピュアな形で凝縮されている。

胸が高鳴るダンスビートとは相反し、当時21歳のジュリアンは「人の悩みなんて理解できないし、俺だって気分が落ち込んでる、こんな気持ちは誰も理解してくれないし、自分でもどういうことかわからない」とナイーヴな苦悩を歌う。その音と言葉の強烈なコントラストが、この曲の美しさを一層引き立たせている。かつてピート・タウンゼントが言ったように、「いまそこにある問題から人々を逃避させるのではなく、対峙させ、同時にそれを忘れさせて踊らすんだ」というのがロックンロールの定義のひとつだとすれば、「Last Nite」こそが完璧なロックンロールソングと呼ぶにふさわしい。



ザ・ストロークス日本語帯付レコード
輸入盤国内仕様/完全生産限定盤
日本語帯+歌詞対訳付き


★2023年7月26日リリース
1stアルバム『Is This It?』(ブラック盤)
2ndアルバム『Room On Fire』(ブルー盤)
3rdアルバム『The First Impression Of Earth』(ヘイジー・レッド盤)


★2023年8月30日(水)リリース
4thアルバム『Angles』(パープル盤)
5thアルバム『Comedown Machine』(イエロー&レッド・マーブル盤)

予約/購入リンク: https://TheStrokesJP.lnk.to/Vinyl



FUJI ROCK FESTIVAL '23
2023年7月28日(金)29日(土)30日(日):新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ザ・ストロークスは7月28日(月)出演
公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

 
 
 
 

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