村井邦彦が語る、「キャンティ」創業者・川添浩史を描いた著書『モンパルナス1934』



流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

2年前にリアルサウンドで小説の連載が始まった時に、この話はどういうところに進んでいくんだろう、どんなところに着地するんだろうと思ったのですが無事完結しましたね。予想を超えるボリュームと内容でありました。1930年代ヨーロッパ、パリという街がこんなにいきいきと描かれた日本の小説があったかなと思いました。主人公の川添紫郎さんだけじゃないですね。いろいろな人たちがとにかく登場してきます。アンドレ・マルローとかジャン・コクトーとか、ポール・ヴァレリーとか名前は知っているけどなっていうような歴史上の人たちとか、彼らがまだ若くて海のものとも山のものともしれない時に自分の夢とか未来を語っているんですね。青春小説でありながら、歴史や文化の勉強になります。

第二次世界大戦前の世界がどう動いていた。ヨーロッパがどんなふうにせめぎ合っていて、日本がどこにどう関わって、ヨーロッパから日本はどう見られていたのかということも主人公の口を通して語られているので、どんな歴史の教科書よりもリアルでドラマチックでヒューマンな物語になっているんじゃないでしょうか。で、同時に今のウクライナとロシアが戦っている世界、そして中国がああいう形で全体主義に向かっているという今の時代とすっぽり重なり合う、リアルでしたね。ファシズムも共産主義も同じなんだ、ヒトラーを信じるか、スターリンを信じるかだけでそこに自由はないんだという話を紫郎さんと周辺のまだ無名の人たちが語り合っている。そこに警察に追われたり、スパイがいたり、恋人がいたり別れたりというお話も加わる。本当におもしろい小説でした。それを受け継いだのがキャンティだったという、画期的な音楽本だと思いました。あえて音楽本と言ってしまいますが、音楽のことだけではないです。音楽を書くということは、こんなにいろいろなことが書けるんだという見本のような小説です。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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