アジカン後藤正文の〈Gacha Pop〉談義 海外で聴かれる「マジカルな体験」を広めるために

後藤正文、〈Gacha Pop〉

 

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)がホストを務めるSpotifyのポッドキャスト番組『APPLE VINEGAR -Music+Talk-』では、つやちゃん、矢島由佳子、小熊俊哉(本誌編集)というレギュラー陣とともに、ユニークな視点で音楽トピックや楽曲を紹介している。今回は同番組との連動企画で、日本のポップ音楽を世界に届けることを目的としたプレイリスト〈Gacha Pop〉をテーマに音楽談義。Spotify Japanの芦澤紀子氏をゲストに迎えて大いに語り合った。

※編注:本記事のポッドキャストは今年7月下旬に収録



後藤:まずは芦澤さんに改めて、どういう経緯で〈Gacha Pop〉というプレイリストが生まれたのかをお訊きしたいです。

芦澤:2020年くらいから日本のアーティストの楽曲がジャンルとか時代とか言語の壁を越えて海外のリスナーに届いていくという事例がたくさん出てきたんです。具体的に言うと、松原みきさんの「真夜中のドア」という40年前にリリースされたシティ・ポップがバイラルチャートで18週連続1位を記録したり、cinnamons × evening cinemaの「summertime」が東南アジアでのブレイクをきっかけに世界ですごく聴かれたり、ということが起きた。その後も、YOASOBI「夜に駆ける」、藤井 風「 死ぬのがいいわ」などが世界的にヒットしましたよね。

最初、これらは一見バラバラな現象のように見えていたんですけど、ストリーミングの浸透やTikTokなど動画投稿型のSNSが世界中に浸透し、プレイリストやアルゴリズムを通じてのリスニングが普通になった結果、海外の人が日本の曲を発見しやくすなり、地続きのクールなポップ・カルチャーとしてそれらを捉えられているのではないか、という仮説が出てきたんです。それを踏まえて、これまでになかった新しい言葉で日本のいまのクールなカルチャーを括って、海外に提示できたらおもしろいんじゃないかと考えた。そこで〈Gacha Pop〉というプレイリストが生まれたんです。

後藤:ワクワクする話ですね。昔は英語で歌わないと世界には通用しないと思われていたけど、YOASOBIが日本語で歌って、世界で聴かれているという状況はすごく素敵だと思います。藤井 風さんがアジアで聴かれてたりするのも最高だなって。



つやちゃん:ちなみに、〈Gacha〉はガチャポンのガチャからきているんですか?

芦澤:そうです。スマホのガチャ・ゲームが流行し、〈Gacha〉って言葉自体が世界に浸透してきているという話を聞いたので。日本のポップカルチャーを形容する言葉としてよさそうだと思ったんです。

つやちゃん:〈Gacha Pop〉は〈日本のポップ〉という括りはありつつ、サウンド面でのジャンルにはとらわれていないところがおもしろいですよね。

芦澤:むしろ〈Gacha Pop〉で取り上げたいと思った楽曲自体が、ジャンルという面でボーダーレスという印象でしたので、逆に均質化されていない、特定のジャンルにまとまっていないという魅力を先入観なく打ち出していけたらと考えていました。

J-POPはこれまでよくガラパゴスと揶揄されていたと思うんですけど、日本の音楽マーケットが海外ではなく国内に向いたものであったことで独自の発展を遂げていった結果、海外のリスナーから「こんなにおもしろい音楽が日本にあるのか」と発見され始めている。宝探し感というかワクワク感みたいなものを与えられているんじゃないかなと思うんです。ネガティブに思われてきたものをポシティブに捉え直す、そういう価値観の転換を提示できたらいいなというのはありました。

後藤:ガラパゴスの話はおもしろいですね。たしかにJ-POPのサウンドメイクと似たような音楽は、欧米の音楽シーンからはなかなか出てこないですもんね。

芦澤:Aメロ、Bメロ、サビ、そのあと大サビがあってといった展開はJ-POP固有のもので、グローバルには通用しないと言われていたこともあった。いまは逆にそれが新しく見えているんでしょうね。

後藤:そう思います。僕はJ-POPについて考えると村上隆さんのアートが思い浮かぶんですよね。ああいうポップさとか立体感、浮世絵や屏風絵から続いている情報量の多さ、水墨画の奥行きというよりは漫画に繋がっていくような表現というか。そういうところがJ-POPのサウンドと共通項があるような気がしていて。結局、グローバルでの受容をめざして日本人が英語で歌っても、逆に個性が見えづらくなってしまうし、世界競争のなかで存在感を示すのは難しい。海外の人が東京に来たら、やっぱり寿司とか天ぷらとか日本特有のものを食べたいわけで、世界中のどこでも食べられるようなものは食べないですよね。「ならでは」のものを楽しみたいという気持ちのほうが、海外の人も強いんじゃないかな。

 
 
 
 

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