音楽ライター下村誠の遺稿集から辿る、ミュージシャンとしても生きた軌跡

海への風 / 下村 誠

田家:年表が載っていましたでしょう。あれがいろいろなことを教えてくれましたね。2006年に仏門に帰依していた。これは知らなかったですね。戒名があって愚然(ぐねん)。2004年頃に長野に移住していた。それは噂で知っていたんです。産業廃棄物反対運動に参加したり、自然保護、環境問題にも音楽で参加していた。

大泉: 1995年の阪神淡路大震災のあたりから、そういったことに目がいっていたんでしょうね。

田家:阪神淡路大震災の時に彼が書いた原稿もこの本の中に載っていて、“赤十字とか行政にいくら寄付をしても現場には回らないんだ、最新医療機器を買うところにしかお金が使われないから違うやり方をすべきだと。行政に何度お願いに行っても相手にしてもらえなかった”と書いてた。カンパ、寄付に対しての感じ方、現場にいなかったらああいうふうに書かなかったでしょうね。阪神淡路大震災の後に被災地で演奏した時のエッセイは素晴らしかったです。

大泉:阪神淡路大震災で神戸に行って地元の方の話を聞いて感じたことを記事にもまとめているんですけども、この1995年あたりがきっかけで環境問題、地球とか原発の問題とかに気持ちを向けていったんじゃないかなと思っています。

田家:冒頭でおっしゃった残された彼の歌を歌うというあのライブはまだやっているんでしょう?

大泉:そうですね。今年はちょうど十七回忌にあたるので、11月5日に下村誠 SONG LIVE「BOUND FOR GLORY」の十七回忌ライブということで開催予定になっています。

田家:どこでやるんですか?

大泉:神田にあるレタスというライブハウスです。

田家:あらためてこの本がどんな役割を果たせたらいいだろうと思っていますか。

大泉:この本を手にしてくれた方が世代を問わずお友だちとかご家族と音楽の話で盛り上がって、楽しんでもらえたらそれがすごく幸せだなと、まずは思っています。あとははじめにとか、『シンプジャーナル』の最後の編集長、大越さんのインタビュー終わりの方にも書いているんですけども、下村誠が書いた記事を通してその当時の音楽シーンのこととか紙面から溢れ出るエネルギーとか、そういうワクワク感を感じてもらえたらいいなと。今回、シバさんに原稿の転載をお願いをする時に、彼は絵を描く方でちょうど個展をやってらしたので会場に伺ったんです。そしたらシバさんが、アメリカにはロックンロールの歴史のまとまった本があると。でも、日本は本として気軽に読めるものとしてあまりないから、こういうものを読んで、若いミュージシャンとか音楽をやりたいなって人が、こういう歴史があったんだと感じてもらえるとうれしいなみたいなことをおっしゃっていたんですね。そういう本になるといいねっておっしゃってくださって、この本を出す意味をまたもう一ついただいたなと思いました。

田家:メジャーなところで活動していることが全てじゃないぞ、というような一つの再評価の入り口になればいいなと思いますね。ありがとうございました。

大泉:ありがとうございました。


左から、大泉洋子、田家秀樹



大泉さんから突然、下村さんの遺稿集を作りたいんです、協力してくださいって連絡があったのが2022年の夏突然だったんですね。もうほとんど彼のことは考えることがなくなっていたのですが、その時に僕ができることだったらなんでもやりますよって思わず言ってしまったのは、どこかで彼のことが気になっていたからだと思います。1980年代から1990年代、よく一緒になったんです。好きな音楽が似ていたり、彼の書くものに共感していたというのもありました。同時に彼がシンガー・ソングライターで、僕が好きなミュージシャンと一緒にアルバムを作っている。それがどこか悔しかったんでしょうね(笑)。

今回僕との対談も2本収録されているんですけども、そこもライターとしての話しかしていないんです。でも、彼は1990年代半ばから作る方に比重を移して、環境問題とか自然保護とかそういうところに参加して、自分でイベントも組んだりしていたとあらためて知りました。そして、最後は仏門に帰依していた。これはちょっとショックでした。そういうところにたどり着いたんだと思って、あらためて1990年代、彼は何を考えていたんだろうと本を読み直しながら思いました。先月お送りした90年代ノートの残されたピースの一つが埋まった感じがしてます。

メジャーのシーンが全てではなく、僕らも業界の中にいながらいろいろなところに目を配れない、知らないことがいっぱいあったな。何を見ていたんだろうな、俺は、みたいなこともありながら本に協力させていただきました。こういう人がいたんだ、こんな時代があったんだ、自費出版の本でそういうことを知っていただけると下村誠も浮かばれるのではないかな。僕もやるべきことをやったなという感じがちょっとしております。



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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