音楽ライター下村誠の遺稿集から辿る、ミュージシャンとしても生きた軌跡

NOTHING COMPARES 2U / 白鳥英美子

田家:1990年のアルバム『Voice of mine』から「NOTHING COMPARES 2U」。下村誠の仕事という章で、このアルバムについて書かれている記事を選ばれている。

大泉:今回下村さんが書いた記事を集めて並べてみた時に、それまでちゃんと聴いたことのないアーティストもたくさんいたんですね。その中で一番「え!」 という新鮮な驚きがあったのが白鳥英美子さんだったんです。

田家:トワ・エ・モワですもんね。

大泉:トワ・エ・モワはもちろん知っているんですけども、小さい頃のヒット曲ですし、よく覚えてないですし、声の印象も全くなくて。下村さんが記事の中でこのアルバムを「バッハの「G線上のアリア」からプリンスの今かかっている「NOTHING COMPARES 2U」まで極端な選曲がされているが、全く違和感がないと」書いているじゃないですか。いやいや、バッハとプリンスに違和感がないわけないと思って聴いたら、本当に違和感がなくて……。白鳥英美子さんの凛とした歌声と世界観が合って、全く違和感がない。

田家:下村誠さんがそのアルバムについて書いた原稿がどこにあったのかと言いますと、1992年に発売になった『日本のベスト・アルバムーフォーク&ロックの25年』という本でこのアルバムについて書いていたんですね。

大泉:そうなんです。田家さん監修で(笑)。

田家:そうなんですよ。一緒に書いたのが『シンプジャーナル』の編集長だった大越正実さん、評論家の前田祥丈さん。そして高橋竜一さん、この間亡くなった藤井徹貫さん。で、下村誠さん、僕も書いていて、僕は監修になっているんですね(笑)。この本をあらためて手に入れて、下村さんが何を書いているのかも全部読み直して、この原稿をいいと思って再録している?

大泉:そうです。

田家:でも、ものすごい数の原稿があったんじゃないですか?

大泉:あの本だけで相当数あったと思います。あと、図書館で下村さんが書いている記事を探して、音楽雑誌を見ていく時に、もちろん全部見るんですけど、このへんの人を書いている可能性が高いっていう目安になってすごく助かったんです。

田家:そういう記事の中から下村さんがこのアルバムについて書いた原稿がよかったということで、大泉さんはこの曲を選ばれました。友部正人さんで「西の空に陽が落ちて」。



田家:1988年のライブアルバム『はじめぼくはひとりだった』の中の「西の空に陽が落ちて」。15周年記念ライブ。下村さんはこのライブに関わっていたんですね。

大泉:下村さんの十三回忌ライブに友部さんが出演されているんですけども、その時のブログを見るとこの企画そのものを立てたのが下村さんだったみたいです。今回初めて知ったんですけど、田川律さんが舞台監督をしていたようですね。

田家:「ニューミュージックマガジン」創刊スタッフの一人で関西フォーク系の大御所の評論家ですね。下村さんのバンド、BANANA BLUE。このバンドのベストアルバム『バナナブルーベスト』のライナーは友部さんが書いていましたね。それもこの本に掲載されていましたけども、これで知りました。

大泉:友部さんは他のアルバムでも書いてらっしゃるんです。

田家:下村さんの生まれは和歌山県の新宮ですから、友部さんもそうですし他に本の中に大塚まさじさん、シバ、高田渡さん、豊田勇造さん、西岡恭蔵さん、中川イサトさんについた原稿も再録されていますね。関西フォークはやっぱり近かったんでしょうね。

大泉:そうなんだろうと思います。やっぱり中学生とか高校生の頃にライブにだいぶ行っていましたね。春一番だったり、とても身近なミュージシャンたちだったんだろうなと思います。影響を大きく受けたんだろうなと。

田家:原稿の許諾というのは必要になるんでしょう?

大泉:最初に版元さんに一応全部ご連絡をして、「いいですよ」と。基本的にはアーティストの許諾はいらないのじゃないかとは言われたんですけども、やっぱり昔の記事ですし、中にはちょっとあの頃の記事は嫌だなって人もいらっしゃるかもしれないので。

田家:たしかにね。いるんです。

大泉:なので、一応ご連絡を……。70組全部連絡したわけではないんですけども。

田家:本を手に取られた方も、どうしてあのアーティストの記事がないんだろうと思う方もいらっしゃるでしょうが、それはそういう理由があったと思っていていいですね。そういう中で大泉さんが選ばれた今日の3曲目、真島昌利さんで「クレヨン」。

クレヨン / 真島昌利

田家:1989年11月発売、初めてのソロ・アルバム『夏のぬけがら』の中の「クレヨン」。

大泉:THE BLUE HEARTSと真島さんについてはもちろんこの本を作る前から知っていて、好きな曲もいっぱいあったんですね。真島さんの記事にTHE BLUE HEARTSのことも出ているんですけども、この記事を読んだことでより好きになって。『夏のぬけがら』を最初聴いた時は1曲目の「夏が来て僕等』とか、その後の「風のオートバイ」とか、そっちの方が好きだったんです。「クレヨン」はなんかかわいい曲だなぐらいな感じだったんですけど、この記事全体がすごく気になる記事で2~3回読んだんですね。それこそ、線を引いて読んだんです(笑)。

田家:うわー、ライター冥利に尽きますよ、それは。

大泉:「子どもがクレヨンを手に落書きを始める瞬間のときめき」ってここに書いてあるんですけど、「思考せずにぐんぐんと進めていく、ありのままの状態。そういうことがいつの間にかできなくなって、何度も何度も手を加え、完成を目指す大人のテクニカルなアプローチとのギャップ。それもとても簡単な言葉で書いた傑作である」とここに書かれているのが、本当にそうだと思って。自分の記憶にはあまりないですけど、小さな頃はもっと自由に描いてたよなとか、歌いたいと思ったら歌って、描きたいと思ったら描いて。だんだん大人になってくると、上手く描かなきゃとかになってくるじゃないですか。本当にその通りだと思って、この曲がこのアルバムの中で一番好きな曲になりました。

田家:さっき名前があがった人以外には伊藤銀次さん、エコーズ、吉川晃司さん、佐藤奈々子さん、ストリート・スライダーズ、ストリート・ビーツ、篠原太郎さん、ジュン・スカイ・ウォーカーズ、浜田省吾さん、ふきのとう、THE BLUE HEARTS、真島昌利さんなどの原稿も再録されております。

Rolling Stone Japan 編集部

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