音楽ライター下村誠の遺稿集から辿る、ミュージシャンとしても生きた軌跡

鳥肌のアメリカ / 下村誠 with ザ・スナフキン

田家:1993年発売、アルバム名が『ホリー・バーバリアンズ』、聖なる野蛮人たちっていうことなのかな。

大泉:ですね。

田家:この曲を選ばれているのは?

大泉:下村さんの曲の中で、サウンドが一番好きかもしれない。

田家:バックのメンバーすごいですね。

大泉:すごいですよね。びっくりします。

田家:ギターが松田文さんで、佐久間順平さんがバイオリン。サニーボーイヒロトリアンという、ブルースハープにサニー・ボーイ・ウィリアムソンという人がいますけども、これはヒロトさん?

大泉:ですよ。間違いなく。

田家:そういうメンバーでこれをやっているという。

大泉:そうなんです。ギターももちろんかっこいいし、佐久間順平さんのバイオリンも素晴らしいし、ヒロトさんはヘローとかグッバイって言っているだけなんですけど、この存在感すごいっていう。

田家:彼がこういうアルバムを作っているのは知っていたのですが、すごいミュージシャンが一緒にやっていたというのも見ていて、実は嫉妬してたんですね(笑)。悔しかったなー。なんであいつはこんなことができるんだろうと思っていましたよ。理由は今なら分かります。そのことは原稿に書きましたけどもね。

大泉:それはぜひ読んでほしいです。

田家:「永遠の無垢」というタイトルがついた理由も明かされておりました。

大泉:この「鳥肌のアメリカ」は、1988年、東京経済大学の学生企画集団が企画した<明日のために その1都市生活者へのもう一つの視点>というイベントがあって、これを下村さんがサポートして、そこの学生だった村田博さんという人と親交ができて。

田家:詩人の諏訪優さんのイベントだったと。

大泉:最初は諏訪優さんと佐野元春さんの対談をお願いしたかったらしいんです。『現代詩手帖』の別冊でビート・ジェネレーションの特集号があって、その中で諏訪優さんと佐野元春さんが対談をしているんですけど、その続きをやってほしいと。諏訪優さんのところへ行ったんだけれども、佐野さんがこの時ロンドンにレコーディングに行っている時期で。こういうことをしたいんだったら、下村誠っていう人がいるからその男を訪ねてみるといいよって諏訪優さんに紹介してもらって会いにいって、すごく大きいイベントになったんです。

田家:その村田さんが下村さんと1989年に一緒にグレイハウンドバスでアメリカ横断をしている。この時の村田さんのエッセイが再録されていて、おもしろかったですね。オクラホマ生まれのヤンキーにウォークマンでエレファント・カシマシを聴かせていたという(笑)。下村誠らしいなみたいな(笑)。

大泉:本当に(笑)。

田家:その中に「永遠の無垢」という言葉が出ていたんだ。

大泉:『GU』という自費出版の雑誌があって、そこに掲載されていた村田さんの記事、下村さんがまだ生きている頃に書かれた記事なんですけど、その時に「次のアルバムは「永遠の無垢」というタイトルにするんだ」って言っていたみたいなんです。だけど、結局は「永遠の無垢」は使われることはなく、おそらく時期を考えるとそれが『セイクレッド・ソウル』になったんじゃないかなと。「永遠の無垢」から「聖なる魂」に。これは使われることなく、亡くなってしまったということと……。

田家:そういう意味では原稿の遺稿集というだけではなくて、彼がやろうとしていたアルバムのタイトルを使っている本。

大泉:そうですね。下村さんらしい言葉の選び方がするし。

田家:『路上のイノセンス』は無垢ですからね。

大泉:今回不思議なことにというか、田家さんも下村さんについての「追想」という原稿の中で「無垢な瞳」という言葉を使っていて。

田家:そう、偶然ね。

大泉:これ偶然なんですよね。でも他の人の話にも無垢という言葉がいくつか出てくるんです。

田家:やっぱり彼にそれを感じたんだろうな。みんな業界の垢にまみれていましたからね(笑)。大泉さんが選ばれたもう1曲、2002年のアルバム『風待ち』の中に入っている「海への風'02」これは違うバージョンで。

大泉:最初に発表されたのは1991年で、『Bird』というソロ・シングルがあったんですけれども、その中に3曲入っていて、3曲目に入っているバージョンで2002年のアルバムとは違ってギターの音がメインで入っています。

Rolling Stone Japan 編集部

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