ザ・キルズが語る、ギターミュージックの新たな地平を開拓し続ける原動力

Photo by Myles Hendrik

 
ゼロ年代初頭にストロークスやリバティーンズが牽引したロックンロールリバイバルの一翼を担った存在――アリソン・モシャートとジェイミー・ヒンスからなるザ・キルズ(The Kills)に、そんな古臭い枕詞はとっくに不要だろう。彼らはデビューから20年以上が経った現在も果敢な音楽的前進を続けている。

ノワールで退廃的なガレージロックを世に問うた『Keep On Your Mean』(2003年)、エレクトロニックな質感を強めた『No Wow』(2005年)、ヒップホップ由来のビートを導入した『Midnight Boom』(2008年)、原点回帰と言われつつ、レゲエやダブも意識していた『Blood Pressures』(2011年)、そしてレゲトンやブラジル音楽にまで手を伸ばした『Ash & Ice』(2016年)と、彼らはアルバムごとに必ず新たな領域へと足を踏み出してきた。無論、その姿勢は2023年10月27日にリリースされた最新作『God Games』でも変わらない。いやむしろ、彼らはここで過去最高レベルの跳躍力を見せていると言っていいだろう。

大迫力のブラスサウンドと妖艶なギターリフが絡むアルバム冒頭の「New York」からして、過去作とは明らかにタッチが異なる。「Love and Tenderness」からはヒップホップ~トリップホップの匂いが嗅ぎ取れるし、「LA Hex」に至ってはダビーな音響の中でロックやヒップホップやマリアッチが混じり合い、さらにはゴスペルのクワイアが荘厳な空気を加えている。これほど多種多様な音楽を衝突させても情報過多にならないのは、どの曲も音数は絞ってミニマルに仕上げているからだろう。また、その音楽性を大胆に更新させる一方で、あからさまにデジタルな光沢を放つ音色は使わず、アナログの温もりを大切にしたプロダクションを採用し続けているのは、デビュー当初から一貫したキルズらしさを聴き手に印象付けるのに一役買っている。

今回ジェイミーとアリソンとのインタビューで印象的だったのは、ノスタルジアをきっぱり拒否する姿勢と幅広い音楽への好奇心、そしてギターミュージックの可能性に対する厚い信頼だ。それこそが、いまも彼らが新たな地平を開拓し続ける原動力となっているに違いない。




―あなたたちはアルバムごとに必ず新しいサウンドに挑戦してきましたが、『God Games』はこれまででもっとも大胆で、驚きのあるサウンドになっていると思います。

ジェイミー:俺はつねに、これまで聴いたことのない音楽的に新しいものを探していて、そうした要素を採り入れていきたいと考えているんだ。それが俺にとってはとてもエキサイティングなことだからね。でも、明白な方法でそれをやる必要は決してないと思っていて。例えば俺たちの2ndアルバム、『No Wow』もエレクトロニックミュージックとエレクトロニックギターを融合させたサウンドになっていると思うけど、それも決して明確な意図を持ってそういった方向性を取ったわけじゃない。後からアルバムを聴き返してみて、そうだったのか、と気付く感じだね。今回は、MFドゥームとか、『荒野の用心棒』のサウンドトラックみたいなカウボーイサウンドとか(笑)、それにメタリカみたいなアメリカっぽいサウンドを全部入れたかった。そういうものを聴いていたから。

―今回はギターではなく、アリソンはキーボード、ジェイミーはキーボードとトランペットのサウンドを使って曲作りをしたそうですね。それはソングライティングの時点からこれまでとは違ったものを追求したいという意識の表れだったのでしょうか?

アリソン:ごく自然な流れだったと思う。違うやり方も試してみたいとずっと思っていたから。ジェイミーが気軽な感じで「キーボードを買ってみたら?」と言ってくれたんだけど、私はすっかりキーボードに夢中になっちゃって。それで、全部の曲をキーボードで作ってみようと思ったんだ。これまでと違うメロディやリズムが浮かんできて、とても面白かった。これまでにキーボードを演奏したことさえなかったし、最初からキーボードで曲作りをしてみようと思って始めたことではなかったんだけどね。

ジェイミー:アコースティックギターでこれまでと違った曲を書くのって、なかなか難しいことだと思うんだ。アコースティックの音色以外の音を感じるには、想像力をめいっぱい働かせなければいけないからね。もちろん、自分の想像力を最大限に使って他の音色を聴き取ろうと挑戦することは好きなんだけど、それも長時間やっていると本当に疲れるんだ(笑)。ギターをかき鳴らしてみたり、ピッキングしてみたり、色々試してみたりして。俺はただ、違った角度から自分のサウンドを聴きたいだけなんだ。

アリソン:ラジオの番組に出演した時に、このアルバムの曲をアコースティックギターで演奏するのも面白かった。(ギターを使って曲を書いていないから)どういう風に演奏すればいいのか分からなかったりして(笑)。

ジェイミー:すごく良かったよね。まるで曲そのものを再発見したような気分だった。

―さっきジェイミーは、新作は多様な音楽を取り入れていると言いましたが、ゼイン・ロウとのインタビューでは「LAの街角でヒップホップやマリアッチやロックなど色々な文化の音楽が同時に聴こえてくることに刺激を受けた」と話していましたよね?

ジェイミー:それは、「LA Hex」という特定の曲について話したことだね。マリアッチとか、そういう音楽性とリンクした曲になっているから。



―その「LA Hex」でもそうですし、アルバム冒頭の「New York」でも、ブラスサウンドが効果的に使われています。ただ、いわゆる伝統的なマリアッチを連想させる使い方ではないようにも感じました。

ジェイミー:俺たちのサウンドはとてもミニマルだよね。音楽の中に空間があるような作りになっている。「New York」に関して言えば、ひとつの楽器で幾つもの楽器の役割を果たせるようなものを探していたんだ。そこで、チューバがパーカッションのような役割を果たせることに興味を惹かれた。チューバのサウンドを聴くと、どこか浮遊感を感じるというか。メロディとかそんなものじゃなく、もっとパーカッション的な、アクセントをつけてくれる面白さがあると思った。

アリソン:すごくリズム的だよね。

ジェイミー:ギター以外の色々な楽器の音を入れたいと思っていたんだけど、ギターは言ってみれば俺にとっては銃のようなものなんだ。銃をぶっ放して、また弾を込めて、少し沈黙を保ってからまた撃つという感じ(笑)。その中で、ブラスの持つリズムを使ってみたかった。パーカッションのような役割をトランペットにさせたりね。

Translated by Tomomi Hasegawa

 
 
 
 

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