アジカン後藤正文の〈Gacha Pop〉談義 海外で聴かれる「マジカルな体験」を広めるために

 
言語・ジャンル・時代の分け隔てなく聴かれる時代

矢島:もちろんアジカンの功績も〈Gacha Pop〉に無関係ではないですよね。日本のアニメカルチャーやアニソンが世界で人気になって、K-POPが世界的にブレイクして、という文化の流れがあってこその〈Gacha Pop〉だと思うんです。YOASOBIの「アイドル」がまさにそうですけど、今海外の人たちが〈Gacha Pop〉と呼ばれる日本の音楽を面白がっている要因のひとつとして、洋楽にはない複雑なコード進行や展開、構成がありますよね。K-POPはヴァースによってジャンルの違う要素を詰め込んでいくような構成を世界に浸透させたと思うんですけど、最近のJ-POPもその影響を受けているし、それまでのアニソンやボカロ音楽の要素も掛け合わせてより複雑で情報量の多い音楽を作っている。だから〈Gacha Pop〉は面白くてユニークだというふうに世界の人たちが受け入れてくれていると、一説としては言えるのかなと思います。

芦澤:K-POPは韓国語で歌っても世界で成功できるんだという前例を作ってくれましたよね。ラテンポップやレゲトンも近い現象だと思うんですけど、言語の壁がストリーミングによって崩れていくなかで、海外の人が日本語の歌をそのまま楽しめるようになっている。それこそYOASOBIの「アイドル」は、めまぐるしい構成のなかにK-POPに通じる展開もあれば、アニソンっぽいサウンドも入っている。そういう手法は日本ならではだし、その独自性がグローバルでここまで支持されるというのは、すごくおもしろい時代がきていますよね。



後藤:日本で作られた音楽が、欧米のみならずアジアやアフリカでも聴かれている。そういう可能性をSpotifyのようなストリーミングサービスが開いてくれた面もあるでしょうしね。

芦澤:リスナーのなかでも、何十年も前の曲であっても「出会ったときが新曲」という感覚が普通になっている印象です。新しい学校のリーダーズ「オトナブルー」が3年前の曲なのに今年に入ってからブレイクしたように、TikTokやYouTubeでバズが起きるのは新曲だけに限らないですし、たとえばCDの時代だと2週間で店頭の展開がなくなることもあったと思うんですけど、いまは時代とか世代を越えて発見される可能性が広がっていますよね。



矢島:夢という観点から言うと、まさにimaseは〈Gacha Pop〉ドリームを体現する存在のひとりですよね。岐阜の自宅で曲を作りはじめて、その1年後にはデビュー。「NIGHT DANCER」が大バズりして、韓国で人気者になり、遂にはLE SSERAFIMの曲「ジュエリー (Prod. imase)」を書き下ろしてナイル・ロジャースの曲と並んでCDに入るという。昔ではありえないかたちで夢を実現しているなって。もちろんそれは彼の感度のよさと、大人たちがマーケティング的発想でやっていることをナチュラルに楽しんでやってしまえる強みがあってこそだと思うんですけど。

芦澤:〈Gacha Pop〉でも「NIGHT DANCER」が突出して聴かれているんですよね。もちろんYOASOBI「アイドル」、米津玄師「KICK BACK」とか強い曲は多々あるんですけど、「NIGHT DANCER」は(昨年8月の配信リリースから)ずっと継続してトップパフォーマンスを叩き出してる。もともと韓国を起点にバズが起きて、それが世界に広がっていき、バイラルチャートでも36カ国でチャートインしていて、本当に勢いが衰えないなと。imase自身、K-POPのアーティストと一緒にコラボダンスを披露してみるとか、韓国のBIG Naughtyというラッパーとリミックスを作るとか、そういうアクションも早いですし、ついにはJUNG KOOK(BTS)が歌うというミラクルまで起きた。どこまで行くんだろうと楽しみに見ています。

矢島:SNS発のバズをロングヒットさせた、一番いい事例ですよね。SNSでバズったあとに細かく何をやるべきなのか、レコード会社のスタッフの方たちも「NIGHT DANCER」から学ぶものは多いだろうなと。



小熊:ヒットといえば、最近はXGの世界進出が目覚ましいですよね。彼女たちも〈Gacha Pop〉でプッシュされている印象ですが、芦澤さんはどう捉えていますか?

芦澤:XGは〈Gacha Pop〉のなかでは異色の存在ですよね。グローバル・スタンダードをめざして結成されたグループですし、歌やダンスのクオリティも圧倒的に高くて、歌詞も英語。「いままでにないレベルの日本人アーティスト」として、一部の音楽ファンの間ではデビュー当初から話題でしたよね。先日発表された「GRL GVNG」という曲もリリース週に70以上ものプレイリストに入っていたし、カバーも9つ飾っていた。どんどん記録を作っているアーティストですし、すごく注目しています。現状、彼女たちのリスナーは8割が海外なんですよ。特異なスタンスのアーティストだし、むしろ日本のリスナーにもっと聴いてほしいという気持ちで〈Gacha Pop〉に入れているところもあります。

つやちゃん:海外の方は、XGを「日本人のグループ」としてではなく、おそらく「K-POP」として受容していると思うんです。ねじれた構造になっていますよね(笑)。そういうグループが〈Gacha Pop〉に入ることで「日本発なんだ」と気づく人もいるだろうし、日本の音楽に興味を持つ入り口にもなりえると思う。プレイリストをきっかけに音楽の旅が始まることもあるでしょうし。



芦澤:New JeansもK-POPという感覚で聴いている人って実は少ないかもしれないですよね。特にデジタルネイティブの世代はジャンルレスな感覚で音楽を聴いているし、昔のCD屋さんでフロア分けされていたような邦楽・洋楽・K-POPみたいな区別はなくなってきているように感じます。出自や活動場所、何語で歌っているかは関係なく、音楽がよかったらいろいろな国のリスナーに刺さっていく時代になっていますし、日本からもその成功例が増えていってほしいなと。

後藤:いまはジャンルもフラットだし、時代もフラットに遡れるわけですもんね。70年代に出たものを新曲として聞くみたいな。ある意味ではヘルシーな感じがしますよね。「みんな好きなことやればいいじゃん」という時代になったとも言えるわけで。

 
 
 
 

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