アジカン後藤正文の〈Gacha Pop〉談義 海外で聴かれる「マジカルな体験」を広めるために

 
自分の音楽が海外に届くのは「マジカルな体験」

小熊:「〈Gacha Pop〉は新ジャンルになるのか?」と少し前に議論になってましたけど、そのあたりはいかがですか?

芦澤:新しいジャンルを作ろうという考えはなかったです。プレイリストをラベリングする名前として〈Gacha Pop〉と名付け、いろいろな日本のカルチャーを発信・紹介していこうというコンセプトだったので。J-POPという言葉を否定するつもりもなかったので、思わぬところで議論が起きたなというのはあります。

小熊:そんな反響もあったりして、〈Gacha Pop〉は5月9日のローンチ後、すぐに人気プレイリストの仲間入りを果たしたそうですが、リスナーは日本と海外のどちらが多いんですか?

芦澤:いまは約7割が海外からですね。当初は海外比率がもっと高かったのですが、その後は日本でも伸びてきています。もともとは海外向けのプレイリストという立て付けで、ここまでのロケットスタートになるとは想像していなかったですけど、「いいね!」の伸びが早くてびっくりしています。

後藤:海外のリスナーが多いのはすごいですね。それはみんな〈Gacha Pop〉に入れてもらいたいですよ。むしろ海外で聴かれている音楽を意識してセレクトしている感じですか?

芦澤:そうですね。エディターが各国の再生データなどをすごく見ていて、海外でバズが起きていたり注目されていたりする曲を積極的に入れるようにしています。どこかの国や地域でおもしろいと思われているものであれば、どんどんチャレンジして入れていくという姿勢ですね。

矢島:「このアーティストはまだ海外に届いてないけれど、きっとこれから届くに違いない」という観点でプレイリストに入れることもあるんですか?

芦澤:エディターの裁量でいきなり上位に入れることはないですけど、曲を加えてみて反応を見たりはしていますし、そこで反応が良かったらポジションを上げていますね。曲の発見される可能性を高めていくことには力を入れています。

小熊:ここまで名前の挙がったアーティスト以外で、「実は伸びてきている」というアーティストがいればぜひ知りたいです。

芦澤:最近急に伸びてきたのはチョーキューメイですね。あとはインドネシアが牽引していると思うんですけど、有華「Baby you」も人気が出てきています。ちょっと前の曲が注目されるパターンで言うと、なとり「Overdose」もロングヒットしていますし、あいみょん「愛を伝えたいだとか」がここにきてすごく上がってきていて。何がバズになるか予測できない感じになってきていますね。キャッチーな言葉が繰り返されているとか、日本語の意味がわからなくても訳を読んだときに共感されやすいとか、曲ごとに分析はできるんですけど、だからと言って意図的に仕掛けられるかというと難しい。

後藤:なるほど。狙ってできることではないと。でも、レコード会社や業界の思惑ではなく、リスナー主導のヒットが出るというのはいいですよね。






芦澤:あと以前は日本の音楽といえば、北米や中南米でアニメの曲を中心に人気だったんですけど、いまはインドネシアやフィリピン、タイなどですごく聴かれるようになっている。東南アジアの人々がトレンドセッターの役割を果たしているのもフレッシュだと感じています。

後藤:それも不思議な現象ですね。

芦澤:東南アジアの国々は人口も増えてきていますし、Spotifyのアクティブ・リスナーの数もすごい勢いで伸びていて。しかも、リスナーの平均年齢が低くて、10〜20代の人たちが、ちょっと前の曲、なんなら40年前の古い曲とかを聴いて「カッコいい」と受け止めているのもおもしろい現象です。

矢島:東南アジアはTikTokがプラットフォームとして人気でユーザーも多いので、他の地域よりも曲の拡散力が強い印象です。若い人たちの熱狂度合いというのはやっぱり大事ですよね。

後藤:ポップミュージックはユースカルチャーという面が大きいですしね。どうしても大人になると感度が鈍ってくるし、聴くものが固定化されちゃう。若い人たちのエネルギーが音楽を動かしますよ。俺も〈Gacha Pop〉に入りそうな曲を作ってみようかな(笑)。

小熊:最近も「ヒットしそうな曲を作りたい」という話をしていましたよね。

後藤:ヒットする曲というか、コンセプトとかに逃げないで、みんなのフィーリングに刺さる曲はどうやったら作れるんだろう、ということに興味があるんです。ずっと音楽をやってきたなかで、売れるというのがいちばん難しくて。本当にわからない。「リライト」がヒットするなんて思ってませんでしたからね。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONというバンド名も、アジアのロックバンドであることを意識して付けたバンド名だし、10代の自分はいつか欧米にも出ていけたらと思い描いていたわけですよ。その頃の夢に立ち返って、どんな曲を書くのがいいのかなって最近は思います。それこそ〈Gacha Pop〉の一番上にくるような曲を作ってみたいし、若い人たちが書いてる素敵な曲と張り合えたらいいなと。そういう意味でも刺激になりますよね。



小熊:アジカンは海外でもすごく聴かれてるわけですけど、やはりミュージシャンとしては、自分の作った音楽がいろんな国の人に聴かれるのっていいものですか?

後藤:自分の曲を遠くの街の人が聴いているのって夢みたいだなと、アジカンの初期から感じていましたよ。自分たちが作ったデモCDを広島とかで聴いている人がいるなんてすごく不思議だなって。それがいまや海外に広がっていて、行ったこともない場所で聴かれていることは本当に素敵なことだと思うし、実際に行って演奏する機会を持てたならば、 ミュージシャンにとってはもう特別な体験ですよね。僕も例えばメキシコシティに行って演奏したこと、ブエノスアイレスでライブをしたことは、一生の宝物だと思っています。それって本当に奇跡的でマジカルな体験なんですよ。この〈Gacha Pop〉に取り上げられているような若いミュージシャンも、この機会を使って世界に飛び出して、それぞれで素敵な体験をしてほしいですね。 キラキラしていて、美しくて、幸せなことだなと思います。

小熊:日本のバンドが海外でライブをしたら、海外でのほうが合唱の声が大きかったみたいな話も聞きますよね。そういう点に関しても、〈Gacha Pop〉を含めたストリーミングが寄与してる部分は大きいのかなと。

後藤:僕らも今度インドネシアで初めてライブをするんですけど(※8月18日に実施)、昔はインドネシアにファンベースがあるなんて簡単にはわかりませんでしたからね。そういうのがSpotifyとかを通じて可視化されたことで把握できるし、すごい可能性に満ちている。サブスクリプションはアーティストへの還元とかを含めて、まだ完璧なプラットフォームではないでしょうし、そこは引き続き議論しながらよりベターなものになっていくべきだと思うんですけど、ないよりは絶対にあったほうがいい。音楽がシェアされることに関しては夢のある時代になったし、〈Gacha Pop〉はその象徴のひとつと言えるんじゃないかな。


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