音楽ライター下村誠の遺稿集から辿る、ミュージシャンとしても生きた軌跡

『音楽(ビート)ライター下村誠アンソロジー 永遠の無垢』

音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。

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2023年8月の特集は「最新音楽本特集」。PART3は、ライターでありながらプロデューサー、シンガー・ソングライターとしても活動した下村誠の活動を辿った『音楽(ビート)ライター下村誠アンソロジー 永遠の無垢』を編集の大泉洋子を迎え掘り下げていく。

田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター、田家秀樹です。今流れているのは下村誠さん、2002年に発売になった4枚目のソロ・アルバム『風待ち』の中の「森の魂・風の塔」。今週の前テーマはこの曲です。

森の魂・風の塔 / 下村 誠

今月2023年8月の特集は「夏休み最新音楽本特集2023」。今週はその3週目、『音楽(ビート)ライター下村誠アンソロジー 永遠の無垢』という本のご紹介です。下村誠さんという名前をご記憶の方はどれくらいいらっしゃるかなと思いながら話を始めておりますが、1970年代の半ばから1990年代の半ばにかけて音楽雑誌を中心に原稿を書いていたライターなんですね。一番多かった雑誌が「シンプジャーナル」、アーティストとしては佐野元春さん、甲斐バンド、浜田省吾さん、THE BLUE HEARTS、ストリート・スライダーズ、友部正人さん。ロック系・フォーク系を問わず、シンガー・ソングライター、バンド、個性的なアーティストの原稿を書いておりました。そういう意味で言うと、同じ土俵にいた僕の仲間。気取った言葉を使えば、年下の戦友。彼は東京を離れて長野の山荘に拠点を移して、そこで音楽を作るようになっていたんですね。2006年に火事になって、燃える自宅の中に大切なものがあると火の中に飛び込んでいってそのままあの世に逝ってしまいました。

彼が僕らと違っていたのは、ライターだったんですけれども、自分でバンドも持っている。インディーズのレーベル、NATTY RECORDSを作って、そこから自分の作品だけではなく、いろいろな人のシングル、アルバム34枚を発表しているんですね。ライターでありながらプロデューサー、シンガー・ソングライターだった。今日ご紹介する本は、彼が残した原稿を集めてそこに新しい要素を加えた遺稿集、彼の足跡を辿ろうという本なんです。編集したのは大泉洋子さんという女性です。下北沢のタウン誌とかアニメ雑誌で仕事をしていたフリーのエディター&ライター。出版社は虹色社と書いて、なないろしゃと読む。自費出版の本のお手伝いをしましょうという出版社なんですね。つまり、この本は彼女の自費出版なんです。一音楽ライター、インディーズアーティストについて自費出版しようという異例の音楽本ですね。下村誠とはどういうライター、シンガー・ソングライターだったのか、そしてこの本はどんな本かを編著者の大泉洋子さんをお迎えして紹介しようという時間であります。こんばんは。

大泉洋子:こんばんは。大泉洋子です。よろしくお願いします。

田家:ようやく発売になりましたね。あとがきのような形でなぜ彼の原稿をまとめたいと思ったかという経緯が書かれていましたけれども、2020年12月6日でしたっけ?

大泉:はい。十三回忌ライブの後から年に一回やっている下村誠 SONG LIVE「BOUND FOR GLORY」で、2020年の開催はコロナ禍だったので配信ライブをやったんですね。それを見ていて思ったんですが、でもその前に何年も助走期間みたいなものが実はあって。始めは本を作ろうなんてことは全く考えていなくて、むしろ音楽を誰か歌い継がないのかなとか。

田家:彼の残した歌を?

大泉:そうですね。でも私一人では……バンドのメンバーの人と繋がっていなかったので、というか繋がっていた人も長い間に連絡がつかなくなって。そうこうしている時に、2019年の十三回忌ライブがあったりして、だんだん機が熟していって。

田家:2020年にライブを観ていてやろうと決められたんだ。

大泉:「あ、私は本を作ろう」って思ったら止まらなくなっちゃったんです(笑)。

田家:今流れている「森の魂・風の塔」もいい曲だなと思ったんですけど、この曲についても本の中でお書きになっていましたね。

大泉:東京の日の出町にある産業廃棄処分場の森を守ろうという運動があって、その運動に歌で寄り添ったというか、ライブをしてカンパを集めるとか、CDを作って売上を運動資金に充てるとかしていたみたいです。

田家:タイトルになっている風の塔というのは、実際にあったという。

大泉:あったんです。本の中に、森の中にあった頃の風の塔の写真も小さく出ているんですけど、それが一回、東京都の行政代執行で移動されて、東京都のどこか倉庫に入ったままになって。実際に見に行って思ったんですけど、ただのシンボルというよりは精神的なものだったと思うんですね。なんとかあれだけは取り戻そうということで、カンパをするためのライブを企画してお金を集めて無事に取り戻した。それは今、日の出町に立っているので見に行ってきました。

田家:そういうこともやっていたシンガー・ソングライターだった。大泉さんが下村さんを知ったのはいつだったんだろうということで、きっかけになった曲をお願いをしましたらこの曲が上がってきました。佐野元春さん「SOMEDAY」。

Rolling Stone Japan 編集部

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